鈴木大地

鈴木大地の「エゴ」と「キャプテンシー」

昨日、鈴木大地のFAによる楽天への移籍が発表された。

正直、悲しい。今とても悲しい。

こんなnoteを書いたり、

こんな翻訳をしてみたりするくらいには、大地が好き。

とはいえ、本人が決断したことは覆らないし、むしろ8年間の間、僕達に夢を与え続けてくれたこと、本当にありがとうと思う。ここ何年かのマリーンズではもっとも苦しかったといっていい2017年と2018年、確かに大地だけが心の支えだった時期があった。その思い出が消えることはないし、これからも頑張ってほしいなと、これからは他球団のファンとして、ロッテ戦以外での活躍を祈るばかりである。

それはそれとして、今回の大地のFAに関しては、「プロフェッショナルに必要なメンタル」について、もの凄く考えさせられたというか、感じ入る部分があった。今回は、それについて書きたいと思う。

「エゴ」の必要性

エゴという言葉は、日本では、わがまま、とか、自己中心的な気持ち、とか、悪い意味で取られることが多いし、実際に英語でもそういうニュアンスもある。ただ、それだけではなくて、「エゴが強い」「我が強い」ということは、特に競争が求められる世界の人間に対しては「自分を持っている」「自己主張ができる」というポジティブなニュアンスでも使われる言葉だ。

僕は、野球だけではなくてUKロックなども好きだし、最近マンガの「ブルージャイアント」や、リアリティショーの「PRODUCE101」にもはまっているのだけど、ああいうものを見ていてもそう思う。バンドにしろ、アイドルにしろ、スポーツにしろ、「集団競技」は、個人個人がどれだけ強くてもチームワークが強いチームに負けることがある。個人として傑出していなくても、チームを潤滑に回せる人間は、それだけでチームとしての結果に強く貢献することも多い。チームをまとめる能力というのは、それだけで高い市場価値を発揮するものだと思う。これは、きっと普通の職場でもそうなのではないだろうか。

一方で、「周りがうまくいくためなら自分は譲っても良い」「チームのためなら欠点がある自分は下がっていよう」と思うようなプレイヤーは、ほぼ活躍できていないといっても良いと思う。勝負の世界で、そこを自ら引いてしまう癖がつく事はかなり致命的な欠点になりうる。エゴが弱い選手が一流になることなど、ほぼないだろうと思う。

自己主張ができなければ、チャンスは回ってこないし、チャンスに遠慮していて勝てるほど、プロ野球は甘い世界ではないのだと思う。

鈴木大地の「キャプテンシー」と「エゴ」

さて、そこで鈴木大地である。鈴木大地という選手は、良くも悪くも真面目で優等生で優しくて、キャプテンシーが強いイメージがあるとおもう。実際、チームメイトやOBからも「良い奴」と語られることが多いし、パブリックイメージ通りの性格をしているのだろうと思う。

ただ、そのイメージとは別に、あまり語られない側面として、プロとして強烈な「エゴ」を持った選手でもあるのだろうというのが、何年も大地を見てきて感じてきたことだ。そして、キャプテンシーだけではなく、このエゴこそが、大地を育ててきたと思う。

話は大地のプロ入り前、東洋大学に所属していた頃に遡る。この頃、大地は当時東洋大学の監督だった高橋監督から、3年時に副キャプテンを任されている。東洋大学で初めてのことだ。

大学の体育会に所属していた方ならわかると思うが、大学の体育会、それも伝統ある部の上下関係の厳しさは、並大抵のものではない。少なくとも、4年生を差し置いて副キャプテンをするなどということはよほどのことがない限りあり得ない。そして、大地は、選手としては「よほどのこと」に当てはまる選手ではなかった。

当時の事を東洋大の高橋元監督は次のように語っている。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/35843?page=2

『肩はそこそこよかったけど、バッティングも走力も大学のレギュラーを張れる能力はなかった』
『自分の役どころが言われなくてもわかるんだね。いろんな選手見てきたけど、そういう子はいない。投手によってどの球を狙えばいいか、自分が何をすれば試合が好転するか、即座にわかる。だから『プロに行くより、ウチの監督になれ』って言ったんだけどな』

「大学のレギュラーを張れる能力はなかった」。大地の事を最大限評価し、大地自身からも恩師として慕われている高橋監督ですら大地をそう評していた。大地の進路に関しても、「プロ向きではない」と止めた話は有名だ。

「大地がレギュラーをしているようではチームは勝てない」「大地はレギュラークラスの能力はない」。どちらも、ネットなどでいまだによく見かける鈴木大地評だ。実際は、それを大学の時から思われ続けてきたことになる。

