爆破ジャックと平凡ループ_3

如月新一「爆破ジャックと平凡ループ」#6-3周目 信じるなら今ですよ

「動くな! 動くとこの女を殺すからな!」

 そう言いながらバスジャック犯が咲子さんを引きずるように歩き、運転席の隣まで移動する。

「いいから、バスはこのまま走らせてろ」

 運転手への命令を聞き、このままだと一周目と同じく、桜木町駅で爆発してしまうぞ、と内心で舌を打つ。

「お前、なんでバスジャックが起こるって知っていたんだ? あいつの仲間なのか?」
「まさか。あの人質になっているのは、俺の元恋人ですよ」
「だったらなおのこと、グルなのかもしれないじゃないか」

「確かに」と苦笑し、「いや、彼女のことは少ししか恨んでませんよ」と返す。
「少しは恨んでるんだな」と探偵が苦笑した。

 俺は話すか話すまいか躊躇したが、どうせ話したところで信じてもらえないだろうし、と思って口を開いた。

「実は、このバスに乗るの三回目なんですよ」
「あかいくつバス、にか?」
「そうじゃなくて、この同じバスです。タイムループ? タイムリープ? なんていうのが正確なのかわからないんですけど、俺だけ繰り返しているんですよ」

 探偵がまじまじと俺の顔を見てくる。

「お前、正気か?」
「正気ですよ。信じてはもらえないですよね」
「時間を繰り返すなんて、そんな話を信じるわけないだろ」

 怪訝な顔をする探偵に、小声で説明を重ね、あぁそうだと思い出し、反対側の隅に座る男性に、「スマホの操作に気をつけて」と注意する。彼は、表情を強張らせたまま、「はぁ」と曖昧に頷いた。

「今のはなんなんだよ?」
「いや、彼が警察に連絡しようとした時に、スマホで撮影しちゃって、犯人が怒って咲子さんに怪我をさせちゃうんですよ」
「その予防をしたわけか」
「わけです。俺だけ繰り返しているから、あの二人が駆け落ちをしようとしていることも、あなたが探偵だってことも知っているんです。二周目で、駆け落ちカップルが指輪を犯人に渡す代わりに下ろしてもらえそうだったんですけど」
「けど?」
「あなたがタックルをして、うやむやになりました」

 探偵は腕を組み、低く唸ると「俺ならやりかねないな」と頷いた。

「で、そうこうしている間に、バスの前と後ろがパトカーに挟まれて、大爆発です」
「ちょっと待ってくれ、なんで大爆発するんだよ」
「バスジャック犯がテロ犯だからですよ」

 茶化すような口調で、「ニューヨークで起こったみたいなやつか?」と訊ねられ、「みたいなやつです」と俺は真面目に答える。

「信じてくれないですよね」
「半信半疑以下だ」

 ここで、セールストーク『限定法』を試してみる。

「あなたの言う通り、荒唐無稽かもしれません。でも、時間がありません。信じるなら今ですよ」

 割引は今日までです、というような限定されるような言い方をされると、人は弱い、というトークスキルなのだが、効くだろうか? と固唾を飲んで見守る。
 すると探偵は、渋い顔をしながらも、小さく頷いた。

「確かにな、お前が言っていることが当たってることは、気味が悪いけど事実だ」
「わかってもらえて嬉しいです」
「半信半疑以下だったのが六割信じる、になったくらいだけどな。でも、犯人は金が必要ってことだから、ニューヨークのテロ事件みたいなものとは別かもしれないぞ」

 探偵が探偵らしいことを口にしているぞ、と俺は密かに感動を覚えた。

「犯人の目的はなんだと思いますか?」
「わからねえ。でも、金で解決できる問題なんだろ? でも、情報不足だ。犯人がこのバスを狙って乗り込んで来たのか、偶然なのかもわからない。それに、どのくらいの金が必要なのかもな。お前は繰り返してるっつってるけど、このままだとどうなるんだよ?」
「このままだと、このバスは桜木町の駅前ターミナルまで向かいます。そこがパトカーで封鎖されて、自棄を起こした犯人が爆弾を爆発させて終わりです」
「終わって、お前だけはまたバスに乗るってか?」

 仰る通り、と俺は頷いた。

「バスジャック犯の目的は?」
「わかりません」
「あんまり仕事をしてないなあ」
「俺も必死にやってるんですよ。金が必要だってことまでしか」
「兎にも角にも聞いちまうのが早いか」

 そう言うと、探偵は「俺は立花《たちばな》だ」と今更自己紹介をしてきた。

「お前が時を繰り返すとか、バスが爆発するかは、簡単に信じられない。もし、万が一にもまた繰り返すことがあったら、俺に『新しくないフォルダ2』のことを知っている、俺から聞いたと話せ。多分、スムーズにことが運ぶ」

「『新しくないフォルダ2』ですね」と復唱する。

 任せたぞ、とでもいうように、探偵が「止まります」ボタンを押した。
 ピンポーンという軽快な音が車内に響く。

「誰だ!?」

 バスジャック犯の、苛立った声がバスの反対側から聞こえてくる。立花が右手を挙げていた。

「あんたの要求を教えてくれないか?」
「お前が黙っていることだよ」
「釣れないことを言うなよ。ほら、ストックホルム症候群ってあるだろ。仲良くなろうぜ」

 立花がそう言って立ち上がり、両手のひらをひらひらさせる。

「俺は仲良くなる気はねえよ」
「そんなこと言ったって、このバスはどうせ警報装置を運転手が作動させて、パトカーが追って来ていると思うぜ。一致団結した方がいいだろ」

 犯人が、運転手にそうなのか? と訊ねるように視線を向ける。ここからだと表情は見えないが、しどろもどろとしているのだろう。

「おい、運転手、もっとスピードを出せないのか?」

 犯人がそう言って、こちらから視線を外した、その瞬間だった。
 隅の席に座る正義漢が座席から飛び出した。
 立花を押しのけ、そのまま犯人を取り抑えようと揉み合っている。

「んだよテメエ」という犯人のくぐもった声が聞こえる。

 はっと我に返り、俺も加担しなければ、とダッシュする。

 正義漢が倒れる。どこかを刺されてしまったのかもしれない。そのことに恐怖を覚えながら、咲子さんだけでも救わなければ、と両手を伸ばす。
 が、爆音が響き渡った。

 バスはまた爆発した。

=====つづく
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