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【外資系の転職術⑥】一本釣りの裏側の世界

今回は、外資系の転職術の最後のルートの紹介です。キャリアや専門性が確立されているステージの方に見られるルートです。

外資系と聞くと、「ヘッドハンティング」や「一本釣り」のイメージがある方も多いのではないでしょうか。

イメージの通りで、上の方のポジションになると、そもそも募集ポジションを一般公表しないことも多いので、一般応募をするチャンスがなく、「声をかけられた人だけ応募できる」という状況になります。

ただ、これは広義の「ヘッドハント」で、そこそこ幅広く声掛けがされていることが多いです。厳密にいうと、「あなただから声をかけた」というよりは「あなたも該当するかもしれないから声をかけた」というニュアンスです。

広義のヘッドハント vs 一本釣り

一方で、ピンポイントであなたにロックオン、という声掛けがあります。これが、いわゆる「一本釣り」です。通常は、とはいえ何人かには声をかけるので、厳密にいうと「五本中一本釣り」くらいが正しいかもしれません。

この一本釣りは、転職術シリーズ①〜⑤で既述のルートで行われることが多いです。

すなわち、

  1. エージェント

  2. 知り合い

  3. LinkedIn

の3つです。

しかし、「一本釣り」では、その裏側で行われていることが、①〜⑤とは大きく異なります。

簡単にいうと、採用企業側(特に人事の採用担当)のコミットメント(言い換えると会社からのプレッシャー)がこれまでと異なります。

一本釣りが行われるようなポジションは、事業にとっても特に重要な位置付けなので、経営陣も採用状況を注視することになります。

通常は、採用期限も決められていて、人事部にとってのKPIとなります。期限は、一概には言えませんが、一般的には、3〜6ヶ月でオファーまで到達するようなスピード感が多いです。

この期間で、経営陣も納得するような良い候補者を見つけてくること、そして企業側もその候補者にも選ばれて、相思相愛になることは、至難の業です。

一方で、採用にかかるコストの社内予算は、取りやすくなります。

そこで使われるのが、「リテーナー契約」と呼ばれるものです。

コンティンジェンシー契約 vs リテーナー契約

①〜⑤までに出てきたエージェントの役割は、「コンティンジェンシー」と呼ばれて、「努力ベースで候補者を探して声掛けをするけど、気にいる候補者が見つけられなくても責めないでね」というものです。

複数のエージェントが動くことが多く、エージェントの立場からすると、このサーチに「コミット」する義務はありません。あくまで「協力体制」であり、途中で抜けても問題ありません(採用企業との関係性への影響はここでは除外します)。

従って、エージェントとしては、成功報酬をもらえる可能性(つまり自分が良い候補者を見つけられる可能性やその候補者が選ばれる可能性)や、そこに至るまでの努力コスト(候補者を見つけるためにかかるリソースなど)を加味して、協力するかしないかを随時判断します。

エージェントも、慈善事業ではありませんので、そこはビジネス判断を都度することになります。もし自分が紹介した候補者が選ばれなければ、そこに費やしたコストは全て「無駄」になってしまいます。ROIが高い案件にフォーカスするのは、懸命な事業判断と言えます。

一方で、ここに双方の拘束力を発生させるのが、リテーナー契約というものです。リテーナーとは、英語の Retention = 維持する、からきています。

リテーナー契約上は、エージェントは、その採用に「フルコミット」します。そしてそれを契約で合意します。通常は、後払いの成功報酬だけですが、リテーナー契約では、企業からエージェントへの事前払い(英語では upfron payment と言います)が発生します。

そしてさらに、このリテーナー契約は、「Exclusive(独占的)な」場合が主流です「独占的」というのは、この契約を結んでいるのが、1社という意味です。つまり、ある特定のポジションの採用を、1社のエージェントが完全に任されるのです。

これには、企業側とエージェント、それぞれに大きなメリットがあります。

企業側、特に人事担当者からすると、コンティンジェンシーですと、複数のエージェントを通じて、四方八方から候補者が紹介されるので、ありがたい半分、それを回すオペレーションにかなりのリソースを取られます。募集事項を各社に説明するだけでも、かなりの労力です。もしくは、何社にお願いをしたにも関わらず、全く候補者が紹介されず、採用が進まずに頭を抱える、ということもありえます。

エージェントからしても、コンティンジェンシーは、他社エージェントとの競争になりますので、成功報酬をもらえる可能性が減ったり、ようやく良い候補者を見つけた!と思ったら、すでに他のエージェントを通して応募済みだった、という非効率も発生します。

