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あの機械はまだ動いていますか?

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第一章 機械を設計してみる気はある!?

第一話 師匠との出会い

 新幹線の窓を流れる景色を見ながら起点はどこだっただろうかと、さっき買ったアイスコーヒを飲みながら振り返ってみた。

 時は30年ほど遡る。 

 私は、地方の商業高校を卒業して小さな商事会社に入社した。漠然と経理をするのかなと思っていたら配属先は総務課で経理の仕事は直接的には担当しなかったが、決算期に応援で手伝うことはあった。

 入社から4年ほど過ぎた頃、何の前触れもなく会社は倒産した。入社した当時から会社の業績は良いとも悪いとも聞いていなかった。バブルが弾けて数年経った頃だったし、バブル後のダメージになんとか耐えていた会社の体力がついに力尽きたのだろうと勝手に思っていた。退職する時までどんな理由で会社が倒産したのかは知らなかった、というか知りたいという興味は不思議と生まれなかった。

 倒産後、希望する人は業務を引き継いでくれる会社で引き取ってくれる話があった。総務の仕事はそれほど好きじゃ無かったのでお断りした。会社都合の退職だったけど4年程度働いてたんまりと退職金を貰えるはずがない。それでも退職してすぐに別の仕事に就こうという気持ちは湧かなかった。

 ぽっかりと休みができたようなものだったので、これはチャンスと思い、自分へのご褒美として福岡に旅行した。福岡を選んだのは、九州は食が豊かだよねという単純な理由だけ。二泊三日の旅は美味しいもの三昧で、いつか未来は食べ物が美味しいところに住んでやる! と決意した。

 旅行から帰ってすぐに人材派遣会社に登録した。たまたま見つけたカーショップの店員のバイトをしながら気ままに数ヶ月はマイペースで過ごしていた。そんなある日、登録した人材派遣会社の担当からPCにメールが入っていた。

 翌日、派遣会社の担当に電話すると、

 派遣会社の男性の担当者が携帯の向こう側で、男性にしては声のトーンが高く、若干、チャラい感じの話し方でマシンガンのように一方的な調子で説明を始めた。私は彼とは友人にはなれないなと感じながら、前置きの長いトークの部分はすぐに頭から消し去っていった。そしてようやく本題に入った。

「 紹介する会社は、大企業とまでいかないけどけっこう大きな会社です。 会社の名前は、黒崎精機株式会社くろさきせいきかぶしきがいしゃというところです。 」

「 えっと、、と何だったかな、、、ド忘れしましたけど、なんちゃらという機械や自動販売機やロボットとかを作っている会社ですね。すみませ〜ん、機械とかロボットとか理系のものが詳しくなくて、、、 」

 と担当者の彼が電話の向こうで形だけ謝った。

「 話は続きがありまして、その会社は、近々、経理の一人が産休に入るそうです。それで、産休とその後の育休の間だけでも経理というか簿記ができる人を探してほしいと依頼があったんですよ。 」

「 それで、祁答院けどういんさんを推薦しようと思っているんです。何か問題はありますか、ありませんよね? 」

 ちょっと強引な感じがしたけど、貯金を食い潰しつつのバイト生活は破綻するまでそんなに長くはないと思ったので、

「 はい、問題はないです。よろしくお願いします。 」

数日後、面接を経て働くことが決まった。

***

 経理の仕事は少し忘れていた簿記の知識とエクセルの関数を思い出すことから始まった。一週間がすぎる頃には自分の中では完璧に近いところまで仕上がってきた感じがした。でも、世の中は舐めちゃいけないので謙虚に謙虚に、、を意識して日々のお仕事と生活をこなしていった。

