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【マチメグリ】HBPワールドツアー訪問紀:園田編・前篇『都市デザインの力と本質的なガバナンス(前半:Malmö, Sweden)』(2018/07/04公開)

4月23日(月)~5月13日(日)までの3週間、社員研修として、ドイツ・デンマークへのワールドツアーに行ってきました。
その様子をレポートにしてお届けします。
第3弾は、園田によるレポート、前後編でお送りします!

Introduction
もうだいぶ経ってしまいましたが、4月末~5月中旬にかけての3週間、海外研修としてドイツ、デンマーク+αでスウェーデンとオランダ、に行ってきました。既に泉と有賀のレポートはアップされていますので、そちらもぜひご覧ください。

私の回では、スウェーデンのマルメ、ドイツのハンブルグとドルトムントを取り上げて、都市デザインとガバナンス、という視点からまとめてみます。

個人的に、ここ数年「都市計画は本当に必要なのか?」と言った議論の中での戦略性のないゲリラ的取り組みへの迎合や、「公民連携」「稼ぐ公共」といったスローガンの名の下での本質を欠いた民間依存(もちろん一部の素晴らしい事例を除いて)が広まっているように感じており、日本の都市を取り巻く状況に強い違和感を持っていました。本当の意味での都市計画や都市デザインという考え方の下ではまだまだやるべきこと、やれることはたくさんあります。そして「都市・地域の経営体」という意味での本質的な行政組織であれば、民間企業にはできない、公共だからこそ担える都市政策や事業が多くあります。それをきちんと理解し、自分が携わる取り組みを通してその想いを証明していくためのヒントを得る、という意味でも今回の旅はとても実りあるものとなりました。

Malmö(Sweden):都市×ランドスケープ×建築のトータルデザインによる豊かな生活の景

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コペンハーゲンの滞在期間中、日帰りでスウェーデンに渡り、海辺の街Malmö(マルメ)をGehl ArchitectsのDavid Simさんに案内していただきました。いまやGehl Architectsの番頭を務めるDavidに半日丸々案内していただけるということ自体も貴重な経験でしたが、これからご紹介するVästra Hamnen(ヴェストラ・ハムネン)地区のプランニングとデザインが非常に素晴らしく、本当に貴重な体験となりました。

マルメ市は約34万人が住むスウェーデン第3の都市で、国の南端に位置しており、エースレンド海峡を隔ててデンマークのコペンハーゲンと隣接しています。2000年にこの海峡を横断するエースレンド・リンク(橋と海底トンネルの複合体)が開通して道路と鉄道で行き来ができるようになったことから、近年では物価の安いマルメに住み、給与の高いコペンハーゲンに通勤して働く、というスタイルの人が増え、人気が高まっている都市です。

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■マルメ駅のすぐ近くにある古い建物をリノベーションしたマーケット風の飲食・物販施設

そのマルメの港湾部に計画され開発されたのがヴェストラ・ハムネン地区です。
ヴェストラ・ハムネンは「西の港」という意味で、1987年までに埋立てによって造成された地区です。元々この地区で操業していた100年以上の歴史を持つ造船会社の工場が閉鎖した後に、スウェーデンの自動車メーカー、サーブ社が工場を構えていました。しかしサーブ社も1996年に工場を閉鎖したことからマルメ市が土地・建物を買い取り、国際会議・展示場として活用していました。2001年の欧州住宅博覧会の開催時に25haの土地が開発され、それをきっかけに持続可能な都市開発を掲げた住宅地区としての開発が加速しました。地区全体の面積は160haに及び、10,000人の居住人口と20,000人の就業・就学人口が計画されています。事業はマルメ市とデベロッパー各社のパートナーシップによって行われており、マルメ大学も連携して様々な分野において持続可能性を高める工夫が施されています。

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■役目を終えた巨大なサイロが残るまちなか     ■現在も地区のあちこちで開発が進んでいる

