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【読後感】カント『純粋理性批判』中山元=訳・解説(光文社古典新訳文庫)

(2013.3.15 読了)

 哲学に興味のある人にとって、避けて通れない本がカントの『純粋理性批判』です。カントの代表作です。
 この書名にもある「批判」について触れたいと思います。一般的に批判というと、人の欠点をあげつらい攻撃するイメージがあると思います。ですが、カントの「批判」は違います。「明らかにする」という意味です。人間の理性と感性を明らかにすることです。この人間の存在の基本的な条件の明確化です。この本は認識論になります。ただの攻撃ではないところにカントの品の良さを感じます。
 ただ、「理性と感性を明らかにする」と言っても、本書はやはり難しいです。様々な概念や方法が駆使されています。用語は、日常語に近い言葉も使われていますが、先ほどの「批判」のように、常識的な意味とは違う使われ方をすることがあります。そのときはそこに書かれている文脈の中で意味を汲み取るのが一番だと思います。自分の知っている意味ではなく、本書に書かれている文脈の中で使われている意味を優先します。その方が先に進んで読んでいけると思います。

 この日本語訳は何種類かありますが、私は中山元の訳を選びました。(注:現在は更にこの本の日本語訳が増えています。)読みやすいとの評判を知ったためです。確かに文章自体は専門用語があまりなく、読みやすいです。これは全部で7巻あるのですが、どの本にも本文に即した詳しい解説があります。その訳者による解説が1冊の4分の1から3分の1もの量があり、とても丁寧に解説してあります。それでもなお、私にとっては、理解できないところがありました。ただ、読んでいて品がありました。昔の日本ではこの『純粋理性批判』を、生きているうちに一度は理解したいという人がたくさんいたそうです。ですが、大抵の人達は挫折をしました。その点、中山訳は私のように通読できると思います。

 カントはドイツの哲学者です。1724年に生まれ、1804年に亡くなりました。日本では江戸時代の中期に当たります。元禄時代が終わって20年後にカントはドイツで生まれました。カントからドイツ観念論が始まりました。またの名をドイツ理想主義と言います。『精神現象学』のヘーゲルもこの中に入ります。この観念論は、世界の基本的な特徴は物質にではなく、精神や観念にあると主張する立場です。現実世界に関心を向けるよりも、内面世界、観念世界に関心を向ける傾向を持ちます。

 カントは本書で理性の成熟の歩みを3つに分けています。独断論、懐疑論、批判の順です。1つ目の独断論は、理性の幼年期です。自分の主張を懐疑や批判なしに盲信することです。この独断論は大衆を魅惑するそうです。プラトンのイデア論などがそれに当たります。2つ目の懐疑論は、理性の吟味の時期です。懐疑とは、十分な根拠がないために、判断を保留することです。理性の憩いの場でもあります。3つ目の批判が、成熟した理性の批判の頃、となります。批判とは明らかにすることです。カントは理性をこのように捉えています。

 そして、この『純粋理性批判』の最終的な結論を訳者の中山氏は解説でこう述べています。

 「人間は自然から法則を汲み取ってくるのではなく、自然に法則を規定することができるようになること、そしてこれによって普遍的な自然法則を認識できるようになるということである。」
(第2巻、275ー276頁)

 中山氏は本書の結論をこのように受け止めています。
 中山氏によれば、カントは本書で人間の探究から自然法則の認識に至った、ということでしょうか。

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