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砂漠、薔薇、硝子、楽園、(27)

feat.松尾友雪 》》》詳細 序文

》》物語概要 / 登場人物紹介

》》》26.
「夢ですよ。お忘れになればよろしい」

>27.ニキ_

ディスプレイは、仁綺の言葉のあと、再び静止した。


Redoing several processes.
Please wait…

仁綺は、ディスプレイを見つめた。通知音が鳴り、コンソールに白い文字列が、出力された。

> また すぐに眠るわ 会えてよかった _

「調子が良くないの?」

> わからない 目覚めるたびに違って
> 困るわね でもきっと 心配ない _

「そう。しばらく、家で休もうかと思ってるの。ときどき、来てもいい?」

> もちろん いつでもおいでなさい
> 眠っていたら ごめんなさいね _

「うん。眠っていても、大丈夫。一緒にいたいだけだから。早く、調子が戻るといいね」

> ええ _

ディスプレイの上部に付いているカメラへ、ちらりと目をやってから、仁綺は頭を巡らして、部屋の四隅のカメラが動作していることを確認した。

「見えている? アヤノは私が大人になったって」

> ええ あなたは美しい 変化を お楽しみなさい
> 髪は もう少し整えたほうがいいわ _

仁綺は、髪に手を当て、はねていた毛先を、右耳に掛けた。

「あと少し、伸ばしてから、アヤノに綺麗にしてもらうよ」

> そうね そうなさい
> _

「…あのね、…」

会話とは違う通知音が立て続けに鳴り、仁綺を遮った。


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Please DO NOT turn off power.

仁綺は、ミュールを軽く、つま先で整えてから、椅子の上で膝を抱えた。

何も、起こらない。

静かだった。

仁綺は、膝頭に左頬を押しつけて、目を閉じた。

「ただいま、《バーブシカ》…」




仁綺は長椅子の上で、午睡した。目が覚めると、ブランケットが掛けられてあった。簡単に畳んだブランケットを片手に、邸内を一周して、仁綺は部屋に戻り、また、眠った。夢見は、よくなかった。仁綺は目覚め、枕元に控えていたアヤノに渡された、ハンカチで涙を拭き、アヤノに促されるまま、ドレスに着替えて食堂に降り、食事をとって、デザートを選び、自室へ戻って入浴し、再び、天蓋に走らせた紗布に新しい花弁を散らしてある、ベッドへ横たわって、目を閉じた。

翌日から仁綺は、朝食を済ませたあとは新しく発表されていた論文類に目を通し、昼食を済ませたあとは大部屋で過ごし、アヤノが用意した焼菓子を夕方に食べたあとは散歩し、散歩から帰ると食事を取って入浴し、また論文類の続きを読んでから眠りにつく、穏やかな毎日を送った。屋敷の中庭には、薔薇が咲き乱れ、中庭に散歩に出る仁綺は、薔薇の香りを漂わせて、部屋へ帰った。ルリが目覚めている時間は長くなり、やがて、ルリは眠らなくなった。ルリの「容体」が安定したことを見届けたアヤノは、かねてから進めていた開発のために、ときどきはひとり、離れで過ごすようになった。

