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第79話「世の中はコインが決めている」

 理由を知りたいと言った時点で、僕はさっき聞いた話が頭に浮かぶ。廃墟で男女が情事を行なっている。麻呂さんが瞳だけを動かして、知りたいのか解答を待っていた。

「知りたいかな?」と少々マヌケな声で言った。

「……こっちに来て座らない」と麻呂さんがふっくらとした唇を動かして呟いた。

 無意識に懐中電灯を消して、僕はベッドへ近寄った。緩やかな風を顔に感じながら、ベッドの上へ座るとギシギシと音が鳴る。

 無言で見つめ合う。何が二人をそんな気持ちにさせたのか。ポニーテールの似合う女の子を前にして僕の気持ちは高揚した。廃墟という雰囲気が妙な気持ちにさせた。

 それとも数分前、縁日さんの白い乳房を目にしたからなのか。

 ピタッとしたシャツにホットパンツという格好の麻呂さん。意識してなかったけど、彼女の胸の膨らみが思考を狂わせる。

 すでに意識してしまっていた。呼吸を合わせるように、僕と麻呂さんの指先がちょこっと触れる。

 見つめ合う瞳の距離が近くなり、僕たちは瞼を閉じると唇と唇を重ね合わせた。キスをしている。僕たちはキスを続けながら、お互いにベッドの上へ寄りそって沈んだ。やがて濃厚なキスへと変わる。

 月明かりの下、ベッドの軋む音だけがギシギシと鳴った。もう気持ちが抑えられなかった。ピタッとしたシャツを脱がそうと、僕の手が勝手に動いていた。

 弄るようにシャツを捲り、麻呂さんの上半身を露わにした。唇が離れて、彼女が囁くように「はじめくんのこと、好きだった」と口にした。

 告白されたことは嬉しかった。でも、こんな場所で良いのか。そんなことを考える余裕はない。廃墟という場所が二人の気持ちを高揚させていたのだ。

 ブラジャーのホックを外して、露わになった乳房を触った。ギシギシとベッドの音だけが激しくなり、僕たちの影が重なっていく様子を壁に見た。溢れ出す中へ、僕が何度も何度も行き交う。

 彼女は我慢して、声を出さないように唇を噛み締めていたが、漏れる声は静寂な部屋の中へ響いていた。

 僕たちは時間を忘れるように、お互いを求めるのだった……

 汗ばんだ身体のまま、僕たちはベッドの上で抱き合っていた。きっと今頃、三人は心配しているだろう。どれくらい時間が過ぎたのかわからない。でも、どうでも良かった。疑われようが何も言わなければいい。

「そろそろ、行こっか」と僕が言うと、麻呂さんが微笑を浮かべて頷いた。

 僕たちは背中合わせにして、散らばった服を手にして着替えた。着替え終わると余韻の残ったまま僕たちは唇を重ねた。

 重ねた回数もわからないほどキスをする。もうお互いの気持ちは同じ。

 今夜、僕たちは友達から恋人同士になったのだ。

 このあと、三人と合流して遅いから心配しただろうと怒られた。でも、そんなことどうだってよかった。早いところ、こんな場所は立ち去って二人の時間を過ごしたかった。

 僕と露子が恋人同士になって、つまらなかった学生生活が変わるのだった。

 それから三ヶ月が経ったあと、幸せだった毎日が突然終わることになる。それは、あまりにも突然で露子との別れでもあった。

第80話につづく

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