見出し画像

自分の耳を信じよ

先日仕事関係で電話問い合わせをしたとき
相手の方に色々とアドバイスを頂いた。

こちらが聞きたかった内容がハッキリし
私はお礼を言って電話を置こうとしたところ
担当の方が「私、〇〇がお電話対応いたしました」と
言って電話を切った。

問い合わせをしたのは分析機関なので
どなたに聞いた内容なのかを聞いておかないと
次に分析を依頼する時に、再び違う担当者に
話をしなくてはならない。

それを避けるためのマニュアルなのだろう。

相談しながらメモをとっていたノートに
その方のお名前を書こうとしたのだが、
私は固まってしまった。

お電話では「まくら」と言ったような気がしたからである。

だが、「まくら」なんて言う名字は聞いたことがない。

もしかすると”和倉”という名字を
私が聞き間違えたのかもしれない。

そんな風に思い、私は自分のノートに
”対応者:和倉氏”とペンを走らせた。

それから私は相談した分析機関にサンプルと
分析依頼書を送付し、
数日が経過した日のこと。

その日は終日出張だったので
商談が終わりスマホを見ると
内勤の人からチャットが届いていた。

「〇〇の田倉さんという方からお電話がありました。
明日改めてお電話いただけるとのことです」

と言うメッセージであった。

「あ、私の聞き間違いで”田倉”さんだったのか」
と思ったとこで
次の商談に向かわなくてはならないことに気が付き、
慌てて電車を乗り換えた。

そして、翌日内勤していると、
私の部署の電話が鳴った。

電話を出ると例の田倉さんからである。

前日電話に出れなかったことをお詫びし、
早速用件について話をした。

そして電話を置いたのだが、
その後私が現場で試作の立ち合いをしている間に
再び田倉さんからお電話があったらしい。

私の横に座るNさんが
電話に出て机にメモを置いてくれていたのだが
そのメモには
「〇〇のマクラさんよりお電話あり。
折り返しお願いします」
と書かれていたのである。

おや、Nさんにも「マクラ」と聞こえたのか。

そう思いながら私は”田倉さん”に電話を折り返した。

分析用の検体を確認したところ
通常の条件では評価ができないので
条件を変えて評価するが問題ないかとの確認であった。

それ自体は問題ないのだが、
分析方法が変わってしまうと
コストに影響する可能性がある。

標準的な分析試験の場合、リスト通りの金額が
請求されるので、
今回は特に見積もりを入手していなかったのだが、
特別条件となってくると事前に見積もりを
入手しておかなくてはならない。

そのことを先方に伝えたが、
これまでメールでのやり取りをしていなかったので
仕方なくFAXで見積もりを送っていただくことにした。

それから1時間ほどしてオフィスの複合機を見ると
依頼していた見積書が入っていた。

金額を確認すると、通常試験とほぼ変わらない金額だったので
特に上司の了承は必要なさそうである。

一安心して、その見積書をファイルに挟もうとしたとき
そこに押された印鑑に目が留まった。

そこには”真倉”と捺印されていたのである。

なんと。私が最初に聞いた”まくら”で正解だったのだ。

だが、私の頭の中では”まくら=枕”しかなく
さすがに枕なんて名字はないだろうと思ったのだが、
よく考えてみれば真倉なら名字としても
全然おかしい感じでもない。

音だけを聞いてそこから漢字を想像するのは
とても難しいことであるが、
とくに人名となると難しいモノ。

特に日ごろよく耳にする言葉と同じ発音なら
どうしてもそれに引っ張られてしまうので
他の候補が頭に浮かばないものなのだろう。

こんなことなら最初に聞こえた通りに
耳を信じてやればよかった。
そんな風に思っていたとき、ふと考えた。

私達日本人でもこんなに難しいのに
中国人の方はどうしているのだろう?

ご存じのように中国は漢字の国である。

中国語の発音があって、その言葉は
基本的に漢字が紐づいている。

私達よりももっとシビアに音から漢字を
思い浮かべる必要があるはずなのだ。

ちょうど私にメモを残してくれた隣の席の
Nさんは中国在住歴が長く、
中国語も堪能なので聞いてみると
中国語はそれを避けるために発音がしっかりと
定義されているのだという。

よく中国語を学ぼうとすると日本人にはなじみのない
発音記号というものに直面して
その難しさに挫折すると言われるが、
これはまさに相手に的確に情報を伝えるために
必要なものだったのである。

言語は相手に何かを伝えるために
生み出され、そして今まで伝承されてきたもの。

その変化の過程には色んな紆余曲折があったであろうが
必ずその変化には理由があるはずである。

そう思うと言語はとても面白いものだなと
改めて感じさせられたエピソードであった。

まさか自分の名前がきっかけで
そんなことを考えられているとは
きっと真倉さんは想像もしていないだろうが。

ちなみに頂いた見積書をもとに
私は再度依頼書を発行したのだが、
この流れはモノを買うのと同じだなと
思っていた。

これが本当のまくら営業だなと
思ったのだがもちろん口には出していない。

noteなら不思議とこんなつまらないことも
公開できてしまうのは
noteが私にとってサードプレイスだからかもしれない。

ちなみにnoteがサードプレイスという話は
下記のようこさんの記事を参照してほしい。


この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?