短歌研究新人賞に送った連作「生贄」

実家から送られてきた見合い写真 農家の息子(49歳)
犬猫の繁殖相手より雑に嫁入り先を決めつけられる
家のため社会のための生贄にされて私が殺されていく
もう二度と実家に帰りたくなくて今更ながら婚活をする
アラフォーの独身女に価値はない婚活垢に煽られ焦る
マッチングアプリに並ぶ顔写真 気持ち悪くてトイレで吐いた
ルックスが全てじゃないと言うけれど生理的に無理なものは無理だ
本能のサイレンが鳴る冷や汗が背中を伝う また吐きそうだ
石の下うごめく謎のゲジゲジの虫を見つけた嫌さに似てる
ゲジゲジの中からマシなゲジゲジを探すつもりで♡をつける
♡って好意を示す意味じゃない 記号を押してみただけなのに
ゲジゲジが明日会いたいなどと言う 場所はサイゼでしかも割り勘
サイゼリヤ好きだし別に割り勘が嫌じゃないけど合わさると駄目
これだから独身なんだと拒否をしてまた新しいゲジゲジ探す
高望みなんてしないし身の程は弁えている(つもりではある)
独りでも生きていく気はありますしわずかながらも備えてはいる
女性には女性特有のリスクがあると言われて特約つける
保険屋の仕事ができるFPの結婚指輪プラチナきらり
左手の薬指ガラ空きのままパワーストーン屋に吸い込まれ
恋愛運アップのローズクオーツを強めに勧めてくる店員
押し負けて買った指輪のチープさが似合う私の無駄さに似合う
4Cが高いダイヤが欲しいとか思わないけど羨みはする
3ヶ月分の給料かき集めたって大した指輪は買えん
おめでとうございますって言われたいだけかも知れない もしかしたら
相談所 入会金が月給とだいたい同じくらいの額だ
そんなにもお金払って結婚がしたい訳でもなかったりする
人並みでありたいだけで彼氏とか夫が欲しい訳でもないや
幸せになりたい何もかも全てぶっ壊したい合法的に
家だとか国とか全部滅べって気軽に思う バルス唱える
何もかも滅んだあとに出会いたい 共に暮らしていける誰かに

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