見出し画像

理不尽な胃腸薬

世の中理不尽な事はたくさんある。

なぜそんなことををしなければならないのか、
無理をさせてまで何がしたいのかわからない、
そんな理不尽な事は仕事でも日常でも
色々転がっているものである。

それを嘆いても仕方ない。

変えられるものなら変えればいいのだろうが
自分にはどうにもできないものを
変えようとするほどエネルギーを浪費するものはない。

長いものには巻かれることも
この世の中を生きる上では大切な事の一つである。

だが、私には一つどうにも納得できないものがある。

今日はそれについて書こうと思う。

突然だが、あなたはこんなCMを見たことがないだろうか。

定食屋のような店に入ったある男性俳優。

いかにも元気そうな食堂のおばちゃんに対して
天丼を頼もうとして「て」と言ったときに
その俳優が自分の胃腸の調子が良くないことを思い出し
「鉄火丼で」と言うと、おばちゃんが「え?」というような
顔をするというものである。

先日家族がテレビを見ている時にちらっと見ただけなので
実際の映像と異なる部分があるかもしれないが、
概ねこんなないようのCMだった。

このCMは言わずもがな、胃腸薬のCMで
胃腸薬の紹介の後にはその俳優が声高らかに
「天丼で」というものである。

この手のCMは昔からあり、
胃腸の調子が良くない人が胃腸薬を飲むことで
コッテリしたものなどを元気に食べられるように
なる姿がCMの中で描かれてきた。

特に年末の忘年会シーズンになると
この手のCMが増えた記憶がある。

実は私がどうしても納得できない
世の中の理不尽のように感じるのは
この胃腸薬についてである。

「胃腸薬の何が悪いんだ」と思われる方も
いるかもしれないが、
私は胃腸薬自体を否定しているのではない。

胃腸の調子が悪い時は、ダイレクトに体調に影響するので
一刻も早く胃腸を回復させるために
服用するというのは至って正しい使い方だと思うからである。

だが、先ほど紹介したようなCMの場合、
胃腸薬は胃腸を回復させるために使われているのではなく、
無理やり食事を食べるために使われているのだ。

これが私にはどうにも納得いかないのだ。

よく考えてみてほしい。

先ほど述べたCMで俳優が鉄火丼を頼もうとしたとき
胃腸の調子が悪いと気づくが、
その原因は一体なにだろうか。

ストレスに起因するものかもしれないし、
はたまた暴飲暴食が原因かもしれない。

いずれの原因にしても、傷んだ胃にとって
コッテリした天丼を食べることは
ダメージを大きくする結果になるはずである。

つまり、俳優が天丼ではなく鉄火丼にしようとしたのは
体が発したサインを的確にとらえて、
それを形にした結果ということができる。

では、ここで胃腸薬を飲んだとすればどうだろうか。

一時的に天丼を食べたいと思う状態に
なるかもしれない。

そうして颯爽と天丼を頼み、俳優はそれを食べる。

だが、胃腸は胃腸薬を飲んだからと言って
瞬時に回復するようなものではないはずである。

傷んだ状態はあまりに変わらないにもかかわらず
天丼を無理やり流し込まれた胃には大きな負担がかかり
薬の効能が切れた時にはさらに状態が悪くなる。

つまり、これは先ほど体が発したサインに気づき
鉄火丼に変えようとした行為を
薬によって阻害する行為と言うことができるであろう。

よく薬は何も治癒してくれるものではないと言われる。

あくまで病は体が治癒させるもので、
薬はその治癒の間に感じる症状を一時的に抑えるに
すぎないからである。

まさに胃腸薬は一時的に胃がもたれたりする
症状を抑えて、体を治癒に向かわせるために
服用するべきものなのである。

だが、CMの描き方ではあたかも無理をして
食べるために服用するかのように見えてしまう。

「いやいや、後に出てくる天丼を頼むシーンは
胃腸薬を飲んで治癒した後の様子であって、、」

そのように反論する人も出てくるであろうが、
少なくとも私には無理やり食べるために服用するように
描かれているとしか思えない。

これはこのCMだけでなく、過去から流されてきた
数々の胃腸薬のCMにおいて同じである。

本来、胃腸が疲れていたりダメージを受けているなら
何も食べないというのが一番の治癒になるはずである。

人は数日何も食べなくても全然生きていけるし、
胃に負担がほとんどない流動食で代替すれば
かなりはやく胃腸の調子は戻るものである。

実際過去に私は胃腸を痛めたことがあるのだが、
その時には3日間絶食をすることで
完全に回復することができた。

しかし、上記のようなCMを誤認して
胃腸薬さえ飲めば食べられると勘違いした人が
CMのプラセボ効果で無理をして食べたとすれば
結果は間違いなく悪化に向かうはずである。

私の周りには胃腸薬を日常的に服用している人が
何人かいるのだが、
彼らは総じて食事に気を遣っている様子はない。

出張に出てファミレスに入った時も
一人の同僚はハンバーグランチを頼んで
濃いコーヒーを飲み干した後に胃腸薬を飲んでいた。

これはまさに胃からすれば本末転倒な話であるし、
非常に理不尽だと私は思うのだ。

北の国からに出ていたとある俳優さんが
「食べる前に飲む」とCMで言っていたのが
とても印象に残っているが、本来これは
「流動食を食べて、薬を飲んだあとは安静に」
であるべきだろう。

こんなCMを流してしまうと胃腸薬の売り上げは
劇的に下がってしまうだろうが、
そもそも薬のCMは効果効能だけを
淡々と説明するだけで十分なはずである。

どの薬を選ぶかは視聴者が効果効能だけを見て
判断すればいいものなのだ。

老婆心ながら天丼を頼むCMの俳優さんが
しばらくの間、ウィダーinゼリーを食事代わりに
食べてくれていることを願うばかりである。

ただ、そんなCMをすれば別の俳優から
「ちょ、待てよ」とクレームが入るかもしれないが。



この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?