""ねぇ、浮気してるよね""

「.........」

彼女に言われた言葉に僕は何も言えなかった

    遡ること数日前

○「はぁ...」
僕は彼女と喧嘩していた。
喧嘩の内容は、僕が部活で帰るのが遅くなったことが原因だ。あらかじめ彼女には遅れるかもと連絡はしておいた。なのにも関わらずだ。
帰ってきてLINEを送ると"遅い"だの"抜け出せ"だのと無理難題ばかり言ってくる。
○「はぁ...」
僕は本日二度目のため息をついていた。

『どうしたの？こんな所で』
○「彩花...」

'風邪ひくよ'と言いながら僕の隣に座ってきたのは幼馴染の高本彩花

彩『もしかして喧嘩した？笑』
○「...」
彩『もしかして図星？笑』
○「うるさ、よくわかったね」
彩『幼馴染の勘ってやつ？笑』
○「さすが」
彩『それで？今度はなんて言われたの？』
○「部活抜け出せだって、いくらなんでも重すぎるんだよ」
彩『○○はそういう子としか付き合わないよねほんとに』
○「まぁね」
彩『そんな私も変な男ばっかだけどね』
○「お互い運が悪いようで」
彩『ほんとにね』
○「彩花はまた別れて他の人と付き合ったりするの？」
彩『うーん、まだいいかな。もう少し様子見って感じ。○○は？』
○「僕もそんな感じ。こんなことになるなら付き合わなければ良かった」
彩『ふーん』

○・彩「『......』」

無の時間が流れる。先に口を開いたのは彩花の方だった。

彩『○○と付き合えばよかったかも』
○「え？」
彩『だってウチら幼馴染だしさ、お互いの事を誰よりも分かってるじゃん？だからこそ○○と付き合えば幸せだったのかなって』
○「...」
彩『ごめん、忘れて？』
○「...う？」
彩『え...？』
○「付き合う？」
彩『自分が何言ってるか分かってる？』
○「分かってるよ。僕だって彩花と同じこと考えてたからさ。なんなら、今僕と彩花が付き合ったところで幼馴染だから仲良いよねで通るじゃん」
彩『ほんとに言ってる？それ』
○「ほんと」
彩『やっぱりクズだね、○○は』
○「うるさ、それで？答えは？」
彩『バレない自信あるの？』
○「五分五分かな」
彩『じゃ、いいよ。これでお互い浮気者だね』
○「ふふっ」
彩『久しぶりに笑ったの見たかも』
○「いや？彩花と久しぶりに長く話したと思ったら浮気者になるなんてね」
彩『付き合うからには幸せにしてくれるんだよね？』
○「そりゃ、まぁ」
彩『ふーん。ねぇ、寒いんだけど。ウチ来ない？久しぶりに』
○「久しぶりに行こうかな」

○「おじゃまします。」
彩『何かしこまってんの？笑』
○「そりゃ一応」
彩『今日から3日間みんな帰ってこないから夜遅くまでいてもいいよ』
○「帰る気になったら帰るわ、明日学校あるし」
彩『ふーん。』

その後、僕と彩花は他愛もない会話をずっとしていた。気づけば夜9時を回っていた。

○「げ、母さんからLINEきた。どこいるの？だって」
彩『帰る感じ？』
○「帰ろうかな、うるさいし」
彩『そっか...』
○「何、帰って欲しくないの？」
彩『いや？別に』
○「そか」

僕は母さんに"今日友達の家に泊まる"とだけ送った。学校帰りで制服で良かったと思う。

○「僕泊まるよ」
彩『え？』
○「寂しいんだろ？笑」
彩『ばか』
○「ジャージあるし、これ着れば寝れるから良かった良かった」
彩『お風呂、先入る？』
○「いいよ、先入りな」
彩『うわ、後で私の入ったあとの残り湯で楽しむ気だ』
○「んなことしないわ」
彩『ふふっ、先に入るね』

彩花が風呂に入ってる間、僕は考え事をしていた。浮気したんだなーと。
その時、スマホが鳴った。彼女からだ。正直憂鬱だったので僕は"今体調悪い、ごめん。また明日ね"とだけ返した。

彩『どーしたの、考えた顔して』
彩花が風呂から上がって部屋に戻ってきていた。
風呂上がりの彩花はいつも以上にいい匂いがして、それになんか色っぽかった。
○「いや、彼女から電話きただけ」
彩『そうなんだ、あ、お風呂いいよ』
○「おっけ、借りるわ」

