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Travel with Betty ベティとの旅

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老犬ベティはすっかり出不精。生まれた時から一緒に日本各地を旅してきたけれど、これからは暖かい部屋でゆっくり過ごそう。思い出話でもしながら…
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Travel with Betty ベティとの旅 【Prologue はじめに】

アラスカに暮らし野生の動物を撮り続けた写真家.故.星野道夫は「今こうしているときにも、地球の裏側ではムースの大群が大移動していることをイメージすることが大事だ」と言った。荒涼とした海岸の先の海原を年老いた大きなヒゲクジラが目一杯の低めのジャンプをし、大きな飛沫を広範囲に飛び散らせながら着水する光景を見ることもなく、私は今裏地球の机でPCに向かっている。足元にはごろりと弛緩した愛犬ベティが横たわる。生まれて間もなく引き取り一緒に暮らしてきたこいつは見た目は違う生き物だが、同じ地

Travel with Betty ベティとの旅 【Traveling car moving living room 旅の車 は移動リビング 1 】

日が暮れてからしばらくはルーフレールに取り付けたオーニングの下で木々の稜線を見ながらウイスキーを飲っていたが、いつものリミッターが効き、ボトルをしまった。外にいる間は森の輪郭と夜空を見て、焚き火をつついて坐禅のように無になるか、あれこれ妄想思索する。寒さを感じる頃クルマに戻るわけだが、それからの夜は長い。電波がある場所ではタブレットの画面で世界とつながり、ない場所ではキーボードに向かい見てもらうあてのない文章を打ち込む。パウダーのコーヒーをオレンジのリキュールで溶かし、そこに

Travel with Betty ベティとの旅 【Traveling car moving living room 旅の車 は移動リビング 2】

このドイツの大型ワンボックスカーは3.7lのパワーで、高速走行も楽。張り付くように路面を駆る。道路が走る者に同じスペースを許すのなら、より大きい車内空間で移動したほうが快適だ。リビングのソファが移動する感じがいい。だから後席のシートはすべて外した。空いた長いスペースにはヘリノックスのコットがジャストサイズ。ハリのいい寝床には、低反発シートをひき、タオル地のシーツでくるむ。軽いダウンのコンフォーターで、スリーピングコーナーは完成。床には厚く柔らかなラグマット。そこに愛用のアーム

Travel with Betty ベティとの旅 【Kamakurayama is a neighborhood villa鎌 倉山はご近所別荘1 】

隙間から差し込む光に起こされ、カーテンを開けると、山並みの先の海原は9時の日差しを受け輝いていた。少し寝すぎた。足元では早く外に出たいと訴えるベティがまとわりつきクンクン言う。この20フィートのキャンピングトレーラーは、自宅のある鎌倉の町から数キロ離れた鎌倉山の月極駐車場に置いてある。旅に出るときはここまでクルマで来てジョイントして出て行くのだが、何にもない週末は自転車でやって来て、この中で過ごしたり、鎌倉山をベティと散策して過ごす。トレーラーには前の旅で買い込んだ食材の残り

Travel with Betty ベティとの旅 【Kamakurayama is a neighborhood villa鎌 倉山はご近所別荘 2】

ベティの犬種はドーベルマン・ピンシャー。決して緩むことなくいつも何かに気を配っている。時にそのガードマン体質が人に恐れられ、凶暴な獣のように扱われるが、飼っているこちらからすると、感情豊かで犬としての性質をバカ正直に継承している真面目な親友にしかおもえない。ドイツのドーベルマンさんがいろんな犬をかけ合わせて作り上げたときに、理想形としたのはそのバカ正直に飼い主を守る姿だったに違いない。この種ができてからはドイツ軍や各国の警察犬として活躍している。散歩のときには始終あちこちをク

Travel with Betty ベティとの旅 【Kamakurayama is a neighborhood villa鎌 倉山はご近所別荘 3】

鎌倉山と言っても、森林のトレイルを歩くわけではなく、ある実業家が開発した住宅地の道を歩くのである。ただしいわゆる住宅地の家並みではなく、一般的な区画割り住宅の数倍の大きさの屋敷が点在する景観を想像いただいた方がいい。遠く海を望む傾斜地を取り入れた巨大な敷地の生垣伝いに歩く。ほとんど歩く人には出会わない。ここには各界の成功者のほか、山を下った大船に映画の撮影所があったことから、かつては役者も居を構えた。春は目抜き通りが桜のトンネルのようになり、夏は育った樹々が日陰を作り、秋は色

Travel with Betty ベティとの旅 【alone ひとり】

君がいなくなる日のことを考えるようになった。日常の景色に当然のように居て、とりわけありがたさを実感せず、お互い共に過ごしている。それがいざいなくなったとしたら…。いつもの景色に空間が生まれる、来る日も来る日もそこが埋まることはない。クーンというため息めいた声も聞こえてこない。茶豆のような肉球の匂いも消える。そんな日がいずれは来るのだ。つい撫でようと隣に手を伸ばすだろうし、テレビのボリュームを下げて気配を伺ってみたりするだろうし、嫌だった匂いへの禁断症状も出るだろう。やがて喪失

