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サブスクリプションECの利便性を超えたもの。

かなり前から小売やECの世界でモノよりコト、商品ではなく顧客体験を提供することを考えるべし、と言われる。

ただ、当たり前だけど購入するものによって期待する顧客体験は全く異なる。例えば、Amazonで購入する日用品はモノを購入しているので、ベストな顧客体験としては、シームレスに購入ができる、すぐに来る、それほど高くないなど。利便性が中心になる。
日用品を購入する事自体がそれほど楽しいものではないため、できるだけ時間をかけずに注文したいし、早く来てほしい。それを突き詰めていったオプションがDash Buttonや定期便だったりする。

一方で、いわゆるサブスクリプションBOXはAmazonの定期便とは求められているものが全く異なる。日本ではまだまだメジャーではないが、アメリカではサブスクリプションBOX業界が存在しており、多くのユーザーは日常の楽しみを増やすためにサブスクリプションBOXを購入する。日本でも、パリの雰囲気を体験できるコスメや雑貨を詰め合わせたMy Little Boxや、スナックミーが提供するご褒美おやつ定期便snaq.meなどは、利便性が価値ではなく、日常の楽しみを増やすために利用されている事が多い。

サブスクリプションBOXの場合、BOXが届いた瞬間はもちろん、次回のBOXを待っている時間も顧客体験に含まれる。その時間をより良いものにするために、次回予告を行ったり、次回のBOXに入っている商品のコンテンツを提供したりすることで顧客体験を高めることができる。

サブスクリプションBOX先進国のアメリカでは、より顧客体験を高めるための取り組みがされている。以前参加した、サブスクBOX企業のためのマニアックなカンファレンスでは興味深いサービスが紹介されていた。どの企業もメジャーではないけど、学ぶ企業は多い。

Daisy Cakes

https://www.ilovedaisycakes.com/
一見ただの手作りホールケーキの定期便(都度購入できるプランも有り。Cake of the Month Clubsが定期便)。冷凍されたアメリカサイズのドデカイ手作りホールケーキが届く。ファウンダーのkimが母親と大叔母が作っていた手作りケーキのレシピをネットで販売。というよくあるストーリーなのだが、ファウンダーのKimが言っていたことが面白かった。

Kim曰く、Daisyケーキは10人程度で取り分けるとちょうどよい(アメリカサイズの)ケーキであるため、このケーキが届くと、家族や親戚が集まる口実になる。このケーキを起点に人が集まり、会話が生まれる役割を果たしている。Daisy Cakesはケーキを販売しているのではなく、家族のコミュニケーションを提供している。

家族のコミュニケーションを提供しているということを意識してパッキングやパンフレットの同梱をしており、開封体験(アメリカではUnboxsingと言う)を設計しているらしい。実際に頼んだことがないのでどのような体験かはわからないが、ケーキによってみんなが集まる口実になり、そこで会話が生まれるというのは容易に想像がつく。

ちなみにこのDaisy Cakes、日本のマネーの虎がもととなったアメリカの大人気番組Shark Tankで出資を受けたので有名。(Shark Tankはへたな海外ドラマより面白いのでオススメ。)

STRONG self(ie)

https://strongselfie.com/
8-12歳、13-17歳の女の子向けのサブスクリプションBOX。購入するのはその娘の母親。ファウンダーもこの年齢の娘がいる母親2人。

BOXに入っているものは娘向けで、メイク用品や手芸品、雑貨、スナックなど、いわゆるライフスタイル系。(サブスクリプションBOXにはいくつかのジャンルがあり、生活全般の物が入っているものはライフスタイル系に分類される。)

こちらも一見普通のサブスクリプションBOXだが、単に娘向けのグッズを母親が買ってあげているというわけではない。8-12歳、13-17歳の娘はどうも難しい年齢のようで、母親との関係もうまくいかないことも多いらしい。(父親とはもっとうまくいかないって?そんなことは無いと信じよう。。)

実はSTRONG self(ie)はそんな母親の為のBOXで、このBOXを通じて難しい年齢の娘とコミュニケーションを取ることができる。メイク用品は母親に教わりながら、手芸も母親と一緒に、というように。

このBOXは、"母親と娘が一緒に何かをする"という体験を"母親に"提供している。母親の”娘との関係を良好にしたいが、どうすればよいかわからない”という母親のニーズに答えるBOX。

母親向けのメールで、このBOXを娘とどのように楽しむべきか、というコンテンツを配信し、より良い顧客体験を生んでいるようだ。

娘向けのサブスクBOXね、、と思って話を聞いていたら、母親向けに娘との体験を提供するBOXで、とてもおもしろいと感じた。(この会社もとても小さいスタートアップで、顧客も数百人程度。イベントでピッチを行っていたので今後どうなるかはわからない)

僕も利用している「こどもちゃれんじ」は日本で最もうまくいっているサブスクコマースの一つだと思うが、これも子供の教育が利用目的ではなかったりする。子供と一緒に遊べる時間や、逆に忙しいときに、子供の相手をしてくれるツールだったりする。もちろん、商品としては子供の幼児教育なのだけど、体験価値としては、一緒の時間や、子供が一人で遊んでいてくれることで生まれる時間、だったりする。

顧客体験やカスタマーエクスペリエンス、というキーワードはよく聞くようになったが、誰にどんな体験を提供するのか、という点までうまく設計され、きちんと価値を定義できた商品やサービスはまだまだ少ないのではないかと感じている。サブスクリプションコマースも近頃よく話題にあがるが、利便性だけでは不十分で、利便性とは違う何かしらの価値が必要になるだろう。


snaq.meでも単におやつを販売するのではなく、おやつを食べる時間や、BOXを待っている時間、今日や明日のおやつのことを考えている時間も含めて究極の"おやつ体験"を提供したい。


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