第71話「世の中はコインが決めている」
別れ際に正論くんが忠告した。間違っても相手を逆上させるようなことはするなと。相手は生粋のサイコパス。あくまでも罪を認めさせて、警察へ出頭させることが目的。
それが今回の計画なのだ。重要な任務だったので助言を求めたが、正論くんは一言。
「君ならできる。相手を気持ち良くさせれば良い」なんて意味深なことを言うのだった。
こうして僕はスナックをあとにして家路へと急いだ。駅に到着すると、そのままの足で縁日かざりがバイトしているコンビニを覗いた。
だけど、彼女はバイトをしていなかった。もしかして、どこかで見張っているかもしれない。意味もなく飲み物を買って、マンションへ向かう。背後を気にしつつ、マンションへ到着するとポストに投函がないかを確認した。
と言っても確認するフリで、実際は周りを意識していたのだった。
エレベーターに乗り込み自分の階へ降りると、あとは正論くんに言われた通り、部屋に入って照明を点けた。カーテンは開けっ放しにして続いて部屋を出ると、狛さんの部屋の前に向かった。
勿論、狛さんから鍵を預かっていたので、部屋の鍵を開けると中へ入った。
時刻は夜の七時を過ぎていた。ただ単に待ってるのも暇だったので、インスタントラーメンでも食べようとヤカンに火をかけた。果たして縁日かざりは来るだろうか?
不安なまま待ち続けること数時間……
インターホンのチャイムが鳴った。心臓が高鳴り、玄関の方を見た。縁日かざりがやって来たのか!?身構えていたはずなのに、胸のドキドキはおさまらない。意を決して立ち上がると、僕はゆっくりと玄関へ向かった。
一様念のために、玄関ドアの覗き穴へ目を置いた。次の瞬間、覗き穴から見えたのは、澄ました顔をした縁日かざりの姿だった。
まさか、逆に覗き穴を覗いているなんて思わなかったので叫びそうになった。
後ろに下がって息を止める。仮に狛さんが覗いていたら悲鳴をあげてたかもしれない。息を吐いて落ち着こうとした。
相手のペースになってはいけない。縁日かざりの気持ちを考慮して対応しなければ……
そして僕は手に汗をかいたまま、ゆっくりとドアを開けた。
第72話につづく
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