見出し画像

夏芭蕉の着物をほどいてみました。

3年ほど前に親戚からいただいた夏用の着物があります。黒地に浅葱色で大きめの草花、蜻蛉、団扇が織り出されているレトロな柄もの。等間隔に縦に金糸が入っています。透け感があり麻のようなはりのある手触りの「夏芭蕉」という絹織物だそう。着てみると細身で身丈も短くしばらく寝かしておきました。薄羽織にしてはどうかと悉皆さんに相談しましたところ、羽織は落ち感のあるしなやかな生地がよいので帯にしてはどうですか、とのアドバイス。夏の帯はとりあえず手持ちがあるのでどうしたものかと思っていました。
 
今年、沖縄の北部・やんばるで出会ってから、芭蕉布に取り憑かれてしまいました。糸芭蕉の繊維から作る芭蕉布はとても希少なもの。量産化できるように考案された芭蕉布に似た風合いだという「夏芭蕉」が急に気になりだして着たくなり、身幅を自分で出して、この夏何度か着てみました。着心地としては麻よりも薄くて軽くて風通しがよく、夏に透け感のある黒地というのも気に入っていました。
 
いかんせん生地の古さと私の雑な歩き方のせいもあるのでしょうか、8月の終わりにはついに裾から数カ所生地が裂けてしまいました。箪笥に寝かしておいてはわからなかった、着ることでわかった価値に愛着が湧き、とても処分する気にはなりません。アップサイクルデザインして有効活用しようと考え、まずはほどいてみました。
 
襟の部分をほどいてみましたところ、折りたたんだ生地の中から、補強用の2種類の小裂が出てきて驚きました。どちらもおそらく絽芭蕉ではないかと思われる透け感のあるさらっとした手触りで、色柄は青地に秋草模様。一つは萩の葉が織で、もう一つは紅葉した葉が染で描かれています。全く見えないところにこんな素敵な小裂を縫い付けるなんて・・・。しかも、涼しく着てもらえるようにこんな涼やかな色柄を選ぶなんて・・・。着る人に対する縫った方の愛情を感じました。
 
着物をほどいてみたら、しみじみと日本の服飾文化には愛が溢れている!と感じた、今年の夏の終わりの夏芭蕉の着物がたりです。

この記事が参加している募集

夏の思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?