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健康と向き合う

あなたにとって「健康」の定義は何ですか?

この問いに即座に答えられる人は少ないだろう。

流行り廃り、諸行無常の世の中で「健康」に対しては誰しもが漠然と「必要もの」「重要なもの」として捉える。

では、健康な状態とはどのような状態だろうか?

今、読んでくださっているあなた、自分自身へ問いかけてみてほしい。

ジムに通い、綺麗といわれる細い、あるいは筋肉質な肉体を獲得している人が健康なのか?

あるいは、不健康に対する拮抗対処として医療が存在しているのか?

このような問いかけは医療従事者を志した者、トレーナー、セラピスト、心理療法士などの類を生業としている人は一度は考えたことがある問いかけである。

WHO(World Health Organization) 憲章の健康定義

WHOで有名といえばペドロス事務局長である。

世界的に新型コロナウィルスへの対応で批判を浴びたにも関わらず、辞任せずに現在も続けている彼は相当身体的、肉体的、精神的にも健康な人国際戦代表と言えなくもないと筆者は考えている(無鉄砲とも捉えられるが‥‥)。

話を戻し、WHO憲章に記載されている、一つの健康の定義を紹介して、健康について考えてみたい

「健康とは肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」
"Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity"

この内容を読むと、私はいつも一人の患者さんが思い浮かぶ。

肺がん末期のAさん

「これは生き甲斐なんでね、辞められませんよ」肺がん末期の患者さんの言葉である。病院入院中にかかわらず、裏口で、右手は点滴棒、左手はタバコを細く黒ずんだ指2で掴み、病院の裏口でタバコを吸うその顔には笑顔さえみられる。

医療従事者としての正解回答は

「こんな場所で吸ったらダメですよ。そもそも、治療のために入院しているのに何をしてるんですか?今すぐタバコを捨てて、病室に戻ってください。」これが間違いなく正解だ。

もう肺が地上で生命を保つという力が尽きてしまいそうになっている人がその生命をまるで断つために黒い指に挟まれたシガレットをくわえている状況である。

私は「生涯、大好きなものに出会うことが出来たんですね。それはそれで人生としては勝者ですね」と、躊躇いもなく、ポッと口から出た

「そうだろう?至福の時間なんだよなぁ。」

通常は治す気が無いなら国民皆保険がもったいないから、道端で意識無くして倒れておけ。医療費は税金を使ってんだぞと、彼をならず者として扱うだろう。

「中毒者」という言葉でその患者さんをカテゴライズすることも容易だ。

しかし、彼は不健康だろうか?自分の体の状態を理解し、治したいという気持ちもあるが、好きなものなので、タバコ吸っちゃう。その顔は満面の笑みである。

私は健康という言葉を疑うようになった。それは言葉自体の響きや字の形ではなく、単語で書いてあるのにもかかわらずこの健康はひとりひとりの「生き様」を表す言葉なんだと思う。身体機能がたとえ不健康でも、やりたいことをやって笑顔になっている人が敗者である訳が無い。

杖でお出かけBさん

「私は歩けるようになるでしょうか?」と、近くの商店街まで毎日杖をついて買い物をしている患者が眉間にシワを寄せて問いかけてくる。

私は即座に答えたい「歩けているではありませんか」と。

よくよく問診をすすめると、その患者さんにとって「歩ける」という健康状態は「杖をつかずに、背中も曲がらず、スタスタと、周りの人から健康であると見られるぐらいにスラッと歩け、旅行にお呼ばれしたら恐れる事なく参加し、若者に抜かされないほどのスピードで歩けるようになるでしょうか?」という質問を「歩けるようになるでしょうか?」と要約しているのだ。

そして、さらにお話を聞くと、高齢者として周りから扱われる事に強い抵抗感と、自分が思い描く理想の「わたし」という生き様へのギャップを強く抱いていることが分かったのだった。

もう一度問いかけたい

一人目の癌末期でも笑顔でタバコを吸っている患者さんと、二人目の眉間にシワを寄せて理想では無いワタシの患者さんはどちらが健康なのだろうか?

ひとくくりに正解は出すことが出来ない事、例題で出した2つの文章に偏向がある事は承知の上で投げかけてみたい。

健康であるという状態を手に入れる前に、ひとりひとりが「健康について向き合う」事、あなたの「生き様」は何なのか?根底的な要求は何なのか?をもう一度投げかけて、日々の生活を営む事をお勧めする。

あなただけではない、介護を必要とする親族や友人が不健康な状態で困窮している時にその人にとっての健康を問いかけるのだ。

運動器、呼吸器、循環器、神経系、その他もろもろ、全てに問題が無く、誰からも脚光を浴び、賛辞を送られるスタイル、高年収であっても、満たされずに不健康な人は間違いなく存在している。

生き様を探求する。

それによって、あなたは一歩、健康へ近づくのだ。

無論、その問いかけに対する回答を一緒に探求し、その人の健康という「生き様」を具現化するために私たち医療従事者が日々寄り添って従事する事が使命であることは言うまでもない。




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