2022年に読んで、好きだった本
去年もやったので、今年もやることにします。去年に引き続き、本の内容に深く踏み込んでいくというよりは「本との思い出」みたいなお話が多めです。
昨年末から読み始めた『キノの旅』シリーズが暗く切れ味ありつつも読みやすくいいペースメーカーになってくれていたので、ぎりぎりで目標の100冊読了に届きました。去年に比べると倍以上読んだはずですが、「好きだった本」としてまとめる作品は同じ5作で横ばいです。なぜ。
1.「マーダーボット・ダイアリー」シリーズ
かねてから気になってはいたのですが、海外ものは文庫でも平気で1000円を超えてくるのでなかなか手を出せずにいました。大学生協も創元SF文庫の扱いがなくてむぐぐ〜っと思っていたところ、有明ガーデンの丸善で学割サービスがやっていてなんとポイントが5倍だったので、読んでは買い読んでは買いしてちまちま読み終えたのでした。下巻を有明ガーデンのスーパー銭湯「泉天空の湯」で読み終えて、そのままホテルに帰って寝るみたいな1日を過ごしたのが記憶に新しい。
本来システムの制御下にあるはずのボディーガード用の機械である「弊機」が、自らのシステムをハッキングして自由を得たものの、特にあちこち出回るでも反乱を起こすでもなく、ひたすらドラマを鑑賞しながら仕事を続けるというおはなし。人間に愛されることで感情を知り、ぼんやりとやりたいことを見出していく……といった大筋はこの手のロボット(AI?この辺の区別がよくわかりません)ものとしては王道ですが、随所に新しさが見えるといいますか……。まず舞台設定からして、地球ではないどこかの星系がワームホールで結ばれる遠未来で、そこで暮らす人々も肌色髪色がさまざまだったり、結婚制度に関しても同性異性問わず多妻多夫もOKだったりします。こういうのが特に断りもなく当然のように描かれるので、もはや「同性婚を認めよう」みたいなステップのはるか先を行ってるんですよね。そんな世界にロボットの権利に懐疑的な人たちを存在させるので、性別とか容姿とかの議論はすっ飛ばした状態で(わりと人間の「人権」に関しては整備された状態で)純粋に「ロボットに人権はあるのか」みたいな問題に向き合っていくわけです。
なにより良かったのが「弊機」が感情を知る過程で、これは感情を「実感する」過程と言い換えても多分よいものでした。ドラマ鑑賞が趣味の「弊機」ですが、恩人に対する愛情とか、自分より低スペックにも関わらずより人に愛されるロボットに抱く複雑な思いとか、頼れる悪友と育んだ友情だとか、感情を知るのはあくまで実体験に基づいているんですよね。「弊機」の性格上だいぶ捻くれて淡白な調子で語られる本作ですが、それでもハートフルなものが一貫していて、なんとも言い難い読み味を生んでいたのでした。
2.有頂天家族
こいつ、ハートフルな本しか選ばねえのかよ。
今年は森見登美彦年間でもありました。たぶん『夜は短し歩けよ乙女』から読み始めて、『四畳半神話大系』の小説とアニメ、『聖なる怠け者の冒険』、『太陽の塔』……と順調に大学生ものや代表作に触れたあとに手に取った本作。ブックオフで100円とかで買ったんだった気がしますが、「狸が主人公」という設定に面食らって大学生シリーズより後回しにしてたんですよね。蓋を開けてみれば大学生もので描かれた「私」たちよりもよっぽど気持ちよく生きているやつらで、家族愛や師弟愛、親子愛、兄弟愛、その他愛愛愛愛愛に満ちた小説でした。
もうあんま言うことないですけど、主に笑いときに涙し、最後には暖かく満たされた余韻が残り「こういうのを読むために生きてんだよ〜!」ってなる、いい読書の典型みたいな時間でした。
3.Y田A子に世界は難しい
去年も同じ本を入れてましたが、読み直してもやっぱりめちゃくちゃ好きだったので……。
横浜のカプセルホテルに泊まった翌日、スタバでモーニングと共に100ページくらい読んでからお台場に移動して、あとは有明ガーデンのベンチとかタリーズとかで最後まで読み切った記憶があります。基本1日で1冊読み終える一気読みはしないのですが、この日ばっかりは全力で読まなきゃいけない気がして読み耽りました。
