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シンデレラは先着一名様限り

靴・服飾雑貨売り場のレジ係として働き出して一年半になる。
今、売り場は秋から冬に向けての商品が沢山並んでいる。夏があまりにも長かったので、いつまでも日傘やアイスリングを購入されるお客様があとをたたなかったが、最近はフェルトの帽子やファーの鞄、ブーツなどをお求めになる方ばかりである。
こちらに来てもう三度目の冬を迎えるんだなあ、と思うと感慨深い。尤も働き出してからは二度目の冬だ。

ボツボツご常連の顔も覚えてきた。
中に数人、季節の変わり目によくお見掛けする方々がいらっしゃる。ご婦人ばかりだ。
シンデレラサイズ、つまり二十二センチ以下のサイズの婦人靴をお探しのお客様達である。私が覚えているだけで、四、五名いらっしゃる。
季節の変わり目には、新しいデザインの靴がより多く並ぶ。サイズ展開はメーカー・デザインによって色々だが、婦人用だと大体は二十二・五センチくらいから二十四・五センチくらいになる。しかし稀に、二十二センチ丁度のものが入ってくることがある。
この方々はこれを狙って?いるのである。

メーカー側は最も良く売れるサイズをより多く生産する。市場原理に従えば当たり前のことだ。だから入荷も当然、二十三センチから二十四センチのものが一番多く入ってくることになる。
残念ながら、二十二センチの大人用の靴にはあまりニーズがない。だからメーカーもデザインによっては生産しないか、或いはしてもほんの少し、追加注文は出来ない、というものが圧倒的に多い。
売り場の我々の都合ではなく、こういったメーカーの事情で決められてしまうので、新商品カタログを見てみないと、サイズ展開が何センチからか、はわからない。そして小さいサイズの入荷があることはあまり期待できない。
入荷しても各デザイン一足のみ、追加の入荷はなし、と言う具合である。

だからシンデレラさん達は血眼?になって、お気に入りの靴を手に入れようとする。こまめに来店し、売場の商品をチェックしておられる。新商品が棚に並ぶと最初にお買い上げになるのは、こういうシンデレラさんであることが多い。
皆さん一様に、小柄で華奢な方である。失礼だけど同性ながら、『カワイイな』と思ってしまうくらい可憐で、何もかもこじんまりとした方ばかりだ。
でも小さな足に合う靴を探すのは、きっと一苦労なのだろうと思う。
最初で最後の一足が売れてしまってから、
「あの・・・この前、このデザインの二十二センチの靴、ありましたよね?あれ、欲しいんですけど、在庫もうないですか?」
とお尋ねに来られることもしょっちゅうある。
「申し訳ありません。先程売れた分で最後になります。追加発注も出来ません」
と言うと、シンデレラさんは悲しそうに肩を落として
「そうですか・・・売れちゃったんですね・・・」
と帰っていかれる。舞踏会が終わってしまった後のシンデレラのようである。いつものことで、皆さんこちらの答えが予めわかっておられると見えて、更なる在庫探しを依頼してくる方はほぼ皆無だ。大変申し訳ない気分になる。
店側としてもご要望にお応えしたいのは山々なのだが、メーカーも作っておらず、近隣の店に残っていない限り、在庫はない。近隣店とて事情は同じだ。何度か問い合わせしたことはあるが、残っていたことは一、二度のみであった。どの店でも、シンデレラさん達の熾烈な戦い?が繰り広げられているのだろう。

この仕事に就くまでは、『シンデレラサイズなんて羨ましいな。可憐で可愛らしくて、女の子らしくて良いな』なんて思っていたが、彼女たちの二十二センチの靴争奪戦?の有様を見ていると、あまり小さいサイズも大変なんだな、と思うようになった。
これから年末年始に向けて、どんどん新しい冬向けデザインの靴が入ってくる。なるべく多くのシンデレラさんが、お気に入りの一足と出会えるよう、お手伝いできればと思っている。