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俺のスカート

多くの女性同様、私はかなりの冷え性である。小さい頃からしもやけを沢山こさえていたし、若い頃から『ミルク飲み人形』と言われるくらいトイレも近かった。
勿論冷えっぱなしで放置している訳ではなくて、温かい肌着や靴下は常に身に着けているし、日頃から貼るカイロのお世話にもなっている。
特に炊事をする時は時間が長いので厄介だ。台所の床は必ずフローリングなので、深々と冷える。長時間になると一層寒さが堪えるので、それなりの対策をして流しに立っている。
オーバースカートというのだろうか。正式名称は知らないが、ズボンやスカートの上から巻き付けるタイプの、温かい生地で出来たスカートは着脱が容易で非常に便利なシロモノだ。結婚以来、冬には必ず着用している。今のはもう四代目である。

最初にこのスカートをはき出したのは、新婚時代である。北陸の冬は、それまで温かい南国に居た私には震え上がる寒さだった。
たまたま独身時代から利用していた通販会社の商品にこれを見つけ、すぐに取り寄せた。温かいし、可愛いデザインでとても気に入った。二枚組だったので、とっかえひっかえ毎日穿いていた。
七年の北陸生活の間、このスカートは大活躍した。

北陸時代の住まいは殆どの部屋がフローリング。夫の部屋も例外ではなかった。
だから男性の割に寒がりな夫は、自分の部屋に行く度に『冷える、冷える』と言って背を丸めていた。エアコンはあったが、いつも『底冷えする。足が寒い』とブウブウ言っていた。足温器や毛布なども利用していたが、あまり効果は感じないようだった。
そんなある日、夫が件のスカートを見て目を輝かせ、
「俺もそれ穿きたい!」
と言い出した。
夫は細身ではあるが、ウエストサイズは私よりはるかに大きい。男性なのだから当たり前である。あんまりやかましく言うので、同じ商品のLサイズを購入した。
しかしいくら夫が細身でスカートが大きいサイズだと言っても、やはり女性用は女性用である。夫にはウエストがやや小さい。しょうがないのでウエストのボタンを付け替え、なんとかギリギリ巻き付けることが出来るようになった。
夫はご満悦で、毎冬このスカートを穿いていた。

このスカートはキルティング地で、可愛らしいクマちゃんとサクランボの柄がついており、地色は明るいオレンジ色だった。時折夫が自分の部屋から上は半纏を羽織り、下はこのスカートを穿いて出てくると、何とも言えず滑稽で、失笑を禁じ得なかった。
最近は『富豪』という呼び名をつけている『着る毛布』(昨冬拙記事で紹介済み)を着ている夫だが、これを入手するまでは、このスカートは夫の大のお気に入りで、ちょっと見当たらないと
「おい、俺のスカート知らんか?」
と言ってキョロキョロするのだった。
『俺のスカート』なんてちょっと笑える呼び方だったが、そのうち大きくなった子供も『パパのスカート』と呼んでいたから、そのうちウチではその呼び名が普通になってしまった。

実はこのスカート、姑も姪も着用することになった。
私が体調を崩した時に子守りに駆けつけてくれた姑が、このスカートを見て大変気に入り、一枚プレゼントしたのだった。その後、お嫁に行く姪っ子に姑がこれをプレゼントし、姪っ子も大変喜んでいつも穿いているらしかった。
このスカートはデザインも可愛らしく、洗濯してもすぐ乾く優れものだから、冷え性の主婦には嬉しい。姑と姪と夫は図らずもお揃いのスカートを穿くことになってしまったのである。

私が今穿いている四代目は、地味な紺色一色である。今までのものよりも格段に軽く、乾きももっと早い。穿いて穿いて穿き倒している。
ボロボロの三代目を穿いていたのを見かねた夫が
「ええ加減、世代交代せえよ」
と買ってくれたものである。
お値段も昔よりぐんと安くなっている。サイズ展開も3Lくらいまであるようだ。『人気商品』とあったが、頷ける。
『富豪』に浮気した夫に顧みられなくなったスカートは、ちょっと私には長めだったが、私の腰のサイズに合わせてボタンをつけなおし、何度も擦り切れるまで穿いて処分となった。
今のスカートも随分年季が入ってきた。来冬は買い替えかなあ。





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