在間 ミツル

エッセイスト。身の回り半径3m以内で起きたこと、感じたこと、考えたことを綴ります。 お…

在間 ミツル

エッセイスト。身の回り半径3m以内で起きたこと、感じたこと、考えたことを綴ります。 お気に入り記事は有料で公開(不定期)。申し訳ありませんが、諸事情により2024年4月以降当面コメント返し出来ません。

マガジン

  • My Favorite Works

    私の心に響いた素敵な記事。笑いあり、涙あり、感動あり。忖度なし、下心なし、計算なしで私が読み返したくなる作品ばかりです。

  • 夫と私

    多動、整頓ベタ、デベソ、異常な集中力、の夫とのすっとこどっこいな日常です。

  • 忘れられない先生まとめ

    私の出会った個性的で人間味溢れる先生方の思い出です

  • クラリネット諸々

    愛するクラリネットとの関わりあれこれを綴りました。

  • 関東と関西

    関東に住む関西人の感じた事を綴りました。

最近の記事

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海は必ず凪ぐ

ちょっと前まで、私は夢なんて持っていなかった。この歳で夢を語るなんて、バカげたことだと思っていた。そしてどうやって死にゆくか、いかにこの世に未練なく、きれいさっぱり自らの生きた恥ずかしい痕跡を消すか、そんなことばかり考えていた。 世の中は怖くて厳しいもので、生きることは辛く苦しいもの。他人は先ず警戒し、おそれ、避けるべきもの。そんな風に感じていた。 この世は限りなくグレーで、自分はその中で辛うじて生存を許されている存在、ぼんやりとだが、そんな気がしていた。 上手く行かないこ

    • 男同士の話

      若い頃の職場の上司に、Kさんという人がいた。内勤の課長補佐で、仕事の出来る人だった。 根っからのスケベで、今だったら完全にセクハラになるような行為を、しょっちゅう私達女子行員にやっていた。すれ違いざまに『オハヨ』と言いながらお尻をスルっとなでるのである。近づいて来るとみんないつも身を躱すようにしてすれ違うように心がけていた。 なのに憎まれない、不思議な人だった。 見た目は映画『ツインズ』のダニー・デヴィートのよう。小柄で頭がやや薄く、太目でもあった。 しかしそんな外見とは裏

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      • ヒロイン気分に夢中

        子供の頃過剰に制限されていた反動か、この歳になって漫画を読むのにハマっている。スマホでは沢山の少女漫画(という呼び方が今や正しいかどうか?)が読めるので、楽しみに一話ずつ読んでいる。気に入って購入した話もいくつかある。 いい歳をして「漫画に夢中なんです」などと公言するのは憚られるが、面白いものはしょうがない。ストーリー展開が凝ったものや、絵が綺麗なものがお気に入りである。 いくつも読んでいると、自分の好きなストーリーや設定に一定の傾向があることに気付く。 先ずは主人公に『か

        • 常に神対応な人々

          「もう、あのお客さんなんなの?腹が立っちゃって」 「わかる~何様よねえ」 「ひっどいよねえ」 仕事を終えた後の更衣室では、こんな会話がしょっちゅう聞かれる。愚痴大会に参加こそしないが、どこのレジも大変だよなあ、と思いつつ、聞くとはなしに聞いている。 腹を立ててもしょうがないとは言うものの、どうしてもつい同僚に二言三言、こぼしたくなってしまうのだろう。気持ちは分からないでもない。 しかし我が店には一箇所だけ、こういった愚痴をほぼこぼさない、まばゆい人の集団が存在する。サービスカ

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        記事

          幸せの五本指ソックス

          外反母趾に永らく悩んでいた私は、ここ数年五本指ソックスを愛用している。昔は関心が全くなかったので、どんなデザインや材質のものがあるかなんて知らなかったのだが、驚くくらい豊富な種類があり、買う時にはいつも迷ってしまう。 仕事の時に履くものは酷使することになるので、三足いくらでウチの衣料品売り場で売っている安いものにしている。我々従業員は靴下とパンティストッキングは『必需品』とされており、購入する時に社員証を提示すればお値段に関わらず必ず一割引き、という大変お得なシステムがある。

          幸せの五本指ソックス

          何が不適切か

          職場や趣味の集まりなど、多数の男女が同時に顔を合わせる所では、所謂『不適切な関係』のカップルを見かけることが結構ある。 社会的に許されるか、とか倫理的にどうか、とかは、現在の私は一切気にならない。そのことによって周りに迷惑をかけたり、不快感をまき散らさない限り、ご本人たちが好きになさればいいと思う。泥沼に陥ろうが、血塗られた修羅場を迎えようが、私の知った事ではない。それぐらいお分かりの上でそういう選択をしておられるのだろうから、敢えて批判的なことは言う気もない。 特に不快感も

          何が不適切か

          溶ける笑顔

          私の父は厳しい人である。でも温かいところもあるし、実は底抜けにお人好しで優しく、涙もろいところもある。でもそれを表に出すのは物凄く苦手な人である。要するにシャイ、ということだ。 子供時代の私は、父のそういう不器用な優しさを具体的に指摘することは出来なくとも、なんとなく肌で感じてはいた。そしてなんとか世間の人にもわかるくらい、父が表面にその本来の優しさを表してくれないものか、と切実に願っていた。 しかし、『家長たるもの、婦女子にベタベタと甘い顔を見せるものではない』という、な

