見出し画像

第88話「世の中はコインが決めている」

 様子がおかしかったのは、縁日かざりだけじゃない。狛さんの様子もおかしかった。戸惑いながら、僕はゆっくりと狛さんへ近づいた。そのとき、背後でドアの閉まる音が聞こえた。振り向くと、正論くんが息を切らして入って来た。

 どうして彼がここへやって来たのか、訳も分からないまま僕は正論くんを見つめた。

「やれやれ、間に合ったような間に合わなかったような。そんな感じみたいだな。やられたよ。まさか、縁日かざりの奴、部外者を利用して逆にこっちを見張られるなんて。すまない想定外のことだった。でも、これで終わりは迎えたようだな。少し哀しい真実はわかってしまったけど」と正論くんはそう言って、項垂れてる縁日かざりの方をチラッと見た。

「正論くん、どうしてここへ?」

「あとで説明する。もうすぐ警察が来る。縁日かざりのことは任せよう。狛さん、あなたも警察へ呼ばれるけど、真実を知る覚悟があるなら僕の言う通りに従って欲しい」

 正論くんの言葉に狛さんは無言で頷いた。その顔は何かを覚悟している。このあと、正論くんの言うように警察がやって来た。縁日かざりは殺人容疑で逮捕された。

 彼女は連行される直前、僕に向かって虚ろな目でこう言った。

「私はその人を刺した。でも、その人は死ななかった、死ななかったのよ」

 この日警察から事情聴取を取られて、僕たちの一日は慌ただしく過ぎて行った。

 そして、夜が訪れた……

 ハナちゃんの部屋に集まり、僕を含めた三人はテーブルを囲んでいた。ハナちゃんがコーヒーを淹れてテーブルへ運んでくれた。早く知りたい気持ちはあったけど、まずは落ち着こうとコーヒーを一口飲んだ。

「鳥居くん、これから話す内容は僕の持論であって正しいとは限らない。だけど、今回の件で一つの真実は明らかになった」と正論くんはそう言って、僕の顔を真っ直ぐ見た。

「君はどこまでわかったの?縁日かざりは何を見た。狛さんは何者なんだ!?」

「一つ一つ説明させてくれ。今回、僕は念のため君に内緒で一つの保険をかけておいた。狛さんを守ることになり、僕は一度だけ君の部屋で寝泊まりしたよね。そのとき、君は狛さんの部屋で寝泊まりした」

「うん。縁日かざりを欺こうと、自分の部屋へ入ったフリをして、僕は狛さんの部屋で寝泊まりした。でも、それがなんだって言うの?」

「実はそのとき、君の部屋に盗聴器を仕掛けたのさ。もしも、縁日かざりが逆上して君を襲う可能性も無いとは限らないからね。だから君の部屋で縁日かざりが逆上したとき、僕はそのときの様子を盗聴器で聴いていた。黙ってたのは悪かったけど、言ったら君のことだから顔に出そうで黙ってたんだ」

「そうなんだ。いや、正論くんなりに心配してくれたんだろう。責めるつもりはないよ」

「ありがとう。まぁ、それで今回縁日かざりが部外者を利用してるのがわかった。君と誰だっけ?」

「露子だろ」

「そう、露子さんと君の電話をしてる会話を聴いていた。そして朝、彼女が君の部屋へ訪れた。あとは説明するまでもないけど、縁日かざりに頼まれて、露子さんは僕とハナちゃんを見張っていたことがわかった。さらに、露子さんはハナちゃんのあとをつけて、狛さんを匿っていたスナックの居場所を知ってしまう。その時点で僕も危険を察知して、スナックへ向かったんだ」

「それで昨日、正論くんがやって来たんだね。納得したよ。でも、どうして縁日かざりは殺すのを失敗したんだろう。僕が部屋へ来た時点で、縁日かざりは部屋へ入って襲ったあとだった」

「でも、狛さんは無事で縁日かざりは放心状態だった。確かに僕たちは間に合わなかった。狛さんが、縁日かざりに殺されてもおかしくない。でも、狛さんは無事。どう考えてもおかしい。だったら一つの仮説が生まれる」

「それが、正論くんの持論なんだね」と僕は訊いた。

「ああ、今から話す内容は常識を超えている。そして、死んだと思われている絵馬さんの秘密や、これまでの全てが大きく関わっていたんだ」

 徐々に真実が明らかになっていく。そしてこのあと、僕は驚愕の真実を知ることになるのだった。

第89話につづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?