実際、同じ東洋大の藤岡貴裕が1位指名されたドラフトで鈴木大地が3位指名された際、「藤岡のバーター」という声も多く見られた。選手としての能力で言えば、それくらいの評価を受けていたという事だ。

でも、大地は周りの声を押し切って、プロに入った。

そして、プロに入るや、1年目からそこそこの結果を出し、2年目にはレギュラーをつかむことになった。

「今江(敏晃)の調子が上がらず、その穴埋めで出て20試合近く4割打った。それ以降は監督がどうしても(鈴木を)外したくなくて、井口(資仁)の守備位置を変えてまで使っています」(ロッテ担当記者)

先述の記事には、そんな記載もあった。

その結果、大卒3年目のシーズンに、鈴木大地はキャプテンに就任することになる。藤岡裕大や菅野のルーキーイヤーと同じ年齢での出来事。土肥や千隼が今シーズンキャプテンをやっていたようなものだ。

しかも、これは直訴によるもの。

https://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2014/02/02/kiji/K20140202007501370.html

直訴する前年、大卒二年目のシーズンは、初めてレギュラーに定着し、2割6分4厘本塁打5本という成績。この成績で、レギュラーを初めて取れた年のオフに、伊東監督に自らキャプテンにしてくれと直訴したということ。

今江や里崎、サブロー、井口、福浦などが選手としている中で、たった1年レギュラーを務めただけで、キャプテンになろうとした。

「レギュラーになる力はないと思った」と監督に思われながら上下関係が厳しい大学において3年生から副主将を務めたこともそう。大卒3年目でキャプテンに立候補したこともそう。

鈴木大地は、「用意が出来ていなくても走り出す」「分不相応と思われることでも挑戦してみる」ことが出来る勇気と、「自分なんかにはふさわしくない」かもしれなくても、自分がその役割を取りに行く、そんな強烈なエゴを持った選手なのではないだろうか。チームやお客さんに迷惑をかける事を恐れて自分の挑戦を止める選手なら、とてもではないが無理な行為だ。

そうしてキャプテンになった大地は、結局伊東監督が監督であり続ける間、毎年キャプテンに立候補し続け、伊東監督はそれを受け入れた。2016年に発売されたベースボールサミットの千葉ロッテマリーンズ特集号の中で、鈴木大地は、成績が悪くても自分のキャプテンへの立候補を受け入れてくれつづけた伊東監督への感謝の言葉を再三語っていた。その思いの強さに、実家に帰った際に子供の頃集めていたプロ野球カードの中から伊東監督の現役時代のカードを見つけ、以来財布の中に入れて持ち歩いていたというエピソードが書かれていたほどだ。自らのエゴにこたえてくれた伊東監督への思い入れというのは相当なものがあったようだ。

勿論、何年も任され続けたことの前提として、キャプテンシーの高さがあったことは間違いがないと思う。同期でもあり親友でもある益田は、ニッチローTVに出た時に、鈴木大地の口癖について、「●●はすごく良いから、××していこうぜ」と、誰かに注意をする時もかならず肯定すると語っていた。このあたりの考え方も、鈴木大地のキャプテンシーの大きな理由であると思う。遥か年上の福浦や里崎や、実際にポジションを奪うことになった井口、根元らからも認められていたことは実態が伴っていたことの証であろう。

受け入れる人がいてくれて、そして自身にはそれを達成する力もあった。ただ、チームに迷惑をかけるおそれがあっても自分にそれを課す(そして、課したからにはやり切る)という自己主張がなければ全て始まらなかったことは間違いがない。

すれ違うエゴとエゴ

さて、ここからは、大地がFAに至った背景に関する超個人的な考察である。この推察があっていたかどうかは、実際のところ分からない。先に書いておきたいのは、今回の件については、フロントも、首脳陣も、大地本人も、誰かが悪かったということを書きたいわけではないということ。それぞれが正しいと思うことをした結果、結果としてFA移籍という形にはなったものの、そこに間違いはなかったと僕は思っている。

まず、大地に勝るとも劣らぬエゴを持っている人物が、ロッテには二人いると思っている。一人は、自らの出番を追い求め、そして恩師との絆を求めて古巣を離れてロッテに来た涌井秀章。そしてもう一人が、他ならぬ井口資仁だと僕は思う。

井口監督が選手時代、というかホークス時代、入団時からメジャーに行くに至った経緯については、wikipediaなどを調べればすぐに出てくると思うので、ここでは割愛する。ただ一つ言えることは、井口という「選手」もまた、時に批判を受けてでも自分が正しいと思うことをやり切るだけの強烈なエゴを持っていたということ。

