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Tubaがバスに乗ってきた♪

(表題写真はユーフォニアムです)

今私が所属している楽団は、長年固定で使用していた会場がコロナの影響で使えなくなり、市内の各施設を転々としながら練習している。
私はまだこの地に土地勘がないので、度々グーグルマップのお世話になっている。方向音痴なので、練習会場に無事に辿り着けただけで、取り敢えずホッとする。

ある時、初めてのある会場への行き方を検索すると、バスで行くのが最速だと言う事がわかった。バス停から会場へは徒歩2分。目の前である。混雑する時間帯でもない。これはいい、と利用する事にした。

バスに乗り込むと、この辺には珍しく乗客が異様に少ない。不安になるが、グーグル大先生の仰るバスはこれで合っている。かなりの数のバス停を通過しなければならないようで、停留所名を一つ一つ確認しながら楽器をギュッと抱きしめて座っていた。

いくつ目かの停留所で、大きな"楽器"が乗ってきた。が、背負っているはずの人が見えない。ん?チューバ?だよね?人は?
伸び上がるようにして見ると、チューバのベル(開いた部分)の随分下に小さな顔があった。当然座れないので立っている。若い、かなり小柄な女性である。

チューバという楽器は大変重い。10kgくらいある。
そのせいか、私が中学生くらいの時は女性のチューバ吹きが居るのは女子校くらいで、殆ど見かけなかった。今はプロもいるくらい、普通に女性も吹く楽器として認識されている。
とはいっても、大体6~10mくらいになるあの管に自分の息を通して鳴らすのであるから、体格の小さい女性が男性より不利である事は間違いない。肺活量が勝負だから、演奏には体格は関係ないと言えない事もないが、支えるだけで大変である。
だから彼女を見た時、こんな華奢な小さい女性がチューバ吹くんだ、と些か驚いた。

入団間もない頃だったので、団員の顔と名前が一致しない。もしかして同じ楽団の人かなあ?と思って見ていると、彼女も私と同じ停留所で降りた。間違いない。同じ楽団の人だ。

「あの~入団したばかりの、クラリネットの在間って言うんですけど…同じ楽団の方ですよね?」
停留所で降りてすぐに、彼女に話しかけてみた。
「あ、そうなんですね。Nです。よろしくお願いします」
ニコニコと可愛い。が、それにしてもチューバが大き過ぎて痛々しい。細い肩が折れそうだ。
「お荷物、何か持ちましょうか?」
クラリネットはチューバの10分の1くらいの重さである。他にも楽譜や譜面台など、色々提げている彼女が気の毒になって申し出てみると、
「あ…じゃあコンビニ行くので、買い物する時ちょっと荷物持っててもらって良いですか?」
という。快諾して一緒にコンビニに行くと、彼女は食事がまだだったようで、サンドイッチとおにぎりとお茶を購入した。
支払い時彼女が読み取り機に携帯をかざすと、身体が前屈みになり、背負ったチューバのベル部分がレジの飛沫防止シートを内側に押した。レジの中のお兄さんが仰け反る。つい笑ってしまった。

「ありがとうございます~助かりました~」
レジのお兄さんの様子にも全く気づかず、のんびりとにこやかに彼女が戻ってきた。
会場への数分間、自己紹介がてら少しおしゃべりした。まだ30代との事。私の娘でも良いくらいの年齢である。
受け応えがゆっくりで、のほほんと気が長いように見受けた。可愛いなあ、と思わず和んでしまった。

本名はNさんだが、小さな身体に大きな楽器を背負っている様子が、漫画『のだめカンタービレ』に登場するコントラバス(これもデカい楽器である)担当の小柄なキャラクター、『佐久 桜』(実写版では紗栄子さんが演じた)にそっくりなので、私は心の中で勝手に"さくらちゃん"と呼んでいる。

小さなさくらちゃんだが、安定した、太い素晴らしい音を出す名手である。合奏時、私はいつも内心拍手を送っている。
brava、さくらちゃん!