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          マシュマロはこちら

          良いお天気が続き気候が安定してきた休前日、食品売り場で働いていると、高確率でお客様に置き場所を尋ねられる商品がある。 マシュマロだ。 あの、フワフワした、あんまり個性の強くないお菓子は、普段はそんなに売れない。物凄く美味しいとか健康に良いなどの話は聞いたこともないし、子供が大好きという訳でもない。 なのにこの時期だけ、マシュマロの棚は凄いスピードで空になる。 理由が分からず、永らくどうしてなのだろう、と思っていた。 我が家にはそんな習慣はないので知らなかったのだが、どうも皆さ

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          あるご常連

          昨日の朝、いつものように店の中央通路沿いの棚を掃除していたら、 「おはよう。お久しぶりね」 と後ろから声をかけてくれる人がある。 ここ関東に住んで僅か三年目の私に、『お久しぶり』なんて言われるほどの出会いはまだない筈なんだけど、と思いつつ振り返ると、背の曲がった小柄な老婦人がニコニコしながら立っていた。 暫くお見掛けしていなかった、ご常連である。 「あ、おはようございます。お元気でしたか?」 私も手を止めて笑顔で話しかける。かなり小柄でいらっしゃるので、自然に腰を屈めるような

          あるご常連

          私なんか病発症中

          今でも私はしょっちゅう、『私なんか病』にかかってしまう。 私なんかたいしたことない。私なんか○○できない。私なんか取るに足りない存在だ。私なんか魅力がない・・・ こういう、鼻水と一緒にティッシュに包んで、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱に入れてしまいたいような気分が自分を覆い始めると、実際に色々上手くいかなくなってくる。そして本当に自分のちっぽけさや色々出来なさ、魅力のなさ、を眼前に突き付けられて、自分に愛想が尽きてしまう。 以前と違うのは、ここで沼に落ちていくのではなくて、そう

          私なんか病発症中

          同じ轍を踏む

          今日は夫が在宅勤務で、私は出勤日である。こういう日の朝は猛烈に忙しい。 夫の出勤時間は午前七時である。時報とほぼ同時に家を出て行く。この後すぐに私は掃除に取り掛かる。だいたい一時間程度で終わるので、その後に皿を洗ったり、ゴミを出したりという家事を片付けて、八時半の出勤時間までに少し余裕がある状態が望ましい。 ところが在宅勤務だと、いつもの出勤時間に夫が起きてくる。洗濯はやや早めにするが、朝食もいつもより一時間くらい遅いスタートになる。片付けも、掃除も、全てが一時間近くズレるの

          同じ轍を踏む

          ドルチェ

          私は永らく『dolce(ドルチェ)』の表現が苦手だった。レッスンの度に先生に、 「そうじゃありません!ただ弱々しく吹いたらドルチェ、って訳ではないっていうのはわかりますよね?」 としょっちゅうダメ出しされていた。 吹奏楽の楽譜にも出ては来るが、頻度は高くないと思う。どちらかというと室内楽の、クラリネット一本とピアノ、と言ったような曲に多く出てくる表現である。 イタリア語で、本来の意味は『甘美な』とか『甘い』などだ。音楽限定の用語という訳ではなく、お菓子などの食品などにも使われ

          三千万円の饅頭

          若い頃、銀行の営業職をしていた時の話である。 お客様のところに伺う時は普段は車を使用していたが、近いところはかえって効率が悪い為、自転車を利用していた。小回りが利くから、こっちの方が便利なのである。 その日も自転車に乗っていた。店の近くの大きな交差点で信号待ちをしていると、私の目の前に紙切れが数枚、風に吹かれて飛んできた。見ると、一枚は水道料金の納付書のようである。納付者欄には近くの会社名が書いてあった。経理担当の人が銀行に収めた帰りに落としたのかしら、と思い、風に舞っていた

          三千万円の饅頭

          孤独な呑兵衛たち

          開店前の掃除の話はよく書かせてもらう。実に様々な『遺留品』があって、いつも掃除しながら想像を逞しくしている様子も以前に書いた。 毎度で恐縮だが、今日もそんな『朝の遺留品』の話である。 どこもそうだと思うが、売り場内にはどうしても、『死角』になる場所がいくつか存在する。そういうところには高額商品は置かず、ウチだとベランダ用のサンダルや、季節外れの、半額以下の投げ売りになった商品を突っ込んでいるワゴンなどが無造作に置かれている。朝の掃除はちゃんとするが、日中は商品整理もそれほど

          孤独な呑兵衛たち

          二つの背中

          先週のことである。 出勤していつものように課の伝達ノートを開くと、前日の欄にYさんの字で以下のような珍妙な内容の書き置きがあった。 『本日○○様というお客様から、「試着した帽子をそのまま被って帰ってしまったので、明日朝一番でお返しに伺います」というお電話がありました。朝番の方、対応よろしくお願いします』 朝番の方、というのはつまり私である。はあい了解です、と言いながら判を押してノートを閉じた。 それにしてもどういうことだろう、と首をかしげてしまった。 かっぱらうつもりはなか

          先生のくじ運

          子供が四年生の時の担任は、K先生という年配の女の先生だった。 「今度の担任だれ?」 とママ友に訊かれたので答えると、彼女は顔を曇らせて 「わー、気の毒。ハズレだったねえ。去年病欠してた先生でしょ」 という。 「え?知らんかった!病み上がり?身体弱いのかな?」 と訊くと、 「違うって。心の方。一昨年担任したクラスが学級崩壊して、それで病んだって噂やで」 と聞いてびっくりし、大丈夫かと不安になった。 四年生最初の日、帰って来た子供に 「どんな先生?」 と訊くと、 「普通の先生。

          先生のくじ運