見出し画像

究極の機能美

最初にお断りしておくが
今日の記事は少しネタがマニアックである。

何かオチが待っているのかと
読み進めてもオチすらマニアックな可能性は
否めないので、
予めご了承いただきたい。

そんなマニアックなネタとは何かというと
”プロレス”である。

この話のキッカケは先日Amazonプライムの
動画一覧を見たことであった。

私は息子の習い事の送り迎えをすることが
しばしばあるので、
車の中でちょっとした待ち時間ができる事がある。

そんなときはアプリで英語の勉強をしたり
スマホで本を読んだりするのだが、
頭が疲れている時には単純に見て楽しめる
動画を見たいと思うことがある。

ならYouTubeでも見ればいいと思うかもしれないが、
私のスマホはコストを抑えるためデータ容量が
極めて小さいものにしているので、
外でYouTubeを見るのは避けたいのだ。

ではどうするかというと、
動画をダウンロードしておくのである。

あまり知られていないが、Amazonプライムの
プライムビデオにはダウンロード可能な動画が
いくつかあり、
それを家でダウンロードしておけば
基本的にオフラインであっても視聴することが
できるのである。

昨年海外に出張した際にこの存在を知り、
飛行機の中で名探偵コナンを観た私は
それ以来味をしめてしまった。

とはいえダウンロードできる動画は
種類がかなり限定されるので
今回はどんな動画があるか期待半分、諦め半分で
覗いてみると、
なんとアントニオ猪木さんの名勝負が
ダウンロード可能と表示されていた。

今更アントニオ猪木さんについて
わざわざ私が説明をする必要はないと思うが、
言うまでもなくアントニオ猪木さんは
我が国日本のプロレス界において偉大な存在である。

エンタメとしてプロレスがお茶の間に浸透した
昭和時代のプロレスを支えた一人であり、
2022年にご逝去された。

私は大学生の頃にプロレスを見るのにハマリ
今でもごくまれながらプロレスをみるのだが、
正直昭和のプロレス事情については詳しくない。

プロレス好きの人と会話をすると
昭和のプロレスの話題に及ぶことが多く
ごく一般的な話は知ってはいるものの、
正直私の中では古典を学ぶような感覚で
出来事を知っている程度であった。

特にその当時の試合については
あまり見る機会がなく、
往年のスター選手の必殺技が何かは知っていても
それがどのような試合の展開の中で
出されるものなのかは知らないほどである。

そんな私にとってアントニオ猪木さんの名勝負は
まさに古典を学ぶ格好の素材の様に思えた。

迷わずダウンロードボタンを押し、
昨日息子が練習するサッカーグラウンドの
駐車場でその動画を閲覧することにした。

赤いタオルを首にかけた猪木さんが
ガウンを脱ぐと会場から割れんばかりの歓声が
響き渡る。

会場が猪木さんの試合を楽しみにしている
熱気のようなものが小さな画面越しにも
伝わってくる気がした。

10分ほどして息子が車に乗ってきたので
その動画を途中で中断したのだが、
視聴しながら私の中で2つの驚きが
心の中にフワフワと漂っていた。

一つは猪木さんの体についてである。
とても失礼ではあるが、あえて率直な言葉を使うならば
猪木さんの体がとてもショボく見えたのだ。

私がプロレスを見始めたのは大学生の頃。

2000年代一桁の前半に大学時代を過ごした私にとって
プロレスラーとはマッチョでいい体をしている
存在であった。

今ではもうベテランの域になってしまったが
棚橋選手などは当時からマッチョな体で
とても強そうに見えたし、
小島聡選手や武藤敬司選手の分厚い胸板には
とても憧れたものである。(下記参照)

そんな平成プロレスを知っている私からすると
アントニオ猪木さんの体はとても貧弱で
決して強そうには見えなかったのである。

プロレスラーにしては厚みのない胸板、
そして細い足。

私が偶然見ていた試合はアンドレザジャイアントとの
試合だったのだが、
アンドレの腕と比較しても猪木さんの太ももは
細く見えるほどであった。

同じ昭和のプロレスを生きた選手に
マッチョドラゴンこと藤波辰爾選手がいるが、
藤波さんはそのあだ名の通り
マッチョな体格をしており、
私が知っている平成のプロレスラーと比較しても
遜色がない印象であった。