エネルギーに関しては、地区内で消費されるエネルギーを100%地元の再生可能エネルギーで賄うことを目指しており、建物の屋上のソーラーパネルや風力発電施設、有機性廃棄物から抽出されたバイオガスを燃焼させて熱をつくる仕組み、夏期の温水を地下70mに貯蔵して冬に組み上げ暖房に利用する帯水層蓄熱システム等のシステムが地域冷暖房施設や地域電力供給網と連結されており、年間を通じて平準化されたエネルギーの供給を可能にしています。


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■地区内に設置されているゴミ回収システム。地下のダクトを通って回収拠点に集められる。

交通に関しては、マイカーの利用を抑制するための取り組みとして住宅地から300m以内にバス停が設置され7分間隔でバスが運行されており、このバスも有機性廃棄物から抽出されたバイオガスで走っています。さらにカープール制度の導入や8kmに渡る自転車道整備などにも行っています。

また、教育やビジネス環境にも力を入れており、テクノロジー系企業を多数誘致するとともにマルメ・ビジネス・インキュベーターも設置して起業家支援も行っており、スウェーデンで8番目に大きいマルメ大学を誘致することで産学協働の環境も整えています。

地区内のランドスケープはグリーンインフラとしてデザインされています。降った雨水は直接下水道に流すのではなく、地区内に点在する池や各住戸の庭などで流下を遅延させた後、そこからつながる水路を通じて海に放流しています。水路の周辺は美しく緑化されており、緑豊かな住環境を形成するとともに、ビオトープとしての役割も果たしている池は種の多様性の確保や雨水の生化学的浄化に貢献しています。

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■地区内の至る所に設けられた池と水路。植えられた植物と併せて、他の生物の住処にもなっている。

地区内にはStapelbädds parken、Ankar parken、Dania parkenという3つの公園が設けられています。その1つStapelbädds parkenはスケートボードパーク、ボール遊びのできるエリア、クライミングウォールなどが整備されていますが、この公園の整備あたってはスケートボードパーク等の用途に反対する人が出ることが予想されたことから、最初に公園をつくってしまい後から周辺住宅を建設することで、スケートボードパークがあることを理解した上で協力的な住民が住んでくれるよう計画上の工夫をしています。

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■広々とした敷地に多用なアクティビティのための空間が整備されたStapelbädds parken。

住宅エリアは複数の地区に分けて計画されており、そのうちFlagghusen地区は全体で16棟、600戸以上のコーポラティブハウスや賃貸マンションが整備されています。この地区の比較的安価な価格に設定され、経済的な持続可能性に配慮しています。長寿命住宅として建設されているこの地区の住宅は、メンテナンスコストも低く抑えるとともに、エネルギー効率を高めることで環境的な持続可能性にも配慮されています。

Skanska地区は木造で建設された3階建てアパート、テラスハウス、庭のある高層住宅のブロックがあります。木造建築は断熱性能を高めることでエネルギー効率の向上に配慮されており、各戸の住民は個人のエネルギー消費量を計測できるようになっています。

ヨーロピアン・ビレッジと呼ばれる地区は、2001年の欧州住宅博覧会でヨーロッパ各国から建築家を招き、各国の伝統的な素材や建築工法によって、様々な建築家が設計し建設された住宅が立ち並んでいます。博覧会当時は、欧州標準化委員会による標準規格” European Construction Products Directive”を適用する実験住宅としての位置づけもあり、会期中は訪れた人が家の中を自由に見学できました。博覧会終了後は一般向けに販売され、現在は多くの人が実際にこれらの住宅で暮らしています。

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■スケール、共同・戸建、賃貸・分譲、素材・デザイン、環境等、多様なバリエーションがミックスされた住宅エリア。

