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屋外は辛いよ

オーケストラと違って、吹奏楽には屋外での演奏、というのがつきものである。まあ最近はオケでもヨーロッパの真似事をして、屋外公演なんてやってるが、野球場のアルプススタンドなんてところには行かない。
そこへ行くと、所謂『賑やかし』『鳴り物』としての役割を期待されるのが吹奏楽の辛いところ?でもある。

何が辛いか、と言えば色々あるが、なんといってもお天気である。
暑い、寒いは人体は勿論だが、楽器の敵である。とくに私達、木で出来た楽器族(オーボエ、ファゴット、クラリネット、ピッコロ)は出来れば酷暑と酷寒は避けたい。楽器が温度差で割れるからだ。
中学生の時、国体での演奏に参加したことがある。真夏ではなかったように記憶しているが、結構なカンカン照りだった。先生の指示でタオルを一枚、待機時間に楽器にかけていた。今思えば焼け石に水、やらないよりマシ、くらいの策だったろう。
クラリネットにはプラスチック製のものがある。これだと割れる心配はないが、音程などの面で甚だ不都合である。師匠のK先生などは
「プラ管(プラスチック製の楽器の俗称)は玩具です。楽器ではありません」
と、けちょんけちょんにこき下ろしていたくらいである。

どうしても屋外での演奏を強いられる時は、クラリネット吹きは色々対策をしている。
どうせ屋外だから音質なんてへのかっぱだ、と開き直って、外用にプラ管を持っている人も結構な割合で居る。音が散りまくって、残響の全く期待できない屋外では、確かに『良い音』を響かせるのは至難の業だ。ただ音を聞こえさせるだけの目的なら、割り切ってプラ管にするのもありだと、個人的には思う。ただ、そんなものを買うお金が勿体ないといえば勿体ない。
最近は安価なものが出回っている。ケース、ストラップ、などついて下手すると一万円くらいで買える。しかし食指は動かない。
私の場合は、楽器を始めた時に買った安価な物を使用することにしている。安価、とは言っても当時十六万円ほどしたものなので、割れて欲しくはないが、もう一つの方だと五倍くらいのお値段だから、こっちが割れるよりはマシだと考えるのである。こういう人も結構居る。
普通に考えれば、十万円以上した品を『割れても良い』なんて狂気の沙汰だが、楽器に関しては吹奏楽をやっている人の金銭感覚は、自分も含めてちょっと狂っているのかもと思う。

屋外でもう一つ困るのは風である。あまりにもコイツが強いと、吹いてるのか、風と闘ってるのか、分からない時がある。
対策は洗濯ばさみ。楽譜が勝手にめくれないように、譜面台に留める。しかし譜めくりがある場合はとても厄介だ。こういう時は隣の人と共同作業で、前のページを開いておく人と、次のページを開いておく人に分かれ、お互いで楽譜をシェアすることになる。外での演奏は短い曲が多いから、こう言うことはあまりないが、ヒット曲のメドレーなんかだとたまにあり得る事態である。
あとはスケッチブックに楽譜を貼り付ける。これは重いので譜面台が耐えられずに、譜面台ごと転倒する危険性を孕んでいる。あと、紙質がごついのでめくりづらい。持ち運びが重い。私はやったことがない。
小さくコピーして、楽器にスタンドっぽいものをくっつけるやり方もあるが、何曲もある時は向かないし、譜面が小さすぎて老眼には辛い。あまり実用的ではないと思う。マーチングなどでは見かけることもあるようだ。

地面の質も案外侮れない。草ぼうぼうならまだいい。雨の翌日、ぬかるんだ地面は最悪である。場所がここです、と決められている場合が殆どなので、水たまりがあろうが、ぬちゃぬちゃであろうが、そこに椅子がセッティングされていれば座らねばならない。譜面台も立てねばならない。泥の中に、譜面台の足がぐちゅっと入ると、あーあ、と思う。帰ってから丁寧に拭くことになる。
まだ譜面台くらいなら良い。以前、ドラムセットに『どうぞ』と案内された地面は水たまり付きだった。演奏前にみんなで土を運ぶわ、ブルーシートを借りてきて(幼稚園の園庭だった)上に敷くわ・・・吹奏楽団としての活動の前に、園の方のお手伝いをして土方仕事をする羽目になってしまった。
かといって乾燥し過ぎもダメである。目つぶしのように、砂や土ぼこりが舞う。風が強いと更に大変だ。目に入ると痛いし、目を開けられないと指揮はおろか、楽譜も見られない。細かい砂粒が入るのは、種類を問わずどの楽器でもゴメンこうむりたい。壊れる原因になるからだ。

屋外での演奏は、お客様の反応がダイレクトに伝わってきて楽しい。だが、こういう涙ぐましい楽団員の努力と忍耐?があって初めて成り立っている。
それが 報われるのは、温かい拍手を頂ける瞬間、なのである。