メジャーからまさかのロッテに帰ってきた経緯、帰ってきたあとにおそらくロッテと結んだと思われる契約についても、興味がある方は調べていただきたい。選手としての井口は9年間マリーンズにいたが、年棒が1億5000万円から変更されたのは引退年の1年間だけ。結果だけ見れば、帰国時の井口は8年12億円もの巨大契約を結んでいた形になる。(というより、実際は定額で引退するまでの契約だったのだろうと思う)

さらに、引退イヤーの井口は、引退を発表した後自らの意向で二軍へ行き、「引退試合まで備える」事にした。大敗を喫した2017年の出来事だったのでかえって話題にならなかったが、一軍の戦力不足は明白で、そんな中選手の希望で引退試合のために二軍にいる…ということが許されていたのも中々の話だったと思う。2017年のロッテに、引退年とはいえ井口より打てる打者がそんなに何枚もいたわけではない。これは推測ではあるけれども、「今後の事も見据えて」二軍で過ごしたことは、今となっては間違いないだろうと思う。

繰り返しになるが、選手のエゴを悪い事だとは全く思っていないし、それこそが一流選手になるための必須要素だとさえ思っている。そういう意味で、井口や、もう一人上げるとしたら涌井のような全国レベルで名前が知られている選手は、結果を残しているからこそエゴが強いというよりも、エゴが結果につながっている部分がかなり大きいと思っている。

さて、そんな井口が監督になり、陣営を整え2018年を戦った結果、おそらく一つの結論が見えてきたと思う。それは、「このチームは大地しか引っ張る選手がいない」ということ。監督就任と同時にキャプテン制を廃止したことを思うと、選手の頃からそう思っていた可能性もある。

結果、井口を中心とした首脳陣が目指したのは、「鈴木大地以外の選手もチームを引っ張れるようにする自覚を持たせること」だったと思う。このことについては、井口自身がインタビューで語っている。

https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/7985

こうした井口や首脳陣の方針、意見について、特に2019年の大地の発言は一貫して自身を奮い立たせようとするような言葉が続いている。

https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/baseball/npb/2019/07/24/___split_123/index.php

時には、「心が折れたら終わり」というかなりストレートなフレーズも口にしている。

ここで言いたいのは、「起用法に不満」という言葉とは、少し感情が違うのではないかという事。完全に外れているわけではないが、当たらずとも遠からずといったところか。その意味で言うと、あえてシーズン後に出たこの記事を引用させてもらいたい

https://www.tokyo-sports.co.jp/baseball/npb/1597854/


この記事に関しては、ロッテファンから多くの批判・否定の声がSNSを中心に上がっていたが、「軋轢」という言葉のチョイスが極端にセンセーショナルだっただけで、「立場の違い」というのは確かに存在していたと思うのだ。(そもそも、東スポは芸能社会関係は語る意味もないような嘘が多いが、野球関連に関してはそこまで見当はずれなメディアではないし)

それは、良いとか悪いとか、どちらが正しい、どちらが間違っているではなくて、お互いのエゴの方向性が微妙にズレた結果だと思っている。

高い身体能力などに恵まれないない中、自ら手を上げて役割を取ることで自身を前へ進めてきた鈴木大地と、鈴木大地に頼るチームの体質を変えるため他の選手に前に出るよう促し新しい色を打ち出したい井口監督を中心とした首脳陣と。

この違いは、確かにあったと思っている。

ただ、ここで、鈴木大地が「チームのためならば自分はおとなしくしておこうか」と思うような選手だったら、きっと「大学のレギュラーにも足りない」と言われているところから8年間で999安打放つような選手に鈴木大地がなっていくことは絶対に出来なかったし、30歳という脂ののった年齢でそのエゴを曲げてしまう選手だったら、おそらく本当にこれ以上の成長はないと思う。

逆に、ここで井口監督が「みんなが頼りにしている、求心力の有る大地を中心に少しずつ改善していくか」という思考の持ち主であったなら、おそらく井口監督が見ているうちにマリーンズが一気に強くなることはなかっただろうし、自身が監督のうちに結果を出すというエゴが井口監督になかったら、きっとそんな人にチームを変える力もなかったと思う。

繰り返すけれど、けして、大地と、井口監督もしくはその近辺の首脳陣が相いれなかったという話ではない。人格とプロとしてのスタンス、そして結果をそれぞれ混ぜて話をしてはいけないと思う。彼らの人間関係が良好ではなかったということではなく、プロとしてのエゴの部分が、いまこのタイミングでは完全に一致というわけにはいかなかったということなのではないかと思っている。

