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Help!, I need somebody.

ヘルプマークをご存知だろうか。

最近は電車やバスの中でも
優先座席の表示にヘルプマークが
追加されたりしているので
ご存じの方も多いだろう。

ヘルプマークとは義足や人工関節、
内部疾患や難病など外部からはわかりにくい理由で
配慮が必要な方が周りにそれを知らせるための
タグであり、
指定された病院や駅などで申請すれば
受け取ることができるものである。

これをつけておくことにより
優先座席に対象者の方が座られていても
周りから理解を受けやすかったり、
席を譲ってもらいやすくなるという
メリットがある。

お年寄りの方に席を譲る時には
明らかにご高齢の方でない限りは
譲ると逆に失礼ではないかと心配になるが
ヘルプマークのようにはっきりと表示されると
譲る側も妙な心配をしなくてもいいので
譲る側、譲られる側お互いにWin-Winな
制度だと私は思っている。

先日仕事帰りの電車に揺られていると
私が座っている近くにヘルプマークを
カバンにつけた中年男性が立っていることに
ふと気が付いた。

私が座っていたのは優先座席ではなかったが、
このシチュエーションは譲るべきだと思い
「どうぞ、お座りください」と私は声をかけた。

するとその方は
「いえ、大丈夫ですので」とそれを固辞したのである。

あまり無理強いするわけにもいかないので
私は一度立った席に座り直した。

恐らくすぐに降りるので断ったのであろう。

そんな風に思いつつも、微妙に気まずい気持ちを
抱えて乗り続けていると
電車は次の駅に到着した。

これで気まずい気持ちともさよならできる。

そう思いながら見てみると、
その人は駅で降りることなく、
その駅から新たに乗ってきた人で
状況は私が譲ろうとしたときよりも悪化していた。

しかも、その方は相変わらず私のすぐ近くに
つり革を持って立っている。

とはいえ、一度譲って断られてしまったので
もはや私はかるたのお手つき状態である。

気まずい。

そんな風に思った時である。

私の席の向かい側に座っていた女性が
ふとその男性に「どうぞ」と席を譲ったのである。

この女性は私が譲り断ったプロセスを
見ていなかったのであろう。

そう思うと、この女性からしてみれば
私は目の前にヘルプマークをしている方がいるのに
何もせずに座っている無神経な人に
映っているのかもしれない。

もしここで彼が座ったとすればなぜ私の場合には
受け入れなかったのか疑問が残るものの
少なくとも私はこの気まずい気持ちからは
解放されるので、
心の中で「座れ、座れ」と願う私。

だが、その申し出に対してもその男性は
「いえ、大丈夫なので」と言って断った。

気まずそうに再び席に座る女性。

申し出を断った気まずい者同士が
ヘルプマークを付けた男性を挟んで
向かい合う形となった。

気まずさは明らかに増している。

だが、そんな気持ちをずっと抱えるのは
何だか嫌なので、
私はカバンから読みかけの文庫本を取り出し
それを読みだすことで
この気まずい空気から逃避した。

そこから約20分経ち、自宅の最寄り駅に到着して
降りようと席を立つと、
驚いたことに私の目の前にまだヘルプマークの男性が
立っていたのである。

しかも降りる駅は私と同じ。

すると向かい側で動く姿がちらっと見えた。

なんと、もう一人席を譲ろうとした女性も
同じ駅で降りるらしい。

なんということであろうか。

皆同じ駅で降りる者同士、
席を譲り、そしてそれを断ることで気まずい気持ちを
抱えていたのである。

小説ならこの後、3人で飲みにでも行く流れに
なるのであろうが、
当然現実の私はそんな流れになることはない。

ヘルプマークを付けた男性は私の前を
すたこらと歩き、駅の反対側に消えていった。

一体なぜ彼はヘルプマークを付けていたのか。

むしろそれを付けて出かけるならば
気持ちよく譲られることも大事な事なのでは
ないかと私は思うのだ。

もちろん席を譲られることは譲られる側にとっても
気を使うものであることは承知しているが、
せっかく差し出されたものを
断ることで譲る側が持っている善意が
急に気まずさに変わってしまう。

それはお互いにとってもったいないことであろう。

何だかモヤモヤした気持ちを抱えながら
電車を降りた私であるが、
よく考えてみるとこうして善意のやり取りで
モヤモヤすることができるのは
実はとてもありがたいことではないかと
ふと思った。

お互いのことを考えて善意のバトンを
いつでも渡しあえる環境が
自分の身の回りにも当たり前の様に
存在しているということだからである。

偶然今回はそのバトントスが上手くいかなかっただけ。

次はバトンをうまく渡せるように
バトントスの練習をしておくのも悪くないだろう。

ちなみに男性が付けているヘルプマークを見ながら
何となく頭にThe Beatlesの”Help!”と言う曲が
頭に浮かんでいた。

Help me if you can, I’m feeling down

良いように解釈はしたものの、
落ち込んだ気持ちを誰か助けて欲しいという
私の気持ちがこの曲を呼び寄せたのかもしれない。

Help‼

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