さっきの「マーダーボット」シリーズと割と根っこの部分は似ていて、人型のAIが世界に解き放たれる点では全く同じ。ただしこっちの方がより女子高生スケールで、本作は「AIを女子高生として世界に取り入れる」みたいな描かれ方をします。家族、友達、バイト、部活、試験、趣味、将来……、とあらゆる女子高生が通る道をAIが通っていくお話。本作がひたすらにハートフルで爽やかなのは、AIを人並みに扱ってくれる気持ちいい脇役たちのおかげでもあると思っています(その点では「マーダーボット」シリーズと同じかもしれません)。まあとやかく言っていても仕方ないので、こういうことですよって部分を引用しておきます。
主人公が人間関係のあれこれについて吟味する過程も、一から真っ当にものごとに向き合う誠意みたいなものが滲み出ていて、AIだけど人間より人間してるな、と暖かくなるものです。人間社会で生きてきた経験がない分、ときに世界に慣れてしまった人々よりも丁寧な考えかたをするんですよね。
こんな感じです。おおよそ僕が「虹ヶ咲」1期とか「ポケモンSV」を好む理由が全部この小説に詰まっていて、心の本棚のいちばん目立つところに置いておきたいような、素敵な小説です。
4.赤朽葉家の伝説
ちょっと長くなりすぎたので巻きでいきましょう。
桜庭一樹先生はほんとに特有の世界観をお持ちで、創作系の料亭みたいなほかにない読み味の小説を書かれます。
本作は製鉄業で栄えた「赤朽葉家」の三代記的なお話。文庫本にして400ページを超えるちょっと長めの尺で中編の三本立てのような構成になっていて、2,3冊読み終えたような読後感が得られます(重いともいう)。
はじめの赤朽葉万葉の代には、昭和全盛期のノスタルジーやそこはかとない不思議さが漂います。科学や産業の発展の裏で、そういった伝統とか不思議さ、よくわからないもののそれはそれでいいもの、といったものたちが緩やかに死んでいく過程が描かれていくのです。この点は後述の『GOSICK』でも同じく「神話の時代の終わり」という言葉で扱われるテーマなのですが、『赤朽葉家』のそれは『GOSICK』の舞台である西洋やアメリカより少し遅いタイミングで起こるのが面白いところでした。
二代目の赤朽葉毛毬の時代は、昭和末期から平成初期にかけての熱気とか若者たちの過剰なまでの活力に包まれる一方で、強すぎる光が生んだ濃い影みたいに退廃的なところもあるといった、いかにもこの時期のイメージ通りの空気感で描かれます。最強の不良として学生時代までを送った毛毬が(もう先代の雰囲気と様変わりしすぎている)実体験を基にした不良漫画で大ヒットして一族を盛り立てていくというお話。文字から汗と濃い化粧の匂いが漂ってくるような、濃密な一編です。
三代目は赤朽葉瞳子の時代。いちばん現代に近いのにどことなくモノクロな、色彩に乏しい雰囲気が流れます。製鉄では保たなくなった赤朽葉家が鞍替えをはかりつつも緩やかに衰退していく過程の、その燃え尽きる少し前といった時期。やはり前二編とは一転して、創元推理文庫らしいミステリ調の一編になっています。「赤朽葉万葉は殺人者だったのか」という謎に迫るのですが、まあ皆まで言わんでおきます。
5.「GOSICK」シリーズ
久城とヴィクトリカはなかよしです。以上!
……角川文庫で展開されているキャラクターものとしては『氷菓』や「ハルチカ」に並んで有名なシリーズだと思います。凸凹コンビといいますか、人の情に疎いが天才的な頭脳を持つヴィクトリカと、情に厚いが典型的な「優等生」といったふうで柔軟さに欠けるところのある久城一弥が、互いの足りないところを補って、良いところを取り込んでいく過程が描かれます。今年は「TIGER&BUNNY」も見たのでコンビもの的にいい年でしたね。
凡夫として描かれ続けたヴィクトリカの兄・ブロワ警部が最終巻にして「兄」を見せるのもおれないちゃったよ。
はい、おわりです。ありがとうございました。
長すぎるだろ!!!!!
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