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目を閉じて、息を止めれば、海の中

夜は嫌いだ。

何故って、暗い闇が光を飲み込んで、そのままどことも知れない世界の端へ連れて行かれる、そんな感覚を覚えるからだ。黒塗りの空間の中では、過去にあった嫌なことだったり、辛いことがぐるぐると渦を巻く。思い出したくなくてぎゅっと目を閉じても、闇の中では閉じているかどうかすら曖昧になる。自分と自分以外の境界線がどろりと溶け落ちて、脳髄に直接嫌なビジョンが雪崩れ込むように次から次へと塞がったはずの傷が開いていく。

私にとって、そんな夜は天敵だ。眠れるのなら眠ってしまいたいものだけれど、都合よく眠れる日ばかりではない。その度に私は夜の魔物と押っ取り刀で戦うことになるのだった。

苦しいことを思い出すと実際に胸がきゅうっと押し潰される。酸素が足りずに、それでも必死に呼吸しようとするときもあればもういっそと息を止めるときもある。それはまるで海の中に飛び込んだ時のようで。

今日も私は眠れない。大嫌いな夜に体を丸めてえいやと飛び込むのだ。夜の闇はきっと海よりも深い。

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