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先輩は『救急車が怖い』


僕は現実も大好きだが、妄想して現実逃避も大好きだ。
現実大好きなのに逃避?
なぜ、ここで逃避という言葉を使ったか。
現実であまりにもアクティブなイベントばかりあると本気で疲れるからだ。
不思議な事に、僕は楽しい思い出は過ぎ去ってしまうと楽しかったのか、楽しくなかったのかなんだかよく分からなくなってしまう。しかし、本当に心から疲れ切る事だけはしっかり覚えている。
その時は1ミリも笑えないのだが、後で人に話すと爆笑しあえる。
そんな疲れた時のエピソードを語る。

昔、よくつるんでいた先輩がいた。

先輩は、かんしゃく玉みたいな人だった。

富士山の山頂で、沸かすお湯より沸点が低かった。飲みに行った先で、隣の席の人と3秒で仲良くなったと思ったら1分後、そいつに掴みかかって「表出ろやこらああぁぁっ!!」突然乱闘してみたり、500円しかないのに女の子をナンパしにいったり、とにかく行動力しかないような人だった。
僕は事あるごとに「車をシャコタンにするから手伝え」だの「パチもんのブランド服を後輩に売りつけるから手伝え」だの「ねえ、部屋から出たくないから遊び相手になれ」などとちょくちょく呼び出されていた。

その日も「おい、ビール買ってこいや」と呼び出された。

ちなみに、僕んちから先輩の家まで車で30分以上かかる。

ここで普通の人なら絶対に断る。

しかし、上記で説明した通り先輩は弾けやすい。お酒を飲んでいるときはそれがさらに顕著だ。
断った瞬間、特殊部隊並のスピードで僕ん家に100%殴りこみに来るはずだ。
人生で確実に無駄になる行動力だけは無駄に人一倍ある。

僕は電話ごしで頷くしかなかった。

いつもの狂った要求に、眩暈を覚えながらも僕は500mlの6缶パックの雑酒(発泡酒より安いビールもどき)を買って先輩の家に向かっていた。
安い物を買った理由、僕のささやかな抵抗だ。

先輩の家に着くと先輩は近くのホームセンターに売ってる2リットル程度入っている焼酎を、我が子のように抱っこして愛でつつ焼酎をお湯割にして飲んでいた。

僕は先輩に頼まれたビール(もどき)を渡すと先輩は返す刀で
「テメエ、タバコが入ってねえぞバカヤロウ!!!」

僕は、頼まれていない事をやんわりと伝えると

「バカヤロウ!!酒飲んでる時っつーのはタバコの本数が多くなるんだから買っとくのが普通だろこのヤロー!!」

知らねえよ、コノヤロー!!
叫びたかったが、そんな事を言った瞬間に先輩の幻の左フックをもらうのは確実なので、僕は心の中でグッととどめた。

「あはは。まあ、僕のブンタン(セブンスター)ならいっぱいあるからこれでも吸ってよ」

「うるせえタコ!さっさとタバコ出せや!、、、、、ふぃー、、、美味え。」

テメエ、それが人にタバコ貰う態度か?ぶっ飛ばすぞ?
心の中の僕は、トイ◯ラスで暴れるク◯ガキ並に暴れていた。
温厚な性格の僕は現実ではプルプルと震えるコブシを抑え、ニッコリと笑っているだけだった。

その後、先輩と「グランツーリスモ」というゲームを2人で対戦していた。
その当時、2人でハマっていてお互いの車を対戦して遊ぶのがお決まりのパターンになっていたからだ。

その日もいつも通り僕はサラリーマンの接待ゴルフの様にギリギリの戦いをしながらも必ず勝敗は必ず先輩の方が多い様に調整した戦いをしようとしていた。

しかし、その日は先輩がお酒を飲んでベロベロになっているのでかなり調整が難しかった。
先輩は缶をシンナーを吸うかの様に咥えながら「ふごおおおおぉぉぉ!!!」と叫びながらコントローラーを握りしめ唸っていた。

途中、コーナーの多いコースを選択し、走っている途中先輩が

「いやー、こうゆうコースだと車酔いしちゃうよな〜っておごおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

と話している途中叫び出し部屋の窓を開けたと思ったら顔を出しおもむろに窓からゲ◯を嘔吐しやがった。
(食事中の方がいたらすみません。、)

「うわぁ、、、先輩何やってんすかぁ、、、」

僕はドン引きしていてほっといてゲームを続けていた。
しかし先輩が窓の外に顔を出したまま動かないでいたので

「先輩、いつまでも顔出してたら近所から白い目で見られますよ、、、、、ってうわあああああああああっっっ!!!!」

先輩はゲ◯を嘔吐したのでは無かったのだ。

よくよく見ると先輩は外に向かってカナリの量の吐血をしていた。

僕は慌てて目をつぶって動かない先輩に大声で話しかけた。
「せせせ、先輩!!!しっかりして下さい!起きて!!気をしっかり!!」

「ん、おぉ起きてるよ。」

「良かった!先輩、今すぐ救急車呼びますから!!」

僕は携帯から救急車にダイヤルする。

その瞬間

先輩に携帯を引ったくられた。そして先輩が手負いの狼の様な顔で

「バカヤロウ!!勝手に呼んでんじゃねーよ!!まだ勝負はついてねーだろーがこの野郎!死にてぇのか?殺すぞ!」

いや、『死にてぇのか?』は僕のセリフだよ!

「何言ってるんですか!先に病院の方が先ですよ!!」

「うるせえ!ちょっと血が出たぐれぇでバタバタすんじゃねえよ!!こんなもんはよぉ、酒飲んでアルコール消毒すりゃ余裕だよ。ザコが。ほら、席戻れ。」

先輩に逆らう事はイコール死を意味することは分かっていたので僕は黙って席に着き先輩とゲームを開始した。
先輩が血を吐いた理由。
先輩が当時アル中レベルでいつも酒を飲んでいた事が起因だ。とにかく四六時中飲んでいた。
当時、僕と先輩は同じ職場だったのだが、先輩が小刻みに震えている時は酒を飲むと不思議なくらいシャキッとしだし仕事もテキパキし出す。

ゲーム終了後も、先輩に病院に行くように誘うが
『まずは眠いから寝て起きたら行く』と謎の言葉を言い放ち、先輩はグースカと眠りやがった。

心配になった僕は、同じ敷地内に住んでいる先輩の両親に事情を説明するが両親から返ってきた言葉は

『本人が大丈夫って言ってるんだから大丈夫じゃね?』だった。

家族ごと狂っていやがる!

疲れた僕は、何かあったら病院に連れて行ってあげて下さいと伝え帰路についた。

その後も先輩はなんとか酒を辞め生き延びるのだが、バケモノの様な性格は変わらず、、、また次回の機会に書こうと思う。

ね?こんな事しょっちゅうあると疲れるでしょ?


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