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第87話「世の中はコインが決めている」

 駅へ到着すると、僕はタクシー乗り場に留まっていたタクシーへ慌てて乗り込んだ。この時間帯なら電車より車の方が早い。目的地を告げると、運転手へ急いで行ってくれと頼んだ。

 向かってる途中、正論くんへ連絡を入れたが仕事なのか出てくれない。ハナちゃんに関しては連絡先さえ知らない。下手すりゃ、ハナちゃんだって危ない。

 いや、ハナちゃんより、狛さんに連絡すれば良い。慌てて狛さんの電話番号を押した。

 ツゥーツゥーと誰かと通話中なのか、狛さんが出てくれなかった。ヤバイ、何かあったのかもしれない。焦りだけが先行して、どうすれば良いのか考えが浮かばない。

 とにかく向かうしかない。

 歯痒い気持ちを抑えつつ、僕は目的地まで生きた心地がしなかった。もう誰も失いたくない。頼む!頼むから間に合ってくれ!

 数分後、スナックの前に到着した。慌てて飛び出して来たので財布を持っていないことに気がついた。でも、今はそんなこと構ってられない。

 運転手に待っててくれと言って、僕はハナちゃんの住まいで、狛さんが居る二階へ向かった。階段を駆け上がり、二階に到着したとき、ハナちゃんの部屋のドアが開いてるのが見えた。

 狛さん!頼むから無事でいてくれ!

 開けっ放しのドアへ飛び込んでいく。次の瞬間、僕は目を開いて立ち止まった!?

 なんと、縁日かざりが壁にもたれたまま項垂れている。部屋に入っている時点で、何かあったに違いない。狛さんは無事なのか!?

 恐る恐る縁日かざりに近づいた。すると右手に包丁を持っているのが目に入った!

「おい、何をしたんだ!」包丁が目に入った瞬間、僕は縁日かざりに向かって叫んでいた。

 だが、彼女は僕の声に反応しない。それどころか、俯いたままピクリとも動かない。ゆっくり近寄って、縁日かざりが持っている包丁を足で蹴った。カシャーンと音を立てて、包丁が床を滑っていく。

「おい、聞いてるのか!?」と僕はそう言って縁日かざりのそばに身を屈めた。

 すると、縁日かざりは全く僕の方を見なかった。それどころか、ブツブツと何かを言っている。目も虚ろで放心状態に見える。

 何か様子がおかしい。それよりも狛さんは無事なのか?

 放心状態の縁日かざりをほっといて、僕は部屋の奥へと足を踏み込んだ。すると視界に狛さんの姿が目に映った。

 窓の前で立っている。僕の姿を見て、狛さんは口を開いた……

「はじめくん……私は何者なの?」

 狛さんの第一声が奇妙だった。無事だったのにホッとしたが、どう見ても普通じゃない。なにか、何かおかしいなことが起きている!?

第88話につづく

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