Kamakura Betty

鎌倉は東京からわずか1時間。みんな夕方には上りの横須賀線に乗って帰ってしまうけれど、こ…

Kamakura Betty

鎌倉は東京からわずか1時間。みんな夕方には上りの横須賀線に乗って帰ってしまうけれど、この土地の朝を味わったことはありますか? まだしっとりする落ち葉を踏んで歩いた4000日から、とっておきの朝景色をお届けするワン♪ HP: https://fkan.blogspot.com/

マガジン

  • 鎌倉暁文庫

    ベティとの朝の逍遥で迷い込んだ脈絡のない書肆

  • Travel with Betty ベティとの旅

    老犬ベティはすっかり出不精。生まれた時から一緒に日本各地を旅してきたけれど、これからは暖かい部屋でゆっくり過ごそう。思い出話でもしながら…

  • 赤道直下の聖夜

    バリ島で迎えたクリスマスには幾つもの輝きがありました

最近の記事

第61夜 GO PROLOGUE

父はある時から散歩の時はネックストラップでGOPROを常に回していた。そして1週間前にあの世まで歩いて行ってしまった。葬儀を終え書斎を整理していると使い込んだGOPROが引き出しから出てきた。前に使っていたHERO8だ。メディアはそのまま入っていたので再生してみる。  そこに映っていたのは、 ゴミを片付けたり 人の犬を撫でたり 橋からせせらぎを眺め続けたり 生垣の花の香りに鼻を近づけたり 声をかけたりかけられたり 自販機で迷ったり 掲示板に近づいたままいつまでも読み終わらなか

    • 第60夜 フィールドワークの幻光

       翡翠、水晶、砂金…、日本には数多の宝が自然に放置されている。しかしそれらを取り合うことに血眼になる者はいない。理由は埋蔵量の乏しさだ。全ての時間を捧げてもそれで食べていけるほどの採掘量にはならないのだ。が、佐々木翠は違った。翠にとっては鉱物そのものではなく、それらが眠る大地が魅力的だったのだ。鉱物が掘り出される前の、鉱物が地表や川にあるその姿が最高なのだ。ときにはその場所は山奥だったり海岸だったりする。そして何日かけたらその姿に出会えるかは全く不明だ。翠は初めは中古車に寝泊

      • 第59夜 母娘托生

        「 今年の花は大きい気がする」 母と鶴岡八幡宮まで朝の散歩をするのが日課になって何年になるだろう。朝5時に二の鳥居で落ち合って段葛をゆっくり歩いて八幡宮を目指す。源氏池の島にある旗上弁財天への太鼓橋上から蓮を眺めるのが母のお気に入りだ。かつては源氏池には白の、参道を挟んだ平家池には赤の蓮の花が咲いていたそうだ。何もそんな血生臭い演出をしなくてもいいのにと思うが、天下双璧の両者には和のゆとりなどなかったのだろう。 「ひなちゃん、この大きな花もお昼になると閉じてしまうのよね。何故

        • 【短編小説集vol,11】鎌倉千一夜〜化粧坂情話

          第54夜 ハッセルの血脈 カメラマン中澤佐喜雄の掻痒感はなかなか惹かなかった。6×6というフォーマット、正方形の違和感、もどかしさ、どう切り取ってもいいという寛容性が許せない。そもそも目は左右についているわけで、首を直角に曲げるか腕枕で寝そべって見る場合も視界は長方形だ。窓、テレビ、新聞、雑誌、スマホ、PC…すべて目にするフレームも長方形。それが正方形への違和感の原因だ。  そして中判というサイズ。中庸といえばバランスの良いことだが、”中”というのはだいたいにおいて半端だ。一

        第61夜 GO PROLOGUE

        マガジン

        • 鎌倉暁文庫
          17本
        • Travel with Betty ベティとの旅
          17本
        • 赤道直下の聖夜
          20本

