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豊かさ、芸術、不二について

山登りが趣味の硬派な友人。彼は遠い彼の地で暮らしていて、普段は会うことがない。それでも、お互いのことを「腐れ縁」というように、どこからともなくLINEで会話がはじまり、冗談を言い合うような仲。数年前は、彼が一世一代の恋をして、また恋に破れるまでを、深夜の通話で支えた。彼は、女性というものがわからないと嘆いていた。

登山が好きな彼は、全国各地の山々を休日の弾丸スケジュールで登る。生死と向き合うような体験も登山の中で経験していて、それによって悟ったようなところがある。彼の中には、「慈悲」の心が深く根付いているような気がしている。かなり熱い男である。

つい先日、夜のドライブをしているときに彼からLINEの連絡が入る。登山の帰りでどうやら近くにいるらしい。すぐさまお互いの中間地点で落ち合う約束をして、深夜のガストで熱いトークが繰り広げられた。

テーマ「豊かさ、芸術、不二について」
登場人物:は(私)、と(友人)

は:最近、豊かさってなんだろうって思うのよねぇ。若い頃は自己啓発本を読んで金持ちになるのが豊かだって思っていたし、お金持ちになって良い車のってっていうステレオタイプの成功に憧れていた。でも今はなんか違うって思うんだよねぇ。まず、物が多いと執着も増えて、悩みも増えて、思い描いていたような金持ちって、執着が多くて、業が深くて、決して幸せじゃない。
と:たしかにお金じゃないっていうのは同意するけど、お金持ち特有の余裕みたいなのを感じる時がある。登山していると、装身具から明らかにお金持ちやろ!っていう人いるけど、独特の余裕がある。お金も時間もあって、登山で自然を愛でて、ある意味豊かやなぁって思うし、自分は底辺の人知ってるけど、全然余裕あらへん。時間もお金もないっていう人に、お金持ちのあの余裕はないわ。
は:それはわかる気がする。なんか貧困だと精神的に余裕ない人も多い気がする。それでも最近感じるのは、お金持ちにも2パターンあるような気がして、成金みたいな、貧困層からアメリカンドリーム的にお金持ちになったような人と、代々地主さんでずっとお金持ちだった人。成金みたいな人は、執着がつよい傾向にあるとも感じるし、実家がお金持ちで自由に暮らしている人っていうのは執着も少なく自由って感じするんよねぇ。登山のお金持ちは後者のような気もする。
それで思い出したけど、オノ・ヨーコとか草間彌生とか実家が裕福な家庭の芸術家って多い気がする。逆に自分の受けた傷から生まれるアートっていうものもあると思う。ゴッホなんかもそんなものを感じるんだけど、最近聞いた中沢新一っていう人類学者の講演で、心には言葉とかでできている二次過程の部分と、言葉では表せない無意識のレベルの一次過程の部分があって、芸術とかアートは必ず一次過程から迫り上がってくるものを表現したものだって言ったのね。傷っていうのは心の深くについているものがから、傷から発出されるアートっていうものもあると思うんだけど、実家が裕福な人が「好きにやっていいよ」とお金も時間も自由に使って、好きなようにやって生まれたものがアートって呼ばれるものがあるとして、それも心の一次過程から起こったものを表現し得たのならば、人の心を揺さぶるようなものになりうるだろうし、自分が芸術家なら後者の方がいいな。自由に作っていいよって言われて何も縛られるず、心の深いところからくるものを表現したい。
と:でも、傷から生まれた芸術やから人の心を揺さぶるのかもねぇ。でも心を揺さぶるものがあったらなんでも芸術なのかもなぁ。
は:ピカソが写実的な絵からだんだん抽象的な絵を極めていったっていうのすごい面白くて、心のニ次過程は言葉とかでできているから輪郭がハッキリしているんだけど、深くなるに連れて、「圧縮」と「置き換え」が起こるって中沢新一が言っていたけど、だんだんとメタ的な部分に迫ってくる。抽象になっていくつれて、意識レベルが深いところにいく。だからあの独特の絵を見ていると感じるものがあるのは、意識レベルが深いところ、一次過程から表現された芸術だってところだよね。
と:間っておもしろいな。車ひとつとっても、俺の乗っているジムニーとお前の乗っているエクシーガやったら、普通に考えたら違う車やけど、だんだん間をさぐっていくと、中間地点の子供が描くような車みたいな絵になるかもしれへん。
は:そうなんよねぇ。言葉って悪さしていると思わへん?椅子って言ったら椅子やん。でも旧石器時代の人が椅子見たら、遊び始めて、いろんな使い方すると思うで。「遊び」っていうけど。言葉で意味を限定されるんやなくて、こうも使えます、ああも使えますって、いろんなことができるって、深いレベルの圧縮っていうのと同じで、限定してない。だから木の枝葉の部分は言葉であって、根っこの部分には、さまざまに枝葉に分かれる可能性すべてが含まれている。不二って言うけど、二に分かれる前の可能性を孕んだ不二の状態っていいよね。
と:受精卵みたいなもんか。道具の多様な使い方っていうと、スマホはどうなん?カメラにもなるし、電話にもなるし、辞書にもなるし。そういう意味では可能性を孕んだ道具って言えるんちゃう?
は:それはたしかにそうやな。優れた道具ってさまざまな使い方ができることって思うけど。アプリをインストールしていけば、未だ知り得ない使い方ができるっていう点では不二である道具って言えるのかもしれんよなぁ。

まだまだ書ききれないが、深夜に熱いトークを繰り広げてあっという間の2時間弱。閉店の時間になってしまったので、駐車場でもトークを繰り広げたのであった…。 

つづく

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