「アヤノはよくやってくれてる」

> ええ _

「もうすっかり大丈夫なの?」

> 落ち着いたみたいね
> 色々はっきりして 気分がいいわ あなたの声も よく聞こえる
> 明るくなった _

「そう? そうだね。よく休めている気がする」

仁綺は足を椅子の前に投げ出して、両手で伸びをした。

「やっぱり、根を詰めすぎていたんだな。よくないことも、続いていたし…たまにはお祭り騒ぎも、悪くない」

> お転婆ね アヤノは心配 しているようよ _

「うん。アヤノは、いつも私を大切にしてくれる。感謝しているよ」

>_

仁綺は、ディスプレイに向かって座り直した。

> 楽しかった? _

「うん。とても。毎日が、新しい扉を開くようだった」

仁綺は、答えてから、今日の服、水色の、シャーリングワンピースの裾を引っ張って膝を入れ、脚を抱えた。

「《ヂェードゥシカ》の話は、聞きたい?」

> いいえ
> 長いあいだ 道を違えて歩いてきてしまったもの 私にはもう 知らない人 ね _

「私が会ったほうの、イヅルの話は?」

> いいえ 話さずにおいて _

「そう。わかった」

> 楽しかったのね それがわかればいいの _

「楽しかったよ。とても」

仁綺は、微笑んだ。広間に反響した仁綺の声が、全く消えてしまうまで、ディスプレイは、動かなかった。

> 夢は? _

「まだ見るよ。とても怖い。ルリが頭に手を置いて、おまじないをしてくれたらいいのになと、思うよ」

> そうね私も できればいいのにと思う でも
> 駄目ね してあげられない _

「うん。とてもつらい」

> 私も つらい
> お願い しなかったの? _

「しなかった。二人だけの、秘密だし…ルリにしかできない、おまじないだもの」

> そう
> そうね 方法をなぞることに意味はない あなたの心に触れることができる人を お探しなさい
> 予知 は? _

「いつも、あるよ。とてもつらい。なくしようがないから、誰かに酷いことが起きないように、ただ祈って、静かに暮らすようにしてる」

> そう
>_

仁綺は、抱えた膝に、額をつけて、俯いたまま言った。

「ねえ、しばらく、一緒にここにいて、静かにしていてもいい?」

> もちろん _

頭を上げて返答に目を通し、そのまま床に視線を落とした仁綺は、ふと、唇を噛んで、すぐに、口を開いた。

「あのね、そんなに、たくさんの人に会ったわけじゃないよ。でも…ルリのことを想って生きている人は、まだまだ、たくさんいる」

>_

画面は、しばらく、動かなかった。

通知音が鳴った。

> アヤノに 聞いたのね? _

「うん…」

> そう お願いできる? _

仁綺は、ディスプレイを正面に、脚を下ろして、腿の上で両手を結んだ。

「本当に? アヤノは、私がしないことを願っているよ。《リセット》が私にしかできないということは、私が決心しなければ、《リセット》されないということだから」

> 嫌? _

「気分はよくない。でも、ルリはもう決めていて、叶えてあげられるのは、私だけなんだよね。私の習慣と感傷は、拒絶すべきだと言っている。私の理性と共感は、ルリにとって、私の決心を待つしかない状態は残酷だと、言っている。本当のところ、どうすべきか、わからない」

> ニキ 私がいなくなるわけじゃないのよ _

「ううん。ううん…ルリ、それはね、いなくなるということだよ」

> いいえ
> いいえ ニキ
> けれど わかってとは言わない
> 私は伝えた あなたを待つわ _

「時間をもらえる?」

> もちろん _

「きっと…私には、できてしまうと思う。けど、…もし、《リセット》するなら私は、バックアップがあるか訊かれても、ないと言うよ。本当に、本当の本当に、それでいいの?」

> いいの なにもかも忘れて 新しい自分で世界を見たい _

握った両手に、仁綺は力を込めた。

「…そう。わかった」

> ありがとう _

「……」

>_

広間は、静かだった。

何も起こらない。ただ、静かだった。

仁綺は握りしめていた手を解き、腿の下へ入れて、つま先でミュールを弄りながら、呟いた。

「私は、嘘をついてばかりだな…」

>_

静かだった。仁綺の脚をくすぐってスカートの生地が椅子に擦れる、微かな音が、そよ風のように、仁綺を包んでいた。

「ねえ、ルリ、…」

> 言ったろ 君は 嘘つきだ _

息を止め、瞬きながら、仁綺はゆっくりと呼吸を取り戻し、カーソルが白く点滅する、ディスプレイを、見つめた。



>次回予告_28.ニキ_

「いちいち、その調子で答え合わせをするの?」

》》》》op / ed

今日は明日、昨日になります。 パンではなく薔薇をたべます。 血ではなく、蜜をささげます。