その点、リテーナーですと、人事担当者にとっては、1社と深く付き合えるので、募集事項を深く理解してもらえて候補者のミスマッチも減ります。何より、エージェントが必ず候補者を見つけることにコミットしてますので、そこは安心できますし、候補者管理を手伝ってくれるようなものなので、オペレーション的な負担もかなり減ります。

エージェントにとっても、他社との競合がないですし、リソースをかけたが成功報酬がもらえず全体では赤字になった、ということもありません。事前払いを受け取ることで、社内リソースも確保しやすくなります。

このような契約上で、エージェントは候補者を満遍なくサーチし、企業側と相談しながら、段階を踏んで、候補者を絞っていきます。そして最終的に残った候補者に、いよいよ声をかける。これが、狭義の「ヘッドハント」です。

このサーチや声掛けに使われるのが、先述の、エージェントの登録データベースだったり、LinkedInだったり、場合によっては、ビズリーチなどのマッチングサイトだったりします。大手企業だとメールアドレスは大体予想がつくので、会社メールにコールドメールすることもあります。

1つ追加すべきは、このレベルのポジションになると、大体、誰かしらはつながっている、または評判を耳にしたことがある、ということも多いので、エージェント経由以外でも、同時進行で「知り合いを通じた声掛け」というのも大いにありえるということです。

(エクスクルーシブのリテーナーをしながら、別ルートでも探すには色々と契約上での約束事などがありますが、本記事は、あくまで候補者となる方が転職を検討する上で有益だろうと思われる情報提供が目的なので、細かいエージェント業の裏話的なことはあえて割愛させていただいております。)

リテーナーで声をかけられるメリット

私も何回かリテーナー契約の採用ポジションで声をかけて頂いたことがありますが、コンティンジェンシーでの声掛けとは、圧倒的に、エージェントの私に対する知識量が異なります。

当然のように、ウェブ上に出ている私の情報は全て目を通しており、怖いなと思うくらい私のことを理解しています。だからこそ、リテーナーで紹介される案件というのは、必ずしも自分が想定していなかったポジションだったとしても、聞くと「なるほど、確かに自分の今後のキャリア的にもありがたい話かもしれない」と納得しやすい気がします。

ヘッドハントは、私にとっては、自分の視野を広げてくれるきっかけにもなっています。自分が、人材マーケットでどう見られているのか、客観的に知ることもできます。結果的に、その仕事を引き受けるか辞退するかに関係なく、自分にとっての大きな学びになります。

またヘッドハントされたからといって、その時点ではオファーが確約されているわけではありません。企業側から声をかけておきながら、最終的にはオファーが出ない、ということも当然あります。

もしくは、面接を通じて、双方、ちょっと違うかな、と感じて、自然と話が消滅することもあります。

これらの対話を通じて、結果的に双方がどのような判断をするかに関わらず、候補者にとっては、リテーナーで声をかけてもらえるのは、とても有益なことだと思います。

キャリアの可能性を最大化するには

一本釣りに関わらず、声をかけてもらうためには、まずは見つけてもらう必要があります。有名企業のそれなりのポジションですと、業界内で名前が知られていたりして、見つけてもらいやすいかもしれません。

しかし、そのようなポジションではなくても、優秀な候補者の方とたくさんお会いしてきましたし、見つられさえすれば、あとは、現職の企業のサイズなどよりも、「何をしてきたのか、どのような貢献をしてきたのか」という個人に焦点が当たります。

ヘッドハントされることが決してキャリアのゴールではありませんし、そもそも転職自体、良い悪いの話ではありません。

ですが、もし転職を選択肢の一つとして考えている場合は、まずは見つけてもらえるよう、転職する意思がなくても、キャリアの早い段階でエージェントに登録したり、LinkedInに詳細を記載したりして、まずはエージェントとの関係づくりをし、転職市場に慣れ、いざ本気で動きたい時に動けるよう、自分なりの「仕込み」をすることをお勧めします。


ここまで6回に渡り、外資系界隈ではとても一般的な転職術についてご紹介してきました。

繰り返しですが、人事に長く身を置くものとして、エージェントや人事周りの、「裏話」を面白おかしく暴露することが目的ではなく、あくまで候補者となりうる方や、今後のキャリアを真剣に考えている方にとって、有益ではと思われることを中心に書いています。

わざわざ候補者の方にお伝えする必要がないことなどは、意図的に割愛しています。エージェントの方にとっても、不利益にならないよう配慮したつもりではありますが、もし気になる点などありましたら、ご指摘いただければ幸いです。


🌷ここまで読んでくださりありがとうございました!🌷

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