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第90話「世の中はコインが決めている」

 正論くんから衝撃的な発言を聞いて、もっとも驚いたのはハナちゃんだった。

 そりゃ、狛さんが一度死んでいると聞いたら、そんなリアクションになるだろう。だけど僕はイマイチピンときていない。一度死んだと言われても、曖昧な言い方だったし理由も聞かされていないからだ。

「どういう意味で言ってんの。正論くん、説明しなさいよ」と声を大にしてハナちゃんが言う。

「言うなれば、ハナちゃんの中で絵馬さんは一度死んでるだろ。でも、実際は生きている。その真実は変えようがない」と正論くんが冷静な口調で答えた。

「でも、それって銀次郎さんが言っただけでしょう。死んだと聞いただけで嘘とも取れるし死んだと思わせることも可能じゃない。それを言ったら、狛さんが一度死んでると辻褄が合わないわ」

「確かにハナちゃんの言い分は正しい。君の仮説は矛盾が多いと思う。それでも君は狛さんが一度死んだと言うのかい?」

「ああ、死んでいる。そして、絵馬さん同様に心を入れ替えられている。あくまでも可能性の話だったんだけど、今回の件で読みは当たった。鳥居くん覚えてるか?弓子さんが話していただろう。絵馬さんは容姿に変化がないって。それって、つまりこうは考えられないか。絵馬さんは一度死んで、別の人間として生きている」

「あの〜正論くん、全然意味がわかんないんだけど。一度死んで別の人間として生きる。はぁ、何よそれ!?」とハナちゃんが、もう降参とばかりに両手を上げて言う。

「そうか。一度死んで別の人間として生きる。あれは、別の人間として組み立てていた。そう言うことか!そうなんだね!!」と僕はカラクリがわかったので、興奮して大きな声で言った。

「さすが僕の助手だね。話が早くて良い。あの謎めいたピースがなんなのか、詳しくはわからないけど一度人間をバラバラにして、新たに組み立てる。組み立てられた人間は生まれ変わって記憶も変わる。そう考えると辻褄が合うんだよね」

「あのさ、あんた達だけで話を進めないでくれる。私、ついていけてないんだけど」とハナちゃんが、僕たちを細い目をして睨んだ。

 一旦話を止めて、正論くんがハナちゃんへわかりやすく説明をした。ハナちゃんは頷きながら、だんだんと表情を変えていく。

「前に鳥居くんが言ってたように、確かに映画の世界の話みたいだ。でも、これは現実で、多くの人間が僕たちの手によって、新たな記憶と共に組み立てられていた。それがピースの正体であり、絵馬さんや狛さんという人間を生み出したんだ」と正論くんは真剣な表情で話しているが、耳たぶを触っている時点でワクワクしてるのだろう。

「それが本当なら、コマちゃんも新たに組み立てられた人間ってこと?」とハナちゃんが正論くんへ訊ねた。

「ああ、残念ながら。本人は気づいていると思うよ。たぶん……」と正論くんが話してるとき玄関のドアが開く音が聞こえた。

 狛さんが警察の事情聴取を終えて戻って来たのだ。狛さんはゆっくりと僕らの方へ歩いて三人の顔をそれぞれ見つめた。

「私、覚悟はできてるわ。はじめくん教えてくれる?」

 話さなきゃいけない。でも、真実を知ったとき、狛さんのこれからの人生はどうなってしまうのか……

第91話につづく

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