同じ曲を練習しているのに、ギターが上手くならないのは湿気のせいだと思いたい。心なしか煙草の煙も重たく見える。相変わらず雨が振っている。

　ギターをおいて、崩れそうな灰を落とした。ラジオをつけた。明日くらいは晴れてもらわないと、財布が苦しい。

ー週末の天気は全国的に下り坂です。関東の東に低気圧があってー

　両手の指を組んで、背筋を伸ばす。この時間の天気予報は好きだ。声が綺麗で、やさしい。天気図なんか説明されても分からないけど。

ーラジオネーム『プリティナース』さんから。「いつも楽しく聞いています。恋人が大道芸人なので、長雨続きで困っています。明日こそ、晴れて欲しい。」だそうです。いつもお便りありがとうございます。残念ながら－

　雨。ラジオを消した。両指のストレッチをする。あくびが出た。もう一度ギターを抱えてソファに寝転がる。じゃらんと鳴らしてみる。

　「何弾いてるの？」

　同居人が顔を出してきた。今日は非番らしい。外は雨で、つまりお互い休みだ。

　「さあね。なんでしょうか。プリティナースさん。」

　同居人が顔をしかめた。恥ずかしいときにちょっと不細工な表情になるの可愛い。ぷうとふくれたままソファに無理矢理ねじりこんできた。足元に陣取った。

　「普段は器用なのに、ギターはちっともうまくなんないね！」

　怒ってる？　分からなかった。一緒に住んでても、他人はいつも不思議だ。

　「『ベリー　ストレンジ』」

　知らないふりして口ずさむと、同居人がちょっと嬉しそうな顔をした。この歌が好きらしい。何度やっても機嫌がよくなる。我ながら下手くそなのに、変わってる。もう一度ギターをじゃらんとならす。同居人がもたれかかってくる。ちょっと邪魔だ。続きを歌えと目で訴えてくる。リクエストの通りに、ビートルズを歌い始めた。いつもどおりの調子っぱずれで。

ショートショートNo.22

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