        記事

          第58夜 車窓のバレリーナ

          7:45大船通過 澄み切った青い空に引かれたデッサンの一筆のように 柏尾川にかかる電線に一羽の白鷺 プリマドンナの如き凛然 哲人の如き泰然 群れなき独尊 宙に屹立する気高き唯我 18:52 戸塚通過 いつも気になるバレエ教室らしき窓に少女 高く伸ばした腕  ニュアンスある指 滑らかな背筋  その曲線の延長の脚が輪を作る 薄暮に出現した印象派絵画 推定2:30レムスリープ ショパン プレリュードNo15 人が見当たらない海沿いの住宅地 日に焼けたレースのカーテン 中には背の

          第58夜 車窓のバレリーナ

          第57夜 愛されぬ理由

           生まれてこの方、愛を表現したことがない。いつも求愛に対して拒否を示してきた。誰かに委ねたり庇護されたりなんてもっぱらごめんだった。それでいい、人生に妥協なんてしたくないから1人でいいの。何の束縛もなく毎日を過ごすのはノーストレス。だから電車でわがままを言う子供を見るとウンザリする。 「ちゃんと親が躾けてよ、なだめてよ。パブリックな空間なんだから」 そんな気持ちを引きずったままモヤモヤして家に帰る。普通なら家族4人で住むようなマンションに1人で暮らしているから使っていない部屋

          第57夜 愛されぬ理由

          第56夜 化粧坂情話

           私は女子校の頃からショートカット。バスケ部だったこともありそうしてたんだけど、いつからか後輩から憧れられるようになり女子の園の中で私は唯一の男キャラだった。そう、宝塚の男役みたいなものね。周りから期待されるとそれに応えたい気持ちが大きくなって、私は男になった。だけど身体は歳と共にメリハリが出てきて、バスケをやっていたこともあり望んでもいないのにグラマーになってしまった。私はそんなのを強調したくないから、和服の着付けよろしく毎日胸を締め上げ、パンツスーツを着ている。だから家に

          第56夜 化粧坂情話

          第55夜 超肉眼フェーズ1

           AIでの画像表現が自在になり実際の視界はリアリティを欠き始めた。つまり自分の目で見ているものが自分で信じられない事態になったのだ。アウトドアでの視界はまだしも、窓越しの景色はモニターと区別がつかず、ガラスというフィルターが意識をそうさせた。  目の前の事象は網膜、水晶体、光の働きにより、分子で構成された物体を認識する。いわゆる肉眼と言われるものだ。AI画像は数多の事象を混在させフォルター越しに肉眼で視覚させるもの。だがそれはこの世に存在するもの、想像できる範囲のものに留まり

          第55夜 超肉眼フェーズ1

          第54夜 ハッセルの血脈

           カメラマン中澤佐喜雄の掻痒感はなかなか惹かなかった。6×6というフォーマット、正方形の違和感、もどかしさ、どう切り取ってもいいという寛容性が許せない。そもそも目は左右についているわけで、首を直角に曲げるか腕枕で寝そべって見る場合も視界は長方形だ。窓、テレビ、新聞、雑誌、スマホ、PC…すべて目にするフレームも長方形。それが正方形への違和感の原因だ。  そして中判というサイズ。中庸といえばバランスの良いことだが、”中”というのはだいたいにおいて半端だ。一般的に慣れている35mm

          第54夜 ハッセルの血脈

          【短編小説集vol,10】鎌倉千一夜〜花を創る

          第49夜 青龍と八朔坊や 1月末、朝の犬の散歩は13年続けてきたとはいえさすがに堪える。あちこち梅の花は咲いているが、このまだ薄暗い時間は氷点下。顔を上げると首元があらわになり冷えるのでうつむき加減に歩くと、東勝寺橋に差し掛かったところで視界に飛び込んでくるものがあった。それは周囲に負けず色鮮やかに際立っていた。鎌倉の地盤は岩盤、切り出せば鎌倉石という名になるのだが、この岩盤の上を舐めるように流れることから滑川と名付けられたこの川、街中の紅葉落葉をひと通り由比ヶ浜河口まで吐き