僕はお風呂の中で彩花の事を考えていた。あの彩花と浮気してるのか、と。
彩花は学校の誰からも美人と言われるほどで、そして優しいしオシャレ。ちょっとおばかな面を除けば完璧である。
そんな彩花と幼馴染な僕はどこかで誇っていた部分があったし、彩花の彼氏を妬んでいた部分もあった。そんな彩花と今、浮気してると考えると何故か誇りたくなってしまう。
そんなことを考えながらお風呂を出た。

○「お風呂でたよ。って、そんな顔してどうしたんだよ」
彩『彼氏から電話来てさー、今度遊園地行きたいんだって』
○「そっちもそっちで大変だな」
彩『ねぇ、今度遊園地行こうよ』
○「はぁ？僕多分その彼氏とやらにボコボコにされる気がするんだけど」
彩『いつでもいいからさ』
○「まぁ、いつかな」

また他愛もない会話をしながら、お互い同じベッドに入った。彩花と寝るのは実に数年ぶり、こんなに大人になった彩花と寝ることになるとは、数時間前の僕は想像できたのだろうか。

彩『久しぶりだね、2人で寝るの』
○「たしかに」
彩『ねぇ、全然眠くないんだけど』
○「同感」
彩『なんでだろ』
○「知らん」

彩花がこっちを向く。僕は、自分の欲の限界が近づいてきた。

○「あや...」
彩『なぁに...んっ...』

僕はついに彩花の唇を奪った。自分でもしてはいけないとわかっていた。でも、欲には抗えなかった。

彩『んっ...んん...』

キスをしてる間の彩花の声が、何よりも色っぽく、僕の欲を加速させていく。

彩『ね...変な感じになっちゃった...』
○「ごめん彩花、僕もうガマンできないや」
彩『いいよ...シよ...？』

そのまま僕らは体を重ねた。

○「ん...」

時計を見た。時計には10:34という表記がある。

○「あーあ、学校遅刻だよ」

彩花は未だに寝息を立てている。それが可愛くて、愛おしくて仕方がなかった。

○「今日はいっか...」

2人で学校をサボった。彩花も起床し、2人でどうしようか話していた。なんでこんなにもタイミングがいいのか、お互いの携帯が鳴った。

○・彩「『げっ』」

お互いの彼氏彼女からのメッセージだ。
どうしよと思っていると彩花が僕の携帯の電源を消した。

彩『今は2人の時間だよ？』

彩花の目の奥は少し悲しそうだった。

それから彩花の親が帰ってくる迄の期間、僕は彩花の家に泊まり続けた。そして、毎夜毎夜と体を重ねた。
3日も学校を休むと、なんか罪悪感があった。

○「じゃあ、帰るわ」
彩『また、学校でね。明日からはもう私の恋人でもあるんだから、冷たくしないでよ？』
○「わかってる。じゃあな」

僕らは唇を重ね、僕は帰路に着く。
僕は家に着き、すぐさま眠りについた。

翌朝、起きて学校に行くと彼女が鬼の形相で待っていた。
「ねぇ、ちょっと来て。」
○「どうしたの」

空き教室に着くと、彼女は僕に
「この3日間、高本さんといたの？」
○「は？」
「だって2人とも休むのおかしくない？」
○「知らねーよ、彩花と全然話してねぇもん」
「じゃあこれ何？」
○「え？」
彼女が僕に見せてきたのは、僕が彩花の家の門のところで彩花とキスをしてる写真だった。
「浮気...だよね...」
「ねぇ、浮気してるよね」
「この浮気者！」

僕は何も言えなかった。
そして、その彼女の声と共に皮膚の中に硬く冷たい切っ先が通る感覚がした。下に目を向けると、僕の体をナイフが貫通していた。
血が止まらない。目の前を見ると、「あんたのせいだからね、自業自得」と笑う彼女がいた。
彼女が出ていった空き教室は血まみれの僕一人。
意識が遠のいていく
○「刺されたんだ。僕」
そんなことをボソッと言いながら頭に浮かんだのは、彩花だった。

○「あや...」
力が出ないせいか、言葉を発することが難しい。
そのまま、僕は意識を失った。

数日後、
"○○高校で殺人事件！犯人はその彼女。動機は彼氏の浮気"
と、ニュースでこの事件が紹介された。
僕を刺した彼女は捕まった。
彩花は立ち直れず、家にひきこもっているそう。

僕の死は彩花や彼女の人生を狂わした。

END