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夏の拷問

暑い。
世の中の殆どの女性は、この季節一日中拷問にさらされていると思う。
『ブラジャー』によって、である。

私が小学生の時に持っていた角川書店の辞書を引くと、ブラジャーの説明は、
『乳おさえ。乳あて。』
となっていた。
小学生の間中ブラジャーを必要としなかった私は、その古めかしい解説文を読んでもなんとも思わなかった。
だが、ブラジャーを着用するようになった今、まさにこの言葉を実感している。いや、『乳縛り』でも良いと思うくらいである。
今の辞書だと、
『女性の乳房を支え、整える下着』
などという美しい言葉が書いてあるようだ。でも、窮屈なシロモノである事は変わらない。

タンクトップ等にカップをくっつけた便利な下着も売られているし、私も使ってみた事はある。
だが乳房が"元気"な人はいいとして、私のような"垂乳根世代"はやっぱり困る。カップに乳房が収まってくれない。カップの下から見苦しくはみ出ているのは、我ながらどうも頂けない。カップの意味が有名無実化している。第一そんな状態では、気分が落ち着かない。
地球の引力には日々感謝して過ごしているが、この点に於いては恨めしい。

家にいる間に限り、暑さに耐えられない時は、黒いダブっとしたトップスを着る事を条件に外している。ただでさえ暑い時に、わざわざ自分を締めつける必要はないと思っている。
していないととても楽で、過ごしやすい。涼しい。
寝ている時につけている人も結構居るらしいが、私は生まれてこの方寝床でつけた事はない。この歳になってそんな苦しい事、最早考えられない。

若い頃は乳腺が張る時期が定期的にやってくる(生理前等)ので、ブラジャーがないとかえって苦しかったり、痛かったりした。
暑くても痛いよりはマシだし、ブラジャーは有り難い存在だった。
だが現在、私の乳房は赤ちゃんの為という重大な一次的任務を完全に終え、お父ちゃんの為という二次的任務もほぼ終え、静かに胸板と同化しつつある。
閉経後の乳房もぞんざいに扱うつもりはない。だが、少なくとももう乳腺が張って痛い事はない。走れば多少痛いかも知れないが、そんな用事はあまりない。
ただ街ゆく人の目を汚さない為だけに、私はブラジャーをしているのである。

ノーブラは落ち着かない。ノーパンほどではないが、スースーする。つけずに外出は絶対出来ない。なので、やっぱりつける。つければ暑い。
そこで一計を案じ、着ける前にブラジャーを『冷やしてみる』事にした。

そのまま冷蔵庫に放り込むのは、パンツ(論外)ではないけどやっぱり気が引けるので、ビニール袋に入れて、着用するまでの間冷やしてみた。
冷凍庫かなとも思ったが、凍っても困るし冷え過ぎも怖いので、今回は冷蔵庫にてトライする事にした。
外出前に取り出してつけてみると、なかなか爽快である。ヒヤッとして気持ちいい。

でも酷暑の中外出すると、しばらくして直ぐに暑くなってしまった。持久性は当然ない。
もしかしたら、蓄冷剤等を胸パッド代わりにカップに入れるのも有りかも知れない。低温やけどしないよう、何かに包むか。いっそカップにポケットが付いていたら、そこに入れるんだけどなあ。夏用ヒンヤリブラジャー、どこかのメーカーさん作らないかな。
グラマーになるし、ひんやり心地良いし、一石二鳥ではないか。きっとヒットするに違いない。駄目かしらん。

ブラジャーさえしなくて良かったら、外出がもっと楽しく気軽な物になるのになあ、と恨めしく思う夏の午後である。