それに比べれば、守備位置うんぬんは些末な話というか、その結果として生まれてきた結果論の部分だと思っている。どちらかというとそこに至るプロセス。そして方針の部分で、それぞれ曲げられない部分があった。

これは、お互いにプロとしてのエゴを十分に持っていたからこそ起こったできごと。

そう思っている。

「分不相応」への挑戦

そして、今回のFA。鈴木大地は、楽天への移籍を表明した。

一時期は4年10億という報道も出ていたけれど、色々読むと、おそらくベースは「4年7億」。出来高を入れると10億になることもあるのかもしれない。「3年5億」が基本線だったらしいロッテよりは、確かに良い条件が出ていたと思う。

この金額や移籍を決断した事には、実に沢山の否定的なコメントも見られた。「それほどの選手ではない」という意見もあったし、「結局カネか」という意見も(絶対にこの手の意見はFAにはつきものだけど)出てきた。

僕はこの件には思っていることが二つあって、

一つは、「それほどの選手ではない」という評価をされていること自体が、鈴木大地のこれまで示してきた一番の価値=エゴの部分なのではないだろうか、ということ。

この言葉、先述の通り、東洋大学時代の高橋監督が既に大学時代の大地を評する言葉として語っているのだ。大学のレギュラーにさえ、見合う力はないように見えた。プロ入りも止めた。

プロになってからも、たった1年レギュラーをつかんだだけで、大卒3年目24歳の若さでキャプテンに立候補した。

全て、「無謀」だし、「それほどの実績はない」「それほどの力もない」と言われたところから、本人も自覚した上で「それでも、手を上げる」という事を選び続けてきたからこそ今があるし、その選び続けてきた結果が、8年という最短期間でのFA取得であり、FA年にキャリアハイを残すという結果であり、巨人と楽天による争奪戦が起きたという事実だったと思う。

キャプテンシーばかりで語られがちだけれど、この強烈なエゴこそが、凡庸にも満たなかったかもしれない選手を球団の顔にまで押し上げてきた。

それでいうと、今回この条件提示を選択したことは、今までと同じ、首尾一貫した大地らしい行動ともいえると思っている。

言いたい事のもう一つ、「結局カネか」という事に関しては、これは正直、FAをして他球団の話を聞いた時点で、そうならざるを得ない部分があるなというのが今回痛切に感じたところだ。

仮にもプロの勝負の世界で戦っている選手が、「〇年△億円」という高い提示を受けた時に、「そのような高い金額は受けられない、それに見合う働きはできないし」とは言えないし、それを心の中で思ったとしても、口に出して表に出したとたんにその選手は終わってしまうな…という事は改めて思った。

「自分はしょせん、これくらい」

と決めてしまう人が通用するほど、プロは甘い世界ではないのだと思う。

他球団の評価を聞いたからには、一番高い評価のところに行く。これは、守りに入らないためにも必要な事なのではないだろうか。結局は先ほどのエゴの話に近いのだけど、「俺が、俺が」という気持ちは絶対に必要なのではないだろうか。ある意味において、「カネくらいにビビっているようではプロでは通用しない」という事なのだと思う。

エゴイスト、募集

というわけで鈴木大地のエゴの話をずっと書いてきたけれども、最後に、来年以降のマリーンズについて少しだけ。

今までの話の延長線上になるけれど、いよいよ大地という強烈な「キャプテンシー」も、そして「エゴ」も消えた以上、もっともっと強烈なエゴをもった選手に出てきてほしいと思う。野望、自己主張、そして無謀なポジションに挑戦してくれる選手。

涌井を除くと、いまいるメンバーの中でエゴが表に出てくるくらい強めだなと感じるのは、種市と、中村奨吾。この二人はめちゃくちゃ気が強いなという感じがする。勿論他の選手も、きっと内心ではバチバチと思うところがあると思うのだけど、もっと表に出して、自分が出してしまったエゴに自分で引っ張られるような選手になってほしいと思う。

まずは自分の事、そして少しずつ結果を残して、年齢が上がって来たら中心に…というようなステップではなく、一息飛びに、自分の分を越えていそうな強いエゴを発揮してくれる選手。

幸い、今は、星野仙一さんをテレビで煽った鳥越コーチや、どの監督とも長続きしない吉井コーチらエゴの強い大人がたくさんいる。

そんな大人に気おされてビビっているのではなく、彼らのように、多少リスクを背負ってでも強気な発言をしていけるように。そんなロッテになってほしいという願いを持って、来年は敵として迎えることになる大地を、強いロッテが迎え撃ってくれることを、切に願ってやまないのであります。

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