第35話「世の中はコインが決めている」

 持ち場についたとき、僕は一人の人物を見て驚いた。まさかと思ったが、クビになると聞いていた賽銭の奴も仕事に来ていた。

 賽銭の様子を見ると、相変わらず女性の契約社員に向かってベラベラと喋っている。絵馬さんから近々クビになるとは聞いていたけど、まだ在籍しててもおかしくはない。明後日が締め切りなので、キリのいいところでクビになる可能性があった。

 仕事開始の合図が鳴り出したので、僕は集中しようと気持ちを切り替えた。寝不足だったのもあったので、ミスする可能性もあるから気持ちを切り替えて、しっかりと仕事に集中しないと。

 生産数を確認して、ベルトコンベアーから流れてくるピースを手にしてチェックする。

 遅番は割りかし生産数が少ないので、気持ち的に余裕があった。だが、寝不足なのは痛い。賽銭の奴を気にしてる場合じゃなかったので、僕は一つ一つ丁寧にチェックしては、ピースを組み立てた。

 絵馬さんは滅多に遅番をすることはなかったので、今日は店長が仕事場に居た。だが、店長が作業することは殆どない。僕たちを管理するのが主な仕事だ。

 少し離れた場所で書類に目を通しながら、僕たちの様子を確認していた。あの噂がホントだったら不良品が出たとき、どんな対応をするのか楽しみだった。

 いや、不良品が出てもしょうがない。店長が狙っているのは欠陥品。正論くんの推理だと、店長は不良品に興味はない。あくまで欠陥品に目をつけて、それを横流しして儲けてる可能性があった。

 そもそも不良品はベルトコンベアを流れる途中で弾かれる。

 だったら、欠陥品はどのタイミングでわかるのだろうか。正論くんに教えてもらうまで、僕は不良品と欠陥品の違いを知らなかった。

 だから、そこまで考えることがない。もしかして、賽銭の奴は欠陥品がどのタイミングで判断されるのか知っているかもしれない!

 仕事に集中するといいながら、僕は頭の中で自分なりの考えをまとめようとしていた。休憩になったら、この考えを正論くんに話してみよう。もしかしたら、良いアドバイスを助言してくれそうだ。

 それに正論くん自身も、僕の考えを聞いてワクワクするに決まってる。そうと決まったら、休憩に入るまで仕事も頑張れる。ピースをチェックしながら、僕自身もワクワクするのだった。

第36話につづく

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