往年のボディビルダーである
アーノルド・シュワルツェネッガーが
今年現在で74歳なので、
当時からウェイトトレーニングをして
体を大きくする方法はある程度確立されていたはずである。

だが、アントニオ猪木さんは
体をデカくするという選択はしなかったのである。

私にはこれがとても不思議に思えた。

プロレスは格闘技であるとともに
ショー的な要素も含んでいるのは
今更いうまでもないであろう。

もちろんそれは真剣勝負でないという意味ではない。

真剣勝負の中でも観客の方に
楽しんでみて頂ける要素を盛り込んでいるのだ。

その要素には技も含まれるであろうし、
試合前後のマイクパフォーマンスなども含まれる。

そして、選手の見た目というのも
間違いない要素の一つである。

今の時代には逆に珍しくなったが、
この時代のプロレスラーと言えば
ショートタイツで戦うのがオキマリであった。

これはプロレスの神様ことカール・ゴッチ氏が
足の動きを最大限活かすために
着用することを推奨したことから
来ていると言われているが、
プロレスラーはその鍛え上げた肉体を
しっかりと観客に見せるという要素も
あったのではないかと思うのだ。

前述した藤波辰爾さんも最近話し方が
話題になることの多い天龍源一郎さんも
まさに黒のショートタイツで戦っていたのは
まさにこの流れであろう。

ところが、平成のプロレスラーに比べると
猪木さんの足はとても貧弱に見えたのだ。

正直にいうと、私はそれにとても
ガッカリしてしまった。

アントニオ猪木さんの存在は
平成のプロレスしか知らない私にとっても
とても大きなものであるのに
その猪木さんの足が見劣りしていたからである。

だが、試合が始まってみると
その印象がゴロっと変わった。

足が無駄に太くないがゆえに
流れるような関節技に移ることができるし、
相手に足を極められても
そのダメージは明らかに少ないように見えたのである。

よく考えてみるとそして猪木さんの代名詞である
卍固めやコブラツイストはまさに
足が太すぎないからこそできる
関節技ではないだろうか。

また胸板についてもそうである。

確かに厚い胸板は強さの象徴のように
思われがちであるが、
実際大胸筋を極端に使うような
プロレスの技はない。

相手を持ち上げるのにも
関節技を極めるのにも、
そして相手を打撃するのにも
別に胸の筋肉は重要ではない。

むしろ大切なのは胸よりも背中の
筋肉なのである。

試合を見ていく中でこのことに気付いたのが
私の中での2つ目の驚きであった。

まさに猪木さんの体は
プロレスでの機能面を考慮した際の
最適解のような体だったのである。

こんなことを言うと
「では今のプロレスラーは見かけだけなのか」と
お叱りの言葉が出てくるかもしれないが
私が言いたいのはそういうことではない。

今のプロレスに求められたものと
猪木さんが現役でされていた頃に
観客が求めていたものは
少し異なっていたというだけである。

結局、家に帰ってから私は数試合
猪木さんの試合を見て、
猪木さんの存在感にずっと圧倒されてしまった。

昭和のプロレスを知らない私でも
魅了させられるものがそこにあったのである。

色んなものが大きく変化する時代であるが
温故知新の考え方は
いつでも大事にしたいものだと改めて
感じさせられた土曜日の昼下がりであった。

冒頭にお断りしていたように
最後までかなりマニアックな話になってしまったが、
「私はプロレスなんか…」と食わず嫌いせずに
だまされたと思って一度観てみてほしい。

ちなみに猪木さんの試合を家で見ていると
妻が私にあれこれと手伝ってほしいことを
依頼してきた。

試合のいいところなので見続けたかったのだが
妻とて理由があって今頼んでいるのであろう。

どうやら軽い模様替えをしたい妻は
私に子供の学習机を移動させてほしいらしい。

重い机を持ち上げる私は
さながら相手レスラーを持ち上げる
猪木さんに重なっているような気がした。

元気があればなんでもできる。
迷わず行けよ、行けばわかるさ

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?