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【詩】慕情詩


人は孤独な生きものね
貴方はそう思うでしょう
花が咲いては散るように
誰もが幻想の中に永遠とわを見る

春、貴方と見たあの景色を
私は今も忘れられずにいます

移ろいゆく季節を愛でながら
肌に感じた風の冷たさを
遠くに響く誰かの笑い声を
まだ咲かない鶸色ひわいろの蕾を
雲は刻一刻と流れることをやめず
貴方は隣で微笑んだ

人は儚い生きものね
貴方はそう思うでしょう
去年のある日のあの夕暮れ
昨日とは違う帰路の道のり
貴方のありふれた日常の中に
私が居た足跡を
誰が見つけられるでしょう

新緑の川沿いに腰を下ろして
他愛もない会話をした
雨が降ればあてもなく歩いた
真っ白い鷺が飛んでいった
今度は晴れた日に寝転んで
本でも読もうと言いあった

人は我儘な生きものね
貴方はそう思うでしょう
梅雨も明けた夏の夜に
貴方は私の手を取って
錦色の世界に連れ出した

蒸し暑い人混みの中
どこまでも響く鐘の音
袂を連ねてただひたすらに
躍動のまま歩き続けた
来年も来きたいと私は言った



秋が来た
去年の紅葉は綺麗だった
これから訪れるまだ見ぬ景色が
あの場所には沢山あった
溢れていた
廃線の上を歩きながら
桜が満開になったらまた
必ず此処に来ようと約束した

冬になった
ただ忙しなく過ぎてゆく
そういえば一年が過ぎ去った
刻一刻と
しきは無常に移ろいゆく
果たして本当に
そこに確かにあったのでしょうか
壊れる音も聞こえないまま
静かに消えていったあの日々は
果たして本当に
この手の中にあったのでしょうか


人は
人はいつか死ぬ時
この刹那を覚えているのでしょうか
貴方が目を閉じる時
確かにあったこの僅かな世界を
果たして貴方は走馬灯のように
思い出せるのでしょうか
春の蕾と昼下がりを
夏の茹だるような夜に響く鐘の音を
秋の色鮮やかな道のりを
冬の寒さを温めあった一日を

しつこく脳裏に焼きついて
離れないで欲しいと思う私は
私は本当に孤独で儚く我儘で愚かな人間です
人は美しく優しく愛に溢れた人間だと
そうなりたいと願ってやまないただ一人の
愚かな人間です


もうすぐまた花が咲く季節がやってきます
どうか
どうかあの日々を
目を閉じる度に思い出して欲しいと
私はそう思いながら
今日も瞼を閉じたいと思います











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