林 草多

ひっそりと小説を書く社畜。 日ごろ感じたこと、読んだ本の感想や、作品になれなかった小さ…

林 草多

ひっそりと小説を書く社畜。 日ごろ感じたこと、読んだ本の感想や、作品になれなかった小さな世界の置き場として使っていきます。

最近の記事

煙の園

由香里がその名も知らぬ駅前のカフェに着いたのは ちょうど夕暮れから完全な夜へと切り替わるそのタイミングだった。 こぢんまりとしたテーブルに片肘をつきながら外を眺める。 ガラスの向こう側には、大通りを傘を差しながら伏せ目がちに歩くサラリーマンの姿があった。 そういえば、雨が降っていただろうか? テーブルの端にぶら下げられた草模様の傘は確かに濡れていた痕があるが、自分がどのようにこの店にたどり着いたのか全く覚えがない。ずっと頭に響いているのは、昨日の晩、電話越しに聞いた誠の

    • 私の命日

      きょう、6月14日は私の命日でした。 その日はとてもよく晴れていて、みんなにとってはなんでもない1日がゆっくりと流れていました。私は病院のベッドに固定されたまま、もう随分意識が戻らなくなっていましたが、かわりに身体を離れて散歩ができるようになっていました。 知っていましたか?身体から離れても壁や物をすり抜けたりはできないこと。もしそうなったら図鑑に描いてあるみたいに地面のさらにそのむこう、マントルまで潜ってみたかったのに。残念です。 私は3階建ての病院の屋上でその時を静か

      • 涙がこぼれそうだったのでしばらく虚空を見つめていた話

        ビッグサイト東館の天井はとても高かった。 コミティアにはじめてサークル参加した日のことを忘れたくないのでnoteをとることにしました。 まず、みなさんはコミティアをご存知でしょうか。コミケ(コミックマーケット)なら聞いたことがあるかもしれない。ビッグサイト等の大きな会場で開かれる同人誌即売会で冬と夏にニュースにもなるインドア派達の聖地。ちなみに私はコミケにはまだ行ったことがないのです。なんか怖そうな印象だから。冬山を舐めた登山者が軽装で山を登るみたいに、素人が挑むと大事故

        • 電車の子

          「なんかさ…このあいだお父さんが女の人連れてきててさ。」 「うん?サイコンする人?」 「それはーまだわかんないんだけどさ。なんかそのひとがさ。ヴィトンの財布使っててさ。」 「うん。」 「今どきヴィトンの財布ってなくない?」 「そう?バイトしてるときたまにいるけど。」 「んーまでもさ、そういうので固めちゃう人ってさ、なんか、やだなって。思ってさ。 」「なにが?」 「だってやじゃない?お店とかでさ、見せびらかすみたいに取り出したりしてさ。」 「んー あんた思春期だわ。」 「え

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