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目がないもの

夫は某老舗メーカーのスナック菓子『カール』が大好物である。特にカレー味が好きなのだが、ここ最近は売られていないらしく、やむを得ずチーズ味で『我慢』しているそうだ。
『らしく』というのは、私が購入するわけではないからである。このスナックのファンの方ならご存知だと思うが、ここ関東では何年も前に販売終了している。
ところが夫の勤務先の購買部に、このカールが時折入荷する。本社が関西にあるため、そちらから入荷できるらしい。役職者にカール好きでも居るのだろうか。何故わざわざこちらに入荷するのか、夫にもよく分からないそうだ。

入荷は時期、量ともに不安定で、店頭に並ぶと結構な数の社員が我先に買っていくらしい。関西からの転勤者が多いせいもあるのだろう。夫もそのうちの一人で、買えた日は通勤鞄をカールでパンパンにして、えびす顔で帰ってくる。
れっきとした還暦のオッサンだが、駄菓子屋で当たりを引き当てた子供のような表情である。

何週間も入荷がないと、夫は『カール切れ』による『禁断症状』?を起こす。戸棚の中のいつもカールを納める場所を見ては、しょんぼりとため息をつき、やたらと棚の扉を開け閉めする。そんなことしてもないっちゅうに、と背中に向かって密かにツッコミを入れている。
やむなくベ〇ースターラーメンやカレー煎餅などで気を紛らそうとするが、カールの魅力には到底及ばないらしく、
「ああ、カール食いたいなあ」
と独りごちる。
私はあの粉末とうもろこしの独特の匂いがどうも好きになれないので、理解しづらい。

ところが最近、カール以外に夫が夢中になるスナック菓子が現れた。
京都にある天狗製菓の『ピリカレー』である。
カールとは似ても似つかない。カールというより、かっ〇えびせんに似た形状だ。主原料は小麦粉だから、カールとは全く違う食べ物である。
これは夫が出張中、京都で宿泊した時にふらっと立ち寄った百円ローソンで発見した。
関西でも、何故か普通のスーパーには置いていなかった。関西のメーカーだし、こちらにはないだろうと思っていたら、なんとダ〇ソーで取り扱いがあった。夫は大喜びで、時折帰宅途中にあるダ〇ソーに立ち寄っては、やっぱり通勤鞄をパンパンにして帰ってくる。やっぱり清々しいほどのえびす顔である。
私が買って帰っても良いのだが、スーパーとは別の店に立ち寄るのはイチイチ面倒くさい。なので夫に任せている。
一日一袋のペースで消化していっているので、我が家のプラスチックゴミには、いつもかなりの数のピリカレーの袋が入っている。誰が見咎めるわけでもないけれど、ちょっと恥ずかしい。

駄菓子に『味カレー』(大和製菓)という小さな袋菓子があるのをご存知だろうか。ピリカレーはあれと非常に似ているが、あれよりもっとカレー粉がたっぷりまぶされていて、かなりピリッとくる。お子様用ではないということだろう。
カレー粉のまぶし方はどうやらかなりランダムなようで、袋によってえらく辛いのや、逆にむちゃくちゃあっさりしたのやら、色々ある。
昔は透明のビニール袋に入っていたが、最近はアルミの袋に変わった。ビニール袋の時は外から見ると粉の量が分かるので、より辛いのを食べたい夫はよく吟味してから買って帰っていた。
見えなくなった最近は、ロシアンルーレットのようだと言っている。でもそれも楽しみの一つらしい。

ピリカレーを愛するようになっても、夫のカール愛が冷めたわけではない。未だに入荷があれば絶対に買って帰ってくる。しかしピリカレーも切らさない。
お陰で我が家のお菓子棚は、カールとピリカレーで埋め尽くされている。
因みに天狗製菓は元々、横綱あられの製造を行っている会社のようで、今でも主力商品はそちらである。あのランダムなカレー粉のまぶし方から考えると、とてもアットホームな、こぢんまりした会社なのかなあ、と勝手に想像している。
そろそろ戸棚のストックが減ってきた。今日くらいに補充するつもりかな?
それにしても食べ過ぎには気を付けて欲しいと思う。