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D2Cモデルを2年行ってみてわかったこと

ここ1〜2年でD2C(Direct to Consumer)というキーワードをトレンドのように目にすることがかなり増えた。スナックミーでは2016年2月に健康的なスナック(おやつ)のサブスクリプションBOXのサービスをスタートした。

当初は各地から質の高い商品を探してきて、いわゆるキュレーション型サブスクコマースを行っていたが、2016年の8月頃からD2Cモデル(そのころはOnline Brandと言っていた→Midiumの記事)に舵を切って、商品開発を内製化し、2018年1月から完全にオリジナルブランドのみを開発・販売する、いわゆるD2Cモデルに事業を転換した。最初から全てオリジナル商品にするのではなく、少しずつオリジナル商品比率を増やしていった。

当初は、D2Cの特徴として、下記のようなことを考えていた。

①中間事業者をスキップできるので、中間マージンを削減して、良いものを安く販売することができる
②ソーシャル活用で、ブランディングのための大きな広告費が必要無い
③ユーザーと直接繋がれるので商品にユーザーの声を活かしやすい

2年間D2Cモデルを行ってみて、おおかたこの考えは間違っていなかったが、属する業界や自社の強みを踏まえた上で、①〜③のどこに力点を置くべきかを選択することが重要とわかった。また、あまり意識をしていなかった点見えてきた。

①の中間マージンの削除は食品業界ではそれほどインパクトがなかった。
最も有名なD2C企業の一つであるWarbyParker(WP)は、それまで数百ドル以上するのが当たり前だった眼鏡を100ドル以下で提供することで業界に衝撃を与え、大きく成長した。(それ以外にもブランディングやhome try onなど成功要因は多いが、価格が成功の一つの要因であることに間違いない。)
WPの成功を見て、D2C = 良いものを安く提供できる、と考えるのは少し安易で、自社がいる業界構造を深く理解しておく必要がある。
米国のメガネ業界はそれまで1社独占(メーカだけでなく、小売や保険までも)で、価格がコントロールされていたため、その独占状態を無視できたWPは大きなインパクトを与えることができた。一般的な業界では、各社企業が価格や品質のでしのぎを削っており、D2Cモデルを採用したからと言って、即時に大きな価格インパクトを実現できるかはわからない。特に、初期のロットが小さいうちは、大手企業の規模の経済の経済インパクトのほうが圧倒的に大きい。
食品業界は原価がある程度高い業界であり、特に菓子業界は、モノの嵩が大きく、単価は低め。ECにはあまり向いていない商材だ。だからここで価格インパクトは出しにくい。他の業界でも大きな価格インパクトを出せる業界は限られており、実際に米国のD2C企業を対象とした調査でも、近年では、既存の商品より安価なものではなく、逆に尖った商品をプレミアム価格で商品を販売するのD2C企業が増えている。(D2C企業のうち、既存と同品質で安価なだけを売りにしている企業は10%以下で、高品質でプレミアム価格の企業は40%以上にのぼる。※米国のとある協会が米国で行ったD2C企業のCEO50人程度への調査)

また、②のブランディングについても、単純にソーシャルを活用するだけではあまりインパクトが無いことがわかった。実際に既存の大手企業もソーシャルメディアへの投資を増やし、フォロワー数を増やしている。(外部に運用を委託して、いわゆる海外D2C企業風の投稿を行っているだけのブランドも多い)
むしろ本質は、顧客とのオープンな対話であり、ソーシャルを活用した透明性で、オシャレな投稿を続けることではない。スナックミーでも、ソーシャルでユーザーから意見を募ることがあるが、多いときは数百件のコメントが付く。そのコメント全てに目を通し、場合によってはきちんと返信を行うが、これは実際にブランドを運用している人間でないとあまり意味がないし、大きな工数がかかる。単に盛り上げるために投稿をするのではなく、本当にお客様の声を聞きたくて投稿を行うし、お客様が求めているであろう情報をソーシャルで投稿する必要がある。ここはスナックミーでもまだ試行錯誤を繰り返していて、インスタライブをやってみたり、時にはインスタ発のオフラインイベントをやったりしながら色々実験を行っているところ。

スナックミーとして最も注力している部分は②の商品開発。海外のD2C企業でもここをシステマティックに行えている企業はまだ多くないのではないかと考えている。スニーカーのallbirdsなどもユーザーの声を商品開発に活用していることで有名だが、ソーシャルのコメントの声を拾うなどしており、システマティックではない。最も先進的な企業の一つはStitchFixかもしれない。D2Cというよりは、コーディネートを軸とした新しいコマースサービスとして有名だが、顧客からの評価などをもとに、アルゴリズムを回して、テクノロジー主体の商品開発なども自社で行っているようだ。
スナックミーはこのStitchFixが行っているような、ユーザーの評価をもとにした商品開発にチャレンジをしている。
毎月お客様にお届けするお菓子について、その全てについてコメント付で4段階の評価が可能で、既に数十万を超えるレビュー情報が蓄積されている。お客様の評価情報をもとに次回のBOXの内容が決まるため、お客様は、次回に届く自分のBOXの内容を良いものにするために評価をしていただける。
そのため、質の高い評価データを蓄積することができ、このデータを商品開発に活用することができる。少しレシピの配合が異なったり、フレーバーが違ったりする試作段階のAとBの商品を商品としてお客様にお届けして、どちらのほうが評価が高いかを見た上で量産化を行うこともできる。データ収集→分析→商品開発の流れはまだまだ研究中だが、ある程度形が見えてきた。

また、当初はあまり意識していなかったが、D2Cモデルでユーザーと直接つながることができるため、顧客体験を設計・コントロールしやすく、モノ以外の価値を提供しやすいという点がわかってきた。これはまた別のnoteでまとめるつもり。

上記で見たように、D2Cモデルの特徴は、属する業界や、企業として強みをどこに置くかで力の入れようが変わってくる。マーケティング出身者の代表のD2C企業は、ブランディングに力を入れるだろうし、テック出身であればテクノロジーを活用した商品開発に力を入れる。また、米国のメガネ業界のように、構造を変えることで大きな価格インパクトを出せる業界であれば、コストを削って価格インパクトを出すことに注力できる。米国ではコンタクトレンズ業界でも価格インパクトで勝負しているHubbleというD2C企業があり、すでにワンデーコンタクト業界で数%のシェアを獲得する規模になっているという噂もある。顧客体験の設計に慣れているサービス業からの参入などもあるかもしれない。

日本でもD2Cがある意味トレンド化し、今後スタートアップ中心にプレーヤーも増えそうだが、D2C企業として本質的な強みをどこに置くかの選択が重要になると思う。最近では、Dirty lemonのようなブランディング×売り方で興味深い取り組みをする企業も生まれてきており、まだまだD2C企業として面白い取り組みができそうだ。


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