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涙がこぼれそうだったのでしばらく虚空を見つめていた話

ビッグサイト東館の天井はとても高かった。

コミティアにはじめてサークル参加した日のことを忘れたくないのでnoteをとることにしました。

まず、みなさんはコミティアをご存知でしょうか。コミケ(コミックマーケット)なら聞いたことがあるかもしれない。ビッグサイト等の大きな会場で開かれる同人誌即売会で冬と夏にニュースにもなるインドア派達の聖地。ちなみに私はコミケにはまだ行ったことがないのです。なんか怖そうな印象だから。冬山を舐めた登山者が軽装で山を登るみたいに、素人が挑むと大事故になりそう(ただの思い込み)。その点コミティアはオリジナル作品オンリーで、まだビギナーにも優しそうなイメージでした。ただ実際には熱が渦巻いていてそんなライトな場ではないんですよってことをここで語りはじめると盛大に脱線しそうだからその話はまた日を改めることにします。

その夜はみぞれ混じりの冷たい雨が降っていた。

スーツケースを濡らしながら夜行バスが来るのを震えながら待っていた。死ぬほど寒かった。時刻は24時近くて、そんな時間に他の乗客とひとところに待っている状況がなんだか現実ではないようにも感じた。バスに乗ったら乗ったでまわりの乗客とひとつの生き物になったみたいな息苦しさと、暗闇の中での孤独さ、うわついた空調と足元の寒さ、ふわふわなイスは腰痛を悪化させて、早々にバスを移動手段に選んだ自分を恨むことになった。
なんでこんなことになったんだろう。ネット掲載でまったく奮わない自分の小説を手売りしに上京するためだ。オリジナル作品ははじめてだったのでしょうがない部分もあったが、興味のないひとにとってはまったく非生産的で愚かしい行為に映っただろう。行き先が都会であることだけが唯一の心の支えだった。

「3番出口がわからない。」「いや、そこに看板あるやん」

2時間も眠れただろうか。空虚で寒々しい東京の早朝に重すぎるスーツケースをゴロゴロと響かせた。眠くて空腹だったので開店したばかりのカフェになだれ込んで軽食を頼んだ。ハムサンドとカフェオレのセット。ハムサンドは小学校の家庭科授業で作るみたいなよく言えばシンプルなやつ。それでもありがたい温かさだった。店を出てもまだまだ時間があったので地下道をふらついていると出口のわからなくなった外国人が道を聞いてきた。いやいや、こっちも大荷物引いているのだから地元民には見えないだろう。散々ああでもない、こうでもないやりとりしても彼がどこへいきたいのかわからず、近くを通った清掃マシーンのおじさんにバトンタッチした。ごめんね。これから本を売りに行くので。 話が脱線気味。戻します。

キリっとした創造主

ビッグサイトの最寄り駅に降り立つと、視界の色んな方向から無数に集まってくる創作者の群れ。みんな一様に大きな荷物を引いていて、今から受験にいくみたいに真剣な目をしていた。やばいところに来てしまったかもしれないと思った。ふたりペアで楽し気に会話をしているひとたちを心底羨ましく思った。そうしているうちに館内へ。作りこまれた案内表示とスタッフさんの誘導。受付手続き順のゾーニング管理、明確なチェック方法、リスクマネジメント、どれも作りこみが半端ない。なにかひとつでも仕事に活かせる部分がないかスタッフさんをガン見していた。
会場内に入ると見渡す限りの空間に机が整然と並んでいる静謐な空気を感じた。なんかこれって宗教チックだなと思った。それもそのはずみんな自分の世界の創造主だったし創作は宗教だった。
配置されたスペースまわりは小説の方が多くてそういう島なんだと思った。イラストや漫画と比べてサークル数が圧倒的に少ないので、心の中で勝手に「同士よ・・」と一方的なシンパシーを感じた。たぶん気のせいだった。幸い自分のまわりのサークル様たちは雰囲気がよく、気軽に話しかけたりできる空気だった(その節はお世話になりました)。それでも熟練サークル様の店構えと比べて場違い感が相当にあったので、設営後フォロワ様と再会したときはすごい安心感を覚えた。ちょっとでも知ってるひとがいると勇気が出た。いよいよのコミティア開場。走り出す一般参加の群衆と、それを諫めるスタッフさんの声に緊張感が走る。いよいよはじまってしまった。もう逃げられない。

そのとき手は震えていた

結果的に、しばらくヒマだった。まわりの小説島は通路として使われている感じでスペースを見てまわっている参加者はいないように感じた。(実際熟練サークル様は最初から買い物に出かけていた。それ正解)やはりコミティアのメインはイラストや漫画なのだと思う。私もそう思う。だってプロの小説だって読むの大変なときあるのに書いてるのが素人なんだよ。しかも無名。初挑戦1作品目。忙しい時間帯、そんな小説に割く時間などない。ない、けども。

言い聞かせていても不安が込み上げた。「これ1冊ももらわれない可能性あるんでは」周囲のサークルさんで本が出るたびに焦りも出た。

開場1時間後、その時がやってきた。目の前での試し読み、そして最初の1冊目が手渡されるとき、私の手は震えていたと思う。昨夜からの不安や重圧が肩から抜け落ちて手を震えさせていた。

「ありがとうございます」

一生の中で、こんなにも心の底から感謝したことがあっただろうか。開場に来てくれて、なんだかよくわからんやつのスペースに立ち止まってくれて、中身を読んでくれてそれでお金を払ってもくれた。その奇跡に感謝した。言葉にならない感情が押し寄せて、ふいに天井を見た。涙がこぼれそうだった。

「歳をとって涙もろくなるのは涙を抑えている筋力の低下」

必死で誤魔化そうとしたが心は騙されなかった。世界に赦されてしまった。その感謝でいっぱいだった。もうちょっと生きててもいいかなと思った。でもその後数冊売れて、そのたびに天井を見上げていたからさぞ変な奴だったろうと思う。

そんなお話でした。参加してよかった!

おまけだよ

もう少しだけ書くと、どうしても気になってそのあと「試し読みコーナー」にいってみた。どんなふうに本が置いてあるのか見たかったし、他の方の本も開いてみたかったから。小説島の展示スペースに行くと、多くの見本誌にまじってすぐに自著が目に飛び込んできた。卒業アルバムの集合写真の中で好きだった子がすぐに見つけられるみたいな速度に近かった。
しばらく近くにいたら、自著を手に取って読んでくれた方がいた。心底嬉しかったが、すぐさま「やべえ!ここにいたら渡せないじゃん」と思い急いで自分のスペースに戻った。でも結局彼はこなかった。世の中はそんなに甘くはなかった。

後半暇を持て余して一般参加者を観察していて気づいたのは、ひとつのスペースに掛けてもらえる時間は0.3秒もないということ。その一瞬で興味をひけなければノーチャンスにも等しい。熟練サークル様ほど展示物を上げて、参加者の目線に近づけていたのが印象的だった。文字は大きく、目線に近づけて、白地が読みやすい。スペース全体に雰囲気を統一したブランディングも効果があるように感じた。でも声掛けは正直むずかしい。私みたいなチキンだったらかえって引いてしまうこともあると思う。でもあの場は本屋さんではないし、一般参加者もヒマつぶしに来ているわけでもないから、アリと言えばアリなアプローチなのかもしれないと思った。回を重ねながら少しでも「みてもらえる努力」をしようと思った。

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