見出し画像

第6話「世の中はコインが決めている」

 三つ目の駅を発車したとき、正論くんが持論を展開した。店長と怪しい人物の関係は横流しをしている顧客。つまりウチの顧客ではなく、店長と直でやり取りしてる相手。ウチの会社は基本的、顧客しか商品を売っていない。

「ほら、店長と絵馬さんは愛人関係って噂があるだろう。彼女と関係を保つために金が必要だってことなんだ」

「それはわかるけど、今回のワザとピースを間違えた件と何か関係してるの?」と僕は訊ねた。

「生産量を誤魔化そうとしてる。ピースをワザと間違えたら、その商品は価値がなくなるのだろう。欠陥品をどうするか知ってるかい?」

 正論くんの質問に僕は首を横に振った。たまに商品にならないモノがあるけど、そのときはベルトコンベアに運ばれて、不良品として弾かれてる。

 つまり正論くんは、その商品を横流しされてるんじゃないかと疑っているみたいだ。

「鳥居くん、勘違いしたらダメだよ。このストーリーは至ってシンプル。不良品と欠陥品は違いがあるんだ。不良品は不良品として扱われるけど、欠陥品は違うところに運ばれるんだ」と正論くんが得意げに言う。

「どういうこと。不良品と欠陥品は扱いが変わるの?その辺の事情は知らないけど」

「だろうね。鳥居くんは真面目だから考えたことないだろう。不良品はベルトコンベアで間違いなく弾かれるけど、欠陥品は地下室へ運ばれる仕組みになってるんだ。要するに店長はワザと欠陥品を出して、地下室へ運んでいるんだ。それをたまたま見たのが、賽銭ってわけ」

 それが本当の話なら、店長も一番見られたくない奴に目撃されたもんだ。正論くんに話したってことは、きっと賽銭はベラベラと喋ってそうだ。その可能性は高いだろう。

 と、ここまでの話を聞いて、僕は正論くんが何かを企んでいると踏んだ。何故ならさっきからずっと、正論くんは耳たぶを触りながら話すからだ。大抵、そんなときは悪巧みを考えてることが多かった。

「それで正論くん、君が何か企んでいると踏んでるけど。違うのかな?」と僕は訊ねた。

「勘が鋭いな。勿論、企んでいるよ。それには鳥居くんの協力が必要なんだ。君の楽チンな生き方に、少しでも変化のある悪巧みだと思うけど。乗ってみるかい?」と正論くんが眉をあげて言う。

 こんなとき、彼は決まって無理に誘ってこない。あくまでも本人の意思を尊重するのだった。乗ってくるなら協力してくれと言っている。僕が協力するかしないかは自由だ。でも、答えは早くに決まっていた。

 僕は正論くんの悪巧みに協力することにした。それはどんなに楽チンな毎日より、きっとワクワクするような出来事が待っていると心の中で確信していたからだ。

第7話につづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?