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パリ軟禁日記 45日目 まだ見ぬ本の世界

2020/4/30(木)
 今日の天気は曇り時々雨。まだ見ぬ世界を夢見る、アンニュイな一日。19時になると運動のための外出ができるようになるのだけれど、同時刻、大雨が降り出した。気温も低い。降り止むのを待ってランニングをするとしたら、夕食が遅くなってしまう。今週は調子も良くないし、休むことにしよう。

 そういうわけで、今日は一歩もアパルトマンから出なかった。せいぜい数百歩しか歩いていないだろう。普段はランニングやら食料調達やら、一日一回は外の空気を吸うようにしていたので、完全な引きこもりは久々かもしれなかった。

 今なら、散歩に行かせてもらえない犬の気持ちが少し分かる気がする。

 リビングには見慣れた家具、室内干しの洗濯物立てがある。窓際の棚の上にはポスター、写真立て、友人からもらったクリスマスカード。毎日視界に入るものばかりだ。こうやって見慣れたものばかりを見ていたら、4月が終わってしまった。

 日記には毎日、この軟禁生活が始まってからの日付を書いているけれども、その数字は単なる記号になり、実感を持った意味が失われてしまっている。もはや昨日が今日ではなく、今日が明日ではない、ということしか表されていない。

 家の中で僕の知らない世界があるとすれば、壁の奥にある配管の世界と、まだ読み終わっていない本がある本棚くらいなものだ。こっちに引っ越す際に本はかなり整理した。必然的に今、本棚にあるのはこちらで読もうと思った選抜メンバーと、こちらで出会った本たち。全体の消化率はまだまだだ。せっかくなのでリストにしてみよう。

◆読みかけ
 “Jadis et Naguère”Paul Verlaine
 『なぜ世界は存在しないのか』マルクス・ガブリエル、 清水一浩訳
 『ガラス玉演技』ヘルマン・ヘッセ、高橋健二訳
 Dylan Thomas Omnibus
 尾崎放哉 句集
 中尾太一 詩集

◆未読
 “Le marin de Gibraltar”Marguerite Duras
 “Un barrage contre le Pacifique” Marguerite Duras
 “Les petits chevaux de Tarquinia” Marguerite Duras
 “Brave New World” Aldous Huxley
 “La Magie du Rangement”Marie Kondo
 “Le petit livre de l'ikigaï”Ken Mogi
 “Thank You, Jeeves” P.G. Wodehous
 『浮世の画家』カズオ・イシグロ、飛田茂雄訳
 『遠い山なみの光』カズオ・イシグロ、小野寺健訳
 『シルクロードの滑走路』黒木亮
 『フランス映画史の誘惑』中条省平
 『ジヴェルニーの食卓』原田マハ
 『楽園への道』マリオ・バルガス・リョサ、田村さと子訳
 岸田将幸 詩集

 目下、僕はカミュの『ペスト』と『ゲバラ日記』を読んでいるのだけれど、思いの外、途中で読むのをやめてしまっている作品が多いことに気がつく。詩集って一気に読む必要がないからついつい途中で箸を休めてしまう…。早く読み終わって次のステージに行かなくては。

 ちなみに、途中にある「Ken Mogi」(ケン・モジ)は脳科学者の茂木健一郎さんです。アルファベットだと長くてフランス人が読むづらくなるからでしょうね…。「コンマリ」と合わせてフランス語学習用に友人から譲り受けました。

 読み終わった本の中にはドフトエフスキーやらイスラム系の本。こうして見ると、良かれ悪しかれ、自分の興味がいろんな場所に散っているのがよく分かる。

 多種多様な世界の存在は、僕の見慣れたアパルトマンに少し奥行きを与えた気がした。

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