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Dancing Zombiez/加持祈祷-7 #崖っぷちロックバンドHAUSNAILS

■結

バンドメンバーは家族のようなもの、兄弟みたいなもん。よく百戦錬磨のベテランバンドマン程口にしたがる言い回しで、流石におれみたいなピヨピヨのひよっこにはまだわからんが、おれはこの言い回しはあまり使いたないな、と思ってしまう。こんな奴らと家族だなんて思いたくもないし、また、家族なんかよりももっと、こう、なんだ、わからん。

いつかは誇りに思えるのだろうか、と思う。この、気が合うんだか合わんのだかわからん仲間達と今バンドをやっている事も、望まない力を持って生まれ、自分の出自やらなんやらに悩まされている事も。そのためにはバンドで売れる以外に方法はないと思い込んでいる。おれはまだ若く、考えが浅く、知恵もない阿呆だ。

なんて事を珍しく四人で小田急線に揺られながら、真っ暗な車窓を横目に考えていた。そろそろ代々木上原、また外の景色が見えてくる。新宿に着いたら遅くまで空いている店を探して飲み直すつもりだ。この時のおれ達の気持ちは珍しく同じで、ついさっき呆気なく集結した怪奇事件をなんとか受け入れたい、ただその一心だったのだろうと思う。

おれ達がバッタバッタと薙ぎ倒した哲学的ゾンビ達はその後、何事もなかったかのように目を醒まして帰って行った。やや打ちどころの悪かったものもいたようだが、大事にはならず、それぞれ(飲みすぎたかな……)程度にしか思っていなかったようだった。酒って便利。
そして肝心の邪魔柱様だが、おれ達が慌てて(元)ゾンビ達の様子を見に行っている間に、嘘のように消えていた。ライブハウスの店内には相変わらず鎮座ましましていたので、おそらく役割を終えて元に戻ったのだろう。いやそんな事ってある?


全てが(ほぼ)元通りになった世界の中から、まるで嘘のように、水島空白だけが消えていた。


「なんだったんだろうねえ、あれ」九野ちゃんが誰にともなく言う。誰も返事をしなかった。右隣で大きな溜め息をついたフッちゃんも、誰にともなく言った。
「おれ、明日実家帰るわ。かーちゃんに言ってくる、バンドやりてえから跡継げねえって」
もしゃもしゃの前髪で表情はよく見えないが、おれにはわかった気がした。いいんじゃね、と返すと、口角を上げて笑う。妙にオトコマエでムカつく。

もうすぐ新宿というところに差し掛かった時、左隣で煙草を吸いたそうにしていたキヨスミがふいにスマホの画面から目を上げ、こっちに液晶を向けてきた。
「ねえ、これ見て」そっちを見たおれ達は、少し青白い顔のキヨスミと目が合う。そしてその手に示された液晶の中には、こう書かれていた。

「また犠牲者、湖の中から児童の遺体発見 10歳の男の子 神奈川・軽都村」

キヨスミは、これ七年前の新聞だよ、と言って口を噤む。


そう言えば、水島空白は今年で十七歳になったと聞いた。


十七歳のヒップホップ界の新星は、自らを「十歳の誕生日に村の大きな湖の底に、沈められそうになった」と言っていた。


「…………え?」

九野ちゃんが、思わずというふうに声を上げる。白黒になった目をぱちくりさせるおれ達を見回して満足そうに口角を上げた意地の悪いベースボーカルは、やけっぱちのようにケタケタと笑った。


更に深まる真夏の夜の謎とベースボーカルの猟奇的な高笑いを乗せた小田急線は、勢いを増して土曜日の夜の闇を奔る。



(劇終)

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