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金木犀4

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仕事終わりに携帯の画面を見ると、陽乃はるのから今週日曜の午後に朝田の個展に一緒に行かないかという誘いのメッセージが入っていた。特に予定もなかったし朝田がどんな絵を描くのか気になったのもあり、承諾の一文を送った。
あの四月上旬の飲み会から二ヶ月が経とうとしていて、季節は梅雨に入りかけていた。結局あの日は終始陽乃と山本さんが二人で盛り上がっていて、終電が迫り切った二十四時頃に解散となった。解散後、帰りの電車内で陽乃から、朝田と喋ってみた?というメッセージが入ったので、目玉焼きの命名について少しだけ。と返すと、あいつやっぱり意味わからんなwwwという今の私の中の彼を説明する上で最も適当な文で返ってきた。
二年目に入ってからも仕事は変わらず忙しく、増えるタスクに追われながら残業で何とかやっつけていく日々が続いていた。それでも校閲部所属の私は土日に駆り出されることはほとんどなく、担当作家との兼ね合いで土日ですら出勤している編集部の同期の疲れた顔を見る度に私はまだましだなと思った。小さな会社ではないけれど、かといって大手というわけでもない私の会社では小説やエッセイを主に取り扱っているため、コミック等に比べると市場の縮小が著しく、最近の電子書籍などのデジタル化の波に乗ることに必死だった。最近の癒やしといえば家と最寄駅の道中咲いている紫陽花を行き帰りに眺めることくらいで、およそ二十三歳のものとは思えない息抜きに落ち込みつつも笑ってしまった。週末陽乃と会う前に部屋に飾る観賞用のお花でも探しに行ってみようと、雨後うご月下げっかで清淑に輝く紫陽花を眺めながら思った。



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