東京藝大「ソルフェージュ科」について

 先日↓のようなツイートをしました。(※C年というのは年次を音名に対応させていう音大のスラングで、学部一年生のことです)

なぜこのようなツイートをしたかというと、一年生は入学早々にソルフェージュの授業(必修)のためのクラス分け試験を受けなくてはならず、それに関するなかなか阿鼻叫喚みのあるツイートがいくつも流れてきたからです。もちろん皆さんの多くは、諧謔のセンスをもって敢えて大袈裟な表現でツイートしていたと思いますが。

 で、ふと気付いたのですが、以前このnoteで私自身について紹介する記事を書いたことはあるものの、東京藝大の「ソルフェージュ科」についてのきちんとした紹介はしていなかったんですね。そういうわけで今回は、藝大の内部の人にも外部の人にも、「ソルフェージュ科」とは何者なのか少しでも知ってもらえたらと思います。

 「ソルフェージュ科」は教職員と学生から成る研究科で、ソルフェージュ教育を研究するとともに音楽学部のソルフェージュの授業を管轄しています。学生は大学院生のみが所属できるため、学部生の募集はありません。修士課程としての正式名称は「音楽研究科音楽文化学専攻ソルフェージュ研究分野」となっています。もっとも音楽研究科の組織体系は歴史的な変遷があり、「ソルフェージュ科」は当初は音楽学専攻内の音楽教育研究室が開設する「ソルフェージュ講座」という形で半世紀前に誕生したようです。後に音楽教育から独立し、現在の組織では音楽文化学専攻内に音楽学・音楽教育・ソルフェージュ・音楽文芸・音楽音響創造の各研究分野が属しています。

 もう一つ特筆すべきこととして、「ソルフェージュ科」の学生は研究のみならず、音楽的な実践にも力を入れています。とりわけ伴奏にです。東京藝大は1979年にパリ音楽院の伴奏科の教授を退官したアンリエット・ピュイグ=ロジェ(1910-1992)を招聘しましたが、実はこの先生が「ソルフェージュ科」の指導に関わっており、「ソルフェージュ科」は伴奏科としての性格を(部分的にであれ)兼ね備えてきました。

 伴奏者には必ずしもスターのソリストのような華々しい技巧は必要ありません。超絶難易度の伴奏というのは基本的に無いですし。しかし音楽を俯瞰的に・分析的に把握したり、ソリストとのバランスを取りながらも音楽的な表現をビルドアップする、確かな力が無くてはなりません。言うなれば、音楽において「賢い」ことが求められます。他方でそうした「賢さ」は、ソルフェージュ教師にとって必要なものでもあると思います。音大受験対策として聴音や視唱の演習をさせるだけならば誰でもできますが(ここらへんの話については以前の記事を参照)、音楽に対する深い理解の形成を促しうるような教育をするためには、まず教師自身が「賢い」音楽家であることは重要でしょう。その点において「ソルフェージュ科」と「伴奏科」の二枚看板状態を擁護できるのです。

 というわけで演奏家の皆さまは私にどんどん伴奏のお仕事を下さいね!……という結論で良いのかどうか(笑)

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