見出し画像

スプーンおばさん

幼少のころ大好きだった「スプーンおばさん」というアニメが配信されているのを見つけた。体が突然小さくなったり戻ったりするおばさんの話なのだが、スプーンほどの背丈になったおばさんにとっては家事をするのもスリリングで、とても心惹かれたものだ。ただ、このおばさんがそもそもなぜ小さくなってしまったのか、ずっとわからなかった。やっと長年の疑問が晴れると思い、ワクワクしながら第一話を観る。

しかし、どうも描かれていないのだ。わからない。調べてみると、原作にもないらしい。ある朝、いつもどおりドタバタし、いつものように夫婦の会話をする。夫が一瞬よそ見をしたすきに、突如としておばさんは小さくなったのだ。夫はそんなことにも気づかず、仕事へ出かけてしまう。

面白いのは、小さくなるやいなや、おばさんは洗濯が気になるのだ。小さくなったことに絶望している暇なんかない。「こんな体じゃ洗濯できないじゃない!」なんて言っている。なぜだか動物と会話ができるようになっているおばさんは、これまでよくしてきた飼い犬や野カラスに助けられてピンチを乗り越えていく。

洗濯ものとすったもんだしていると、夫が帰って来る音がする。ここでおばさんは初めて慌てる。小さな姿を亭主が見たら心配かけてしまう、大変だ、と。大騒ぎしているうち元に戻ったおばさんは、事なきを得てひとこと。「なんだかんだ、楽しい一日だったわ。」
これで、スプーンおばさんの第一話は終わってしまうのだ。

理不尽は、突然やってくる。得体のしれないそれがやってきても、来なくても、ただ自分の生活はある。家族の生活も、自分の役割も。おばさんは、雨風に打たれてなお立ちつづける野草のようにも見えるし、パートナーに連れ立つ雌ライオンのようにも見える。あるいは、自分の母にも。

魔法少女でなく、勇者でもなく、家族想いのスプーンおばさんがなぜ主人公だったのか、今ならわかる気がする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?