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ヘビと追い駆けっこ|短編小説|少年時代の夏休み、仲間と汗まみれになって、青空の下を走り回った楽しい思い出

ヘビと追い駆けっこ
                                                                                        くれ まさかず

「あっ、ヘビだ!」
元気な男の子の声が青い空へ駆け上がっていくように響き、草原の隅々へ拡がっていきます。
近くでバッタ捕りをしていた仲間の子供たちが、いっせいに駆け寄ってきます。
「よしっ、つかまえろ!」
何しろヘビは昔から悪者と決まっています、正義のヒーローが大好きな男の子にとってはやっつけなくてはいけない敵です。
「あっちだ!」
「こっちだ!」
子供たちはヘビを追いかけて、広い草原をあっちこっちと走り回りました。
ヘビは何度も子供たちに囲まれましたが、そのたびにツルツル、クネクネと素早く這って、子供たちの足元をすり抜けて逃げました。
「ワッー!」
「キャーッ!」
もちろんヘビが怖いと思っている子もいましたが、ヘビをやっつけたらたちまちヒーローです、勇気を出して向かっていきました。
丘の小道を散歩していたおじいさんとおばあさんは、元気に草原を走り回っている子供たちを見て、ニコニコ笑っています。
「がんばれ!」
おじいさんは子供たちを応援しました。
(ヘビさん、逃げて!)
おばあさんは心の中でヘビが捕まらないように祈りました。
「よしっ、そこの草の中に隠れたぞ!」
子供たちはヘビが逃げ込んだ場所をみんなで取り囲みました。そしていっせいに、ワッーっと大きな声を出して虫網をかぶせました。
子供たちはかぶせた網の中をよく見ましたが、ヘビはどこにもいませんでした。
「アァー……、逃げられた……」
子供たちのため息がユラユラと大空に昇って消えていきました。

「あそこにヘビがいるぞ!」
元気な男の子の声が雑木林の中に響きました。すると、近くで蝉取りをしていた仲間の子供たちがすぐに集まってきました。
「あいつ、あんなところで涼しい顔して見下ろしてやがる!」
ヘビは高い木の枝に巻き付いて、そよ風に揺れていました。緑の葉っぱが日差しを遮って涼しそうです。
でも子供たちが立っている木の根元はとても暑くて、草の匂いがムンムンしています。みんな汗だくでした。
ただでさえ嫌われ者のヘビです。それが自分たちよりも涼しい場所ですましているのでみんなは腹が立ちました。
「よっし、今度こそやっつけろ!」
子供たちは蝉取りの竹竿を伸ばして、枝に巻き付いたヘビを叩き落とそうとしました。
ヘビは下から竹竿で突かれたので、スルスルと高いところへ逃げていきました。
「あっちの枝に移ったぞ!」
「こんどはこっちの枝だ!」
ヘビは子供たちの竹竿に追い立てられて、枝から枝へと渡りながら逃げました。子供たちは竹竿を持ってピョンピョン飛び跳ねて、何とかヘビを突こうとしましたが、ヘビはどんどん高い所へ逃げていきました。
とうとう子供たちの竹竿ではとても届かないところまで登ると、ヘビは下を見下ろして赤い舌をチョロチョロと出しました。
「あいつ、アカンベーをしているぞ」
「くやしいな!」
誰かがヘビめがけて石を投げました。でも真上に投げたので、石は投げた子供の頭に落ちました。
「痛っ!」

「今日こそは逃がさないぞ!」
川で魚取りをしていた男の子たちが、川の中州でヘビを見つけました。
石ころばかりの川原は隠れる草もなく、高いところへ逃げる木もありません。子供たちは今日こそ憎いヘビを懲らしめてやれると、張り切りました。
石ころだらけで走りにくい川原を、みんな元気いっぱい走り回ってヘビを追いかけました。そして、とうとう川原の端まで追い詰めました。後ろは深くて流れの早い本流です。
「よしっ、つかまえろ!」
子供たちはいっせいにヘビめがけてタモ網をかぶせました。しかし、ヘビはそれよりも早く川に飛び込むとスイスイ流れを横切って向こう岸に逃げていきました。
「アァー、また逃げられた……」
「あいつ、手も足も無いのに泳いで逃げやがった!」
「手足のない奴に、おれたち手も足も出ないなんて……、今日も負けだ!」
子供たちを笑うように、川の中からコロコロと石が転がる音が聞こえました。

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