          【短編小説集vol,10】鎌倉千一夜〜花を創る

          第53夜 街灯の下でベティがキスをした

          街灯の下でベティがキスをした 垂れた耳した黒い老犬 眼球、関節、口蓋…ひとつひとつ体のパーツが機能を失い かつての身のこなしを見せることも無くなったが まだ毛艶が保たれている分、老いぼれては見えない 早朝の無駄吠えは増し 他はずっと寝ているけど むしろ愛着は増し、意識することも増えた 13年間、5000回を超える朝夕の散歩を共にしたが ベティの記憶には何が残っているのだろう 右隣の友として私は必要とされているのか 少し遅くなった夜の散歩 ベティはずっと我慢していたようで歩

          第53夜 街灯の下でベティがキスをした

          第52夜 花を創る

          「父さん、僕のお菓子が賞を取ったよ。それもフランスで最高のやつ」 息子が作っているのは和菓子だ。何の経緯でフランスなんだ? 「お客さんが言うには、茶席であちらの人がすごく興味を持ってくれて、フランスに持ち帰ったものが審査メンバーの目に留まったそうなんだ」 コンクールを待たずに全会一致。そんなのは前代未聞だが、どうやら息子の菓子は文句なしだったようだ。練切、こなし、外郎、雪平、鹿子、上用、姜、求肥、金団、葛…、いくつかの加工法の中から再現性の高いものを繰り出し具現化するのが和菓

          第52夜 花を創る

          第51夜 夢判断の日々

           覚醒 瞑想 睡眠、私たちは3つの状態で生きている。五感からインプットし続ける覚醒時間、脳内クラスターがそれらを整え続ける瞑想、目を閉じ耳は閉じられることのない睡眠状態。完全に外界とシャットアウトしたほうが効果的な気もするが、睡眠という弛緩した無防備状態の中、せめてものセンサーの役目なのだろう。つまり爆音では覚醒に戻るが、衝撃的な夢にはそれはない。はっと飛び起きるのは自身の呻き声のせいなのだ。  五感に関わらず脳は活動し続ける。コンピュータの記憶領域を断捨理する。デフラグメン

          第51夜 夢判断の日々

          第50夜 ツァイスの伏線

          「光のない世界は写るのか?  露光もスピードも及ばない全くの闇。 それを取り込むことは可能か?  ただ闇に向かってシャッターを切れば それは闇が写るだけのはず。 では闇には何もないのか? 光がないだけなら ライトを照らせば全ては浮かび上がる。 そうではない、例えば完全に塞いだブラックボックスの中にもうひとつ同じものを置きその中でシャッターを切る。 何もないものは写らない。 光が無ければそもそも写せない。 だが厳密に物理学に則れば、有る。 人間の目には見えないだけなのである。

          第50夜 ツァイスの伏線

          第49夜 青龍と八朔坊や

           1月末、朝の犬の散歩は13年続けてきたとはいえさすがに堪える。あちこち梅の花は咲いているが、このまだ薄暗い時間は氷点下。顔を上げると首元があらわになり冷えるのでうつむき加減に歩くと、東勝寺橋に差し掛かったところで視界に飛び込んでくるものがあった。それは周囲に負けず色鮮やかに際立っていた。鎌倉の地盤は岩盤、切り出せば鎌倉石という名になるのだが、この岩盤の上を舐めるように流れることから滑川と名付けられたこの川、街中の紅葉落葉をひと通り由比ヶ浜河口まで吐き出し切って、この時季には

          第49夜 青龍と八朔坊や

          【短編小説集vol,9】鎌倉千一夜〜あの日へネジを巻く

          第44夜 ライカの死角  PCに向き合いすぎて視力を失った。撮影したデジタル画像をレタッチする作業があまりに膨大で、熱中しすぎて油断していたのだ。全ての視界はぼんやり霞んで、生活するにもいちいちシルエットで判別するしかない状態だ。こんなことなら、きちんと狙い通りの値に設定して撮るようにすべきだった。最近の撮影は撮った先からコードで繋いだPCモニターに写すことになったため、クライアントが明るさだのアングルなどに都度都度口を出す。急かされるように次のカットを求められ、しかもデジ

          【短編小説集vol,9】鎌倉千一夜〜あの日へネジを巻く