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もうちょっとの我慢

私の髪は今、過去最高に伸び放題である。
前回のカットの時、美容師さんの可愛らしいボブヘアに食指が動き?
「今度はそういう髪型にしてみたい」
と伝えてみた。私はそれまでいつもかなり短めのショートだったから、お姉さんは思案していたが、
「そのまんまボブヘアにするには髪の長さが足りないので無理ですが、見た目同じようにみえるようにしますね」
といって、可愛らしくまとめてくれた。
頭の後ろの方に厚ぼったく髪がある感覚は久しぶりで、時々頭を振ってみてはちょっとウキウキした気分になっていた。

しかし、元々こういう髪型をやりつけないものだから、なかなか扱いに慣れない。ヘアオイルを揉みこみ、ドライヤーで良く乾かしてから寝るのだが、朝起きた時の私の髪型はいつも、歴史の教科書に載っていた足利尊氏みたいなザンバラ髪になってしまう。
これを毎朝、くるくるドライヤーと霧吹きを動員して大人しく頭の形に添わせるのはとても時間を食うし、骨が折れる。そしてこういうことにあまり女であることの喜びを感じる性質でない私にとって、この時間は面倒且つ無駄、という認識しかない。
特にここ数週間、いい加減嫌になってきている。
やはり私には長い髪型は向いていない。今度はバッサリと切ってしまうつもりである。
なぜすぐにでも切りに行かないのか、と言えば、三月の中旬にある定期演奏会にタイミングを合わせたいからである。

舞台での本番の前に髪を整える人は男女問わず多い。千人以上入るホールで、六十何人が乗っている舞台の一人一人の髪型なんて、お客さんは誰一人気にしていないと思うが、それでもやはりキチンとした髪型で乗りたい。
私としては見栄えを気にするというより、『よっしゃ本番頑張るぞ』と気合を入れるような感覚である。

舞台での衣装は白いブラウスに黒いロングスカートだったり、黒いブラウスに黒いズボンだったりと、地味で目立たず全員同じときているから、個性を出すのは髪型と化粧くらいなものだ。だからせっせと髪型を整えようという気になるのかも知れない。
尤も、マウスピースにがっちりとかぶりつく我々のような楽器や、唇を押し当てる金管楽器系の方々などは口紅を引きたくても無理なので、せいぜいアイメイクを頑張る程度になってしまう。しかし楽器を口から離した時、目ばかり頑張っていて唇がスッピンなので、ちょっとチグハグな感じになってしまう。
だから結局、メイクより髪型に力を入れることになるのだろう。

今の伸びすぎた髪はとっても邪魔である。
職場では『目の上に髪がかからないこと』と規定があるが、今の私は余裕で目にかかっている。お客様に失礼、というのは勿論だが、なんと言っても自分が作業しづらい。耳の横の毛が多くなり過ぎてインカムが落ちてしまうし、色々見え辛い。
しょうがないので仕事中はピンで大雑把に留めているが、幸か不幸か私は毛量が多いので、留めきれない。残っている毛があちこちにはねて、やんちゃな幼稚園児のような感じになってしまう。
残念ながら、私はこういう髪を上手にまとめるやり方をを全く知らない。知ってもそこに労力を費やす気もさらさらない。ボサボサと伸び続ける髪に完全に屈している。

自分では綺麗をキープ出来ないことが、今回のことでよく分かった。頑張っては見たけれど、私の性には合っていなかったようだ。
お姉さんは優しいからきっと、
「そうですかあ。じゃあ手入れの簡単な髪型にしましょうか?」
と言ってくれるに違いない。
努力せずして元の髪型をキープするのは難しそうだ。それが分かっただけでも上出来だ。
この二ヶ月間、カワイイ髪型を楽しめて良かったではないか。いつもと違う私もなかなかイケてたはずだ。鬱陶しいだけではない時期もあったのだから、これはこれで良かったと思うことにする。

さあ、二月もいよいよ最終週に入りそうだ。よーし、切りに行くぞ!
早速明日、予約を入れることにしよう。
今からワクワクしている。