Travel with Betty ベティとの旅 【雪の降る夜に On a snowy night】

すべての着色がリセットされ真の姿が現れる時、馬脚を現すか崇高な御姿を映すか真価が問われる。バックボーンなき一個人、一個体としての価値は理念、如何に在ろうとするかの想いのみ。功名、支配、虚勢、巧言令色、一切を排する。白く白く包み込み、天照に溶け流れ消える。地上のリセットができるなら、世界の各地を花のような結晶で包み、すべての利己を流し消えさせ給え。 When all the coloring is reset and a true figure appears, the re

Travel with Betty ベティとの旅 【思考への思考 1】Thinking about thinking

建長寺で座禅体験をしてみた。座布団を二つに折り、半跏座半眼、微動にも注意を払っていると気になるのは周囲の音。それに慣れると何を考えてみようかとか、考えようとしてみる。本当は無になるのが正しいのだが…。修行僧は生きることについてあらゆる方向から何年も何年も考え抜く。同じことになんども行き着いては新たな方向からアプローチし理論がどんどんシャープになって行く。道元の正法眼蔵、師を求め中国に渡り経典などは持たず手ぶらで帰国し、迷い無く一気に書き上げた。そこには理論にブレはなく、一切衆

Travel with Betty ベティとの旅 【思考への思考 2】Thinking about thinking

標高2000mを時速7kmで進むアルプス列車では10分でその景色に見慣れてしまう。二度とないかもしれないその時間を持て余すか味わい尽くすかは意識次第である。整ったWIFI環境でデバイスに目を落としひたすら受動態になるか、絵や写真のようではありながらも確実にその一つ一つのものたちが今を動いている、そこに目を凝らし思考につなげるか、どっちだ? デジタルデメンチア、つまりデジタル任せの思考停止脳がはびこり始めると、“肌感覚”は否定され「一般的には…」「そのポジションのネガティヴ要素

Travel with Betty ベティとの旅 【森の中の白子そしてアリたち Milt and ants in the forest】

大体グーグルマップはデフォルトを使うが、航空写真モードやグーグルアースで拡大気味にすると簡約化されることなくありのままが見えてくる。試しに房総半島をご覧いただき緑多いエリアを拡大するとタラの白子みたいな模様が浮き上がってくる。それはすべてゴルフ場。どこへ動かしても白子がスクリーンに登場する。地上を車で走っていてもゴルフ場の看板は目にするが、景色は森。だが、俯瞰するとその木々の向こうに広大な緑絨毯が敷き詰められているとは想像も及ばない。さらにマップを拡大すると宮殿のようなクラブ

Travel with Betty ベティとの旅 【多様時代の他容】Acceptance of others in the diversity era

余裕は人を寛大にする。窮している人を優しく見つめ、時には手を貸す。追い込み、詰め、さらに窮させることはしない。余裕というのは資産のことではない、心の置き方のことだ。お金はどこまであっても際限なく上を目指すようだ。心も上を目指すが、ある時点から他者が空気に変わる。他者は比較対象ではなく自分の周囲に在るもの、つまり存在として欠かすことができずありがたいものだが、別段意識せずに受け入れているもの、なのである。 不意の事故や災害に見舞われ不遇を余儀なくされている人は沢山いる。また個

Travel with Betty ベティとの旅 【有給休暇 〜 自分しかできない仕事はない しかしその人生は自分しかできない】Paid vacation ~ There is no work I can do only This life can only be my own

土日と平日の違いは、大半の人が働いているかいないかの違いで、それを気にするかしないかの違いなのである。会社が休んでもいいよと言ってるのに日本人がなかなか休まないのは、休んで街に出た時のスーツを着た人達だらけの外にいるような疎外感である。いっそ自然の中に行ってしまった方がその気持ちを味わわないで済むのだが、もう刷り込まれた平日という観念から逃れられず湖畔の眺めの中でも、仕事のことが頭から離れず、いっそ平日は働いておき、みんなと一緒に休もうということになる。 休みというのは与え

Travel with Betty ベティとの旅 【空気のいい書斎で】In a good air study room

住みよいところに人が暮らし道ができ、集落が繋がる。往き来が増えるとそこにインフラが敷かれる。便利なものはどんどん取り入れられ、そこにさらに人が集まってくる。 水や食料を確保しやすい場所、交易に出やすい湾を有した臨海部に人が集中するようになる。自ずと生活環境の拡大と引き換えに 土地固有の景観が失われていく。 平安の京都は燃料の木材を身近なところから確保したことで、東山界隈はハゲ山だったとか。 鴨川は便利なゴミ捨場で、桂川の流れの先には巨椋池がありゴミ累々、暗黒のような様相だった