(英語での)良い研究発表とは

筆者: 荒川 (カーネギーメロン大学)

この1週間は4つの別プロジェクトについての研究発表をする怒涛の日々だった (CMUの学科の教授陣に対するもの1つ※と、Ubicompという学会でのもの3つ)。第二言語 (英語) で研究発表するのはとても難しい。即興で文を繋ぐことが難しかったり、アクセント故にキーワードを伝えづらかったり、スライドの情報量の感覚が持ちづらかったりと、ものである。鉄則は事前の練習をすることが大事、であるがその際の指針的なものを備忘録としてメモしておく。Ubicompでは他の参加者とも、良い/悪いプレゼンは何かについて振り返る機会もあったので、その議論も一定反映されている。

前提として、週次のラボミーティングのように、進捗を共有して議論をする下地ができている環境ではなく、学会発表等で自分の研究を知ってもらい、学会であれば論文に誘導したり、その後に話しかけてもらえたりすることを目標とした場合の話である。

聴衆に賢くなった気分で帰ってもらうことを意識する

  • トークを行う上で、与えられた時間や聴衆の背景を踏まえて、上述したような適切な目標設定をして準備をするのは当然のことである。実はわかっていても聴衆中心ではない自分中心のプレゼンになってしまうことが非常に多い。自分中心のプレゼンは、話し終えた自分は満足するが、聴衆にメッセージが伝わらないものである。

  • 自分が他の人のトークを最初から最後まで集中して聴かないように、聴衆も自分の話をずっと聴いているわけではない。初出の単語を使ったり、説明が速かったりで、理解が不十分になってしまうと、すぐ離脱してしまう。この危険性を避けるため、聴衆が少しでも新しい視点を得て帰ってもらうように、むしろ授業だと思って話すことを常に心がけて準備すると良い。

  • 基本は詰め込みすぎない、ゆっくりと、スライドに書いたことは全部言及する、そして余裕を持って終える。1スライドにかける時間も長くなりすぎないようにしたい。スライドを分けたり、本当にこの情報はいるのかと再考したりと、ビジュアルをうまく活用する。

トークは自分の正しさの証明ではない

  • ガチガチに論理武装して、どうだ!ってみせても聴衆は置いてけぼりの気持ちになる。わかりやすくビジョン/ストーリーを伝えることが大事。

  • 文字が多いのは基本好まれない。防御力を高めるために文字を多く詰め込むのは、朝から色々な研究発表を通しで聴いていて疲れている聴衆には届きづらい。アイデアを確実に伝えて、多少つっこまれた方が、むしろ議論は盛り上がるし、そこで「良い質問ですね、実は…」とインタラクティブにメッセージを伝える方が、聴衆に届けるという点では楽だったりする。

広さよりも深さを

  • 学生であれば特にアピールをしたいという思いに釣られて、色々やったこと (ex. さまざまな評価実験、他のプロジェクト) を詰め込んでしまい、 トークに深みが欠けてしまったり、結局何を伝えたいのかよくわからなくなったりしてしまう。「なんかありきたりのことをやっている人だったね」と思われるのは勿体無い。一点突破で深さを伝える。もしかすると「それだけの人」と捉えられたくないという自尊心があるかもしれないが、それはプレゼン外で話す際に十分アピールできる。イタリアン料理のコースでパスタを提供したからといってあの料理人はパスタしか作れない、とは思われない。

  • (もちろん、広さを提供するような場も別に存在する )

興奮する

  • 自分の研究の一番のファンは自分であるから、しっかりその興奮を伝える。これはしゃべり方とかの非言語情報の使い方が大事。

  • エンゲージメントという点ではジョークを入れたりできるとなお良い。 (文化背景が異なる人たちに向けたジョークを考えるのは大変であるが)

Pixel Perfect

  • 自分のアドバイザもその周囲も “pixel perfect” と呼ぶ慣習で、ものすごくビジュアルにこだわる。これはアラインメントとかフォントとかのレベルでもそうだし、映像とか挿絵が効果的か、というレベルでもである。主義かもしれないが、一度これに慣れてしまうと、”pixel perfect” でないスライドを見た時に気になってしまうし、少しがっかりしてしまうこともある。一種のプロフェッショナル性。

最後に。好きなプレゼンのスタイルや、プレゼンに対するFBは全て主観的なものである。最終的には自分の中で洗練していくと良い。


※ 所属しているCMU HCIIの博士課程では1,2年生の終わりに1回ずつcommunication talkなるものがある。これは学科の全教授 (+任意で参加する学生、多い) に対して20分の研究発表、10分の質疑応答を行うもので、比較的大きなイベントである。詳細はこちら「グローバルアイ〔第66 回〕HCI 分野とCMU HCII

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