住宅エリアの配置計画やパブリック・スペースのプランニングにも様々な工夫がなされていました。ここは海に面した場所であるため風が強く、それを防ぐために住棟配置が若干振った角度となっていたり路地が辻を設ける形で設計されていたりと、地区全体のプランニングで対応するよう計画されています。また、テラスハウス型の住宅には裏庭をつくりその先に共用の倉庫を設ける、建物は路地や通りに対して大きな開口をとって道行く人と住人が気軽にコミュニケーションをとれるよう配慮するなど、住宅の設計においても様々な工夫がなされています。こうしたスケールを超えたきめ細やかな配慮をすることで、新興住宅地でありながらヒューマンスケールで人の暮らしが街の雰囲気をつくるような暖かい環境がデザインされていました。

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■風を防くために辻型に計画された路地        ■抜けた先の空間を期待させる視線の作り方

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■裏庭(右)と共用の倉庫(左)             ■街に生活感を表出するポーチ

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■駐車場の入口は共同化して基本的に街区の外に向けて設けられ、地下に停める形式となっている。

ヴェストラ・ハムネンの地区内には、規模や性格の異なる様々なパブリック・スペースもプランニングされています。海に面したエリアには長いボードウォークが整備され海沿いの散歩を楽しめますし、ところどころには柵も桟橋が出ていて、冬でもここから海は行って泳ぐそう。住民のための小さなマリーナには船が並び、休日にはクルーズを楽しむ家族も多いとのこと。その他、規模の異なる公園が点在して配置されていたり、海沿いのカフェも広い面積の屋外席をつくり、街の雰囲気を形作っていました。海沿いの建物の1階角地などはカフェやレストランなどの飲食店を入れることがガイドラインで定められており、こうしたソフト面でのプランニングも豊かなシーンを生みだすための工夫として非常に有効に働いています。

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■海沿いのボードウォークは大人気で、夕焼けを待ちながらおしゃべりする人々も多数

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■柵のない桟橋から海に飛び込み泳ぐそう

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■住宅エリアの中にも大小様々な公園やキッズスペースが設けられている

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■ガイドラインに沿ってつくられたカフェと、広範囲に屋外席を設けているカフェ

今回、マルメのヴェストラ・ハムネンを訪れて感じたのは、都市のプランニングというのはやはり重要であり必要不可欠だということと、都市づくりにおける多様なスペシャリストが適切な役割分担と緊密な連携をすることで、新規開発においてもこれだけ魅力的な環境が創りだせるのだということでした。

行政も含めた都市計画の専門家が地区全体の街区デザインや住棟配置、路地やパブリック・スペースのレイアウトをつくり、ランドスケープ・アーキテクトがグリーンインフラとしての役割も含めた緑地と水路のシステムを構築して公園やパブリック・スペースのデザインをする。そして複数人の建築家がガイドラインに則しながらも個性をもった建物を設計し、人の暮らしの器をつくっていく。最後は実際にそこで暮らす人々が庭やポーチを使いこなすことで街に表情を与え、自らがパブリック・ライフを満喫することで豊かな暮らしのシーンをつくっている。

ヴェストラ・ハムネンの開発では、このように各分野のスペシャリストがしっかりと連携しながら各々の役割を果たすことで非常に豊かな環境を構築しています。その根底にあるのは実際に暮らす人の日常生活を具体的にイメージし、そのためのデザインを鳥の目からアリの目まで一貫して施していることにあるのだと思います。日本の都市においても、都市計画が不要なのではなく、計画する方向性や粒度が変わってきているだけで、それを正しく認識してきめ細やかなプランニングやデザインをしていくことが必要なのだと思います。人口が減って都市も縮小していく中では、俯瞰的な視点で見た上で都市が都市であるために必要な「ヒト・モノ・コト」の密度をいかにして維持し続け、効率的な機能集約を図っていくかということも重要な問題です。それを実現できれば、全体の規模自体は縮小して小さな単位になったとしても日々幸運な出会いや新陳代謝が残る豊かな暮らしを守っていくことができます。そのためのヒントが、この街にはたくさんちりばめられていました。

後篇に続く

(園田聡)

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