 平和に月日が過ぎて前任者の産休とその後の育休の終わりが見えてきた頃、

『 あぁ、、ここでの仕事は終わりになっちゃうのかな、、、 』

 と何となく頭をよぎって、次はどうしようと考えようとしていた頃に、経理課の課長から呼ばれた。

『 終わりの日の通告かなぁ、、、 』と内心、ビクビクしながら会議室で対面に座った課長が意外なことを話し始めた。

 『 社内の組織変更が先日発表されてね。上の階にある設計部が自分たちで開発品の原価や材料のコスト計算や予算の管理などを行うことになったんです。』

 『 それで、設計部の中に管理チームが新設されることになったので、そちらに異動して欲しいのですがどうでしょう? 』

 そして、

『 今までの祁答院けどういんさんの評価は私も、他の部門の評価でも非常に良いのです。それで、今回の異動を機に正社員になりませんか? 給与面もこれまでよりは少しは良くなるだろうし、いろいろな点でお勧めだと思います。 』

 続けて、

 『 とにかく、私も含めてみんなの意見はこれからも一緒に働きたいのです。OKしてもらえたのでバラしますが、特にあなたを推していた人は設計部の部長さんです。 』

『 組織変更が発表される前に私に彼から相談があって、あなたを譲ってくれないか?と頼まれていたんです。 という訳なので、ぜひ前向きに考えてもらえませんか? 』

 と、意外な高評価いきさつを告げられた。

 普通に仕事していただけなのに、こんなに良い評価をしてもらっていたとは。腋の下をくすぐられたような感じでこそばゆいが気分は悪くない。

『 わかりました。お断りする理由は一つもないのでお受けします。 それと、ありがとうございます。そんなに私の評価が良かったなんて驚きというか意外でした。 』

 話が終わり会議室を出て、経理課長と共に上の階にある設計部の事務所に行くと、設計部の部長の原口隆一はらぐちりゅういちがニコニコした顔で自分の席の前にある会議スペースに私たちを誘った。

『 まずはありがとう 』、と軽く頭を下げて、

『設計部の奴らは金計算が下手っぴでね。それも私が悪いんだけど。彼らを救ってあげると思ってもらえたら非常に嬉しいです。 』

 と、原口が礼を言った。

 原口さん、、、今まで直接会話したことはなかった。間近で見るとイケオジの部類になるのだろう。低めの落ち着いた声がとにかく心地良い。声の感じは俳優の國村隼くにむらじゅんさんに似ていると思った。モテるおやじと言うのはこんな感じの人を指すんだろうなと思った。

 この単なる異動による出会いが、数年後、私が機械の設計を行うことになり、その先の未来に社長や会長にまでなるなんて、そんな未来が来るとはこの時は誰も想像はできない。

 新設される設計部の管理チームの他のメンバーともこの時、顔合わせした。メンバーは私を含めて全員で3人。管理職は設計部の管理職が兼任するが基本はこの3人で業務を担当するとのこと。

 リーダーは、山口一郎やまぐちいちろうさん
 温厚そうな感じのする優しいおじさんの第一印象。設計部で図面や仕様書の管理をしていたらしい。

 もう一人は、佐藤広志さとうひろしさん
 昨年、入社した人。製造部門に在籍していた。いろいろ勉強してこい!と言われて設計部に異動になったとか。少し生意気な弟って感じ。


 雇用元が変更になるので派遣会社との調整や健康保険の変更など、いろいろな事務手続きが怒涛のようにやってきた。それが終わったら、新しい従業員番号が書かれたと写真入りの社員証をもらった。社員証をもらったその日の午後に、設計部のある上の階の事務所の席に私物と新しく支給されたノートPCが入った箱と共に引っ越した。


 この時が、これから色々なことが嵐のように続々と起きていく前の静けさだったと振り返ると思う。

 新幹線さくら号はあと5分ほどで博多に停車するとアナウンスが聞こえた。

(続く)


参考までに登場人物のイメージとして以下の方々を頭に浮かべました。

祁答院歩美けどういんあゆみ
 ;白石麻衣 さん(20代〜40代) (元 乃木坂46)
 ;近藤サト さん(50代〜   ) (フリーアナウンサー)

原口隆一はらぐちりゅういち
 ;國村隼  さん (俳優)

山口一郎やまぐちいちろう
 ;矢柴俊博  さん (俳優)

佐藤広志さとうひろし
 ;山崎賢人さん (俳優)


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