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先週の米国株市場のテーマは、インフレと現実の危機になるかもしれない地政学リスク

マネックス証券 岡元兵八郎 (ハッチ)  2022/2/13

マーケットはニュースに事足りません。
先週S&P500は1.82%、ナスダック総合は2.18%それぞれ下落して終わりました。最初の3日間マーケットは堅調に推移し、S&P500は1.93%、ナスダックは2.78%上昇していたにも関わらずのことです。このせっかくのポジティブな流れを変えたのは引き続きインフレであり、地政学リスクがリスクでなく現実のものとなるかもしれないという展開でした。

先週木曜日の朝方発表された消費者物価指数は、市場予想の7.2%を上回り、7.5%と1982年以来40年振りの大幅上昇となりました。これを受け10年債利回りは一時2年半ぶりに2%を超え、3月のFOMCでは50ベーシスポイント(0.5%)の利上げの観測が高まりました。
また、セントルイス連銀のブラード総裁が7月までに100ベーシスポイント(1%)の大幅な利上げを支持すると発表したことで市場の下げに拍車をかけました。

金曜日になると、ウクライナ国境付近でのロシア軍の動きが活発化し、ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官は、ロシアがウクライナ侵攻をいつ開始されてもおかしくないとの見方を示しました。
これをうけ、WTI原油価格先物は金曜日に一時、前日比5ドル近く上昇、1バレル94.66ドルをつけました。94ドル台を付けたのは2014年9月末以来のことです。現在の原油の在庫は数年ぶりにタイトな状況であり、ロシアによるウクライナへの侵攻の際には、欧米がロシアへの経済制裁に動き、ロシアから欧州などへの原油や天然ガスの供給が滞り需給がひっ迫するため、原油価格は100ドルを超えてくるだろうと見られています。

これにより金曜日の株式市場ではシェブロン(CVX)やシュルンベルジェ(SLB)のような石油関連企業が上昇しています。また、ノースロップ・グラマン(NOC)やロッキード・マーチン(LMT)などの防衛関連企業の株も有事を連想する動きをとり上昇しました。

現在のウクライナ情勢は1962年のキューバ危機の再来か
ウクライナ情勢については、欧州の国々や米国とロシアとの外交的な交渉が行われています。最初にこぶしを挙げたプライドの高いロシアがここで妥協をするためには、ロシアが満足する形で解決しなければなりません。 北京ではオリンピックが行われていますが、もし軍事的な衝突を起こすのであれば、オリンピックが行われている期間に行う方がロシアにとっては都合が良いはずです。その方が、世界のアテンションが全てロシアに向かわないからです。
実際、ロシアは2008年にグルジア北部へ侵攻した歴史がありますが、この時は中国で夏季オリンピックが開催されていた最中のことでした。また、西側諸国がロシアのウクライナへの侵攻の可能性が高いと考えるのは、ロシアは2014年にウクライナの領土であったクリミア半島を併合してしまったという事実があるからです。

ロシアの副外務大臣は、現在の状況をソビエト連邦と米国が一歩間違えれば核戦争となっていたかもしれなかった1962年のキューバ危機に例えています。
もしも、ロシアがウクライナに侵攻した場合の株式市場への影響という意味では、このような事態は米国株の歴史をさかのぼってみてみると、一時的で限定的ではないかと考えられます。
最終的に株価を動かすのは企業業績だからです。

しかし、今回の紛争が現実のものとなってしまうと、新たな問題を作ってしまう可能性があります。ロシアにとってウクライナはかってウクライナ・ソビエト社会主義共和国と呼ばれており、旧ソビエト連邦とは非常に近い関係にありました。もし、ロシアがそのような背景をウクライナ侵攻の理由の一つとするとするならば、米国バイデン政権による牽制・抑止力が効かないと見た中国が台湾に対する態度をさらに強気になる可能性があるのではないかと考えています。

個人的なのですが、たまたま私の家ではこの週末、日本の戦争を経験した92歳の義理の父親から当時の話を聞く機会がありました。ロシアによるウクライナへの侵攻が起きると罪のない人々の命が失われることは避けられないでしょう。そのような不幸なことが起きないことを強く願いたいと思います。

(原稿は日本時間2022年